第23話 マツタケ料理を振る舞って絶賛される



 釣りをした湖から、ログハウスのある龍脈地へと帰ってきた。

 

 料理長キャロちゃんが、庭先で立ってた。


「キャロちゃん、美味しいマツタケ料理よろしく。レシピとかは、トマト君が調べてあげてね」


 お野菜眷属ちゃんたちは、私に敬礼すると、マツタケを持って家の中に入っていった。


「できるまで外で待とっか」

『は、はひ……』


 ぶるぶる、とフェルマァが体を恐怖で震わせている。


「もしかして……まだ怖い?」


 異世界陣にとってマツタケはアレルゲンである。

 食べるとアナフィラキシーショックを起こし、最悪死ぬ。


『め、め、滅相もごじゃいましぇん……! せ、聖女様がた、食べてもだ、だいじょじょうぶって言ってたので!』


 うわあ、めちゃくちゃびびってるよ、フェルマァ。


「私に気を遣って、無理に食べなくて良いからね」

『た、たべまひゅ……!』


 ややあって。

 キャロちゃん達が庭先にマツタケ料理を運んできた。


「ついさっきもご飯を食べてなかったかの……? 主よ……」

「美味しいものはいくら食べてもいいじゃない?」


 それにあまったらアイテムボックスに入れて、後で食べてもいいし。

 龍脈地ならいくら食べても太らないからね。


「どれも美味しそう……!」


 マツタケご飯、土瓶蒸し、マツタケのバター焼き、天ぷら……。

 まさに、マツタケづくし。料理からただようマツタケの良い匂い。


「みー!」「みゅー!」


 ふぇる太、ふぇる子のやんちゃ子フェンリルたちは、ぴょんぴょんとテーブルに飛び乗ろうとしてる。


「さて……お料理が完成したんだけど……どうする?」

「食べますとも!」


 人化したフェルマァが手を上げて叫ぶ。


「わたくしの聖女様への忠誠を示しますとも!」


 フェルマァがふるえながらフォークを握りしめる。

 私はマツタケご飯をしゃもじでよそって、お茶碗を渡す。

 

「はいどうぞ」

「いただきますっ!」


 フェルマァはスプーンで、マツタケご飯をひとすくいして、食べる。

 パクッ。もぐもぐ……。


「美味しいっ!」


 フェルマァは目を輝かせながら言う。

 ぶんぶんぶんぶん! と、尻尾をちぎれんばかりに振るっていた。


「とても美味しいです! キノコとは思えない歯ごたえ、そしてうま味! そして何より、鼻を抜けるこの凄まじく良い香り! たまりません!」


 はぐはぐはぐはぐ! とフェルマァのマツタケご飯を食べる手が止まらない。

 フェルマァが笑顔でご飯を食べてる。うん、良かった。


 喜んでくれて何よりだ。


「ふぶきも食べて」

「うむ。いただこう……ぱくっ」


 ふぶきのキツネ尻尾も、ふっさふっさと激しく揺れ動く。


「う、美味すぎるのじゃ! こんな美味しいキノコがこの世に存在するとは!!!!!」


 ふぶきもフェルマァ同様に、食べる手がとまらないようだ。


「しかも……おかしいのじゃ。体調が全然悪くならない! 殺戮の天使を食べているというのに! ど、どうなってるのじゃ……!」


 マツタケは異世界人にとってアレルゲンになっている。

 食べるとアナフィラキシーショックを起こし、死を招くはずだった。


 でも、大丈夫。

 なぜって?


「ここが、龍脈地だからね」

「ふぉーふー……ふぉふぉふぇふふぁ……?」


 フェルマァがほっぺたいっぱいにマツタケご飯を頬張りながら言う。

 子供達が自分も食べたい! とばかりに、脚にひっついてた。


「口の物、ちゃんと飲み込んでからしゃべって」

「ごくんっ。どういうことですか、龍脈地だから、とは?」


「龍脈地にいると、怪我にも病気にもならない。アナフィラキシーショックは、アレルギー反応だけど、でも病気の一種よ」


 なるほど! とふぶきが得心いったようにうなずく。


「龍脈地では病気にならないということは、アナフィラキシーショックも起きない! ということじゃな!」


 体の免疫の異常は立派な病気だ。

 脈地の魔力で、起こらないようにできる……と。


 全知全能インターネットで、この理屈が通るか調べてから出したので、料理を食べさせても心配してなかったけどね。


「龍脈地は主が許可したものしか入れない……。つまり、マツタケ料理は、主がいないと食べれないということじゃな」


「なるほど! 聖女様のおかげで、マツタケ料理が美味しく食べれるということですね! さすが聖女様ですっ!」


 まあ食べさせる相手はこの子らと、あとはまあ駄女神くらいか。

 ……ん?


 そういえば……最近魚のフライやマツタケ料理と、美味しいものを私が食べまくっているのに、何も言ってこないな、あいつ。


 自分も食べたい! とか。

 自分にも食べさせろ! とか。


 そんなふうにラインしてくるかと思ってたんだけどね。

 最近とんとラインしてこないじゃない。


「忙しいのかな、駄女神のやつ……」

 

 写メってラインで送ってやろう。

 そんでこっちに遊びに来るときに、マツタケ料理を食べさせてあげよう。


 なにせ湖の周りにはたくさんマツタケがあった。

 こっちの人間が普通に食べるとアナフィラキシーを起こしてしまうから、誰も採ろうとしなかった。


 だから、あんなにたくさんマツタケがあったのだ。

 なんてラッキーなんだろう。


 私は遠慮無く、マツタケを有効活用させて貰うとしよう。

 さて、私もマツタケご飯たべよう。


 料理長キャロちゃんがマツタケご飯をどんぶりについでくれる。

 ほっかほかのご飯に、マツタケがたっくさん入ってる。


「いただきます」


 ぱくっ。

 もぐもぐ……。


「美味いっ!」


 味付けはとてもシンプルだ。

 なにせマツタケが味よし、香りよし、の最高の具であり調味料だからね。


 ご飯にマツタケが会う会う。

 高級肉を食べてるかのごき、食感とうま味、それを炊きたてのご飯でかきこむ……。


「ああ、最高……」


 マツタケご飯を、マツタケのお吸い物で流し込むという贅沢。

 マツタケの風味が口いっぱいに広がる……ああ……美味しい……。


 キノコでこれだけ満足できるだなんて……やっぱりマツタケ、キノコの王様は違うなぁ……。

 これを好きなときに好きなだけ食べれる環境だなんて、最高すぎるっ。


 と浸っていたそのときだった。


「あ、主よ!」「聖女様! 大変です!」


 目を開けると……フェルマァとふぶきの体が光り輝いていた。


「え!? ど、どうしたの二人とも……?」 

「みー!」「みゅー!」「……!?」


 子フェンリルちゃんたちまで、光っていたっ。

 え、なに? 本当に何が起きたんだっ。


 こんな時は教えて全知全能インターネット


~~~~~~

長野 美香のフェルマァ

【レベル】2000

【新スキル】全状態異常耐性←new!


~~~~~~


「ふぇ、フェルマァ……ふぶきも、それに子フェンリルちゃんたちも……全状態異常耐性スキルを、新しくゲットしてるみたいよ」

「「えええええ!?」」


・全状態異常耐性(SS)

→あらゆる状態異常に対する耐性を得る


 全知全能インターネットで調べてみると、どうやらマツタケを食べても、アナフィラキシーを発症しなくなったことが判明した。


「龍脈地の外でもマツタケが食べれるようになったってことですね!」


「いやいや、重要なのはそこじゃないのじゃ! レベルが500もあがって、SS級スキルマで新たに獲得してる方がおかしいじゃろうがっ!」


「? そうですか? 聖女様のお力で、強くなったのです。そう決まってるじゃないですかっ!」


 全知全能インターネットで検索。

 ……うん。そうみたいだった。


「なんか、マツタケにレベルアップ効果があるみたい。異世界人限定だけどね」


 耐性スキルの獲得については、たとえば毒を耐えたり、麻痺を耐えたり等、特定の条件で生き延びることができれば、発現することがあるそうだ。


 毒キノコ(マツタケ)を食べて生きていた、ということで、耐性を得たという理屈らしい。


「全状態異常耐性の獲得には、死ぬほどの苦痛を味わう、もしくは臨死体験が必要じゃと伝え聞いておったのじゃが……」


「美味しいマツタケ料理を食べて、極楽にいるような気分になったじゃあないですかっ!」


「それが臨死体験? そんな……馬鹿な……」


 まあ、マツタケを食べてレベルアップ&超レアスキルを獲得できたのは事実。


「マツタケ美味しかった?」

「はいっ! とっても! 聖女様のおかげで、とても美味しい料理が食べられました! ありがとうございます!」


 にぱーっ、とフェルマァが笑う。

 子フェンリルちゃんたち、そしてふぶきも笑ってる。


 うん、もうそれで十分じゃん。

 いろいろツッコみたいことはある。

 

 けど美味しいものを食べる、皆笑顔になる、それで……いいじゃん。ね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る