第21話 揚げものを作って絶賛される



 湖で釣りあげた魚を、野菜の眷属(キャロちゃん)に捌いてもらい、お刺身にしてもあらった。

 

 湖畔にて、レジャーシートを広げて、私は刺身を食べる。

 しょう油にわさび、そこにお刺身をつけて……一口食べる。


「うまい!」


 異世界に召還されてから3年、私はお刺身なんて食べてこなかった。

 三年ぶりの刺身は本当においしい……。


 しかも魔物の魚は脂がのってて、おいしい。

 まるで大トロみたい。


 王魚はかなり大きくて、いくら食べても減らない。

 大トロ食べ放題だなんて……贅沢すぎる。


「美味い……!」

「うみゃ!」「みゃ!」「……!」


 子フェンリルたちもおいしそうにバクバクと、お刺身を食べている。


「あれ? フェルマァ、ふぶき、食べないの? まだいっぱいあるよ、おさしみ」


 成獣の魔物たちの食いつきはあんまり良くない。


「生魚なんて山に住む魔物にとっては主食。毎日食っておるからの」


 だから感動が薄かったわけか。


『も、申し訳ないです!』

「いやいや、謝ることないって、フェルマァ」

 

 しかし生魚食べ過ぎて飽き飽きしてるわけか、大人組は。

 魚は美味しいんだってこと、ちゃんと知って欲しいかも。

 

 生魚は食べ飽きている……。

 焼き魚も多分同様だろう。

 となると……アレか。


「キャロちゃん、トマト君、準備よろしく」


 トマトくん、キャロちゃんはうなずくと、作業に取りかかる。

 その間に小魚を捕るとしよう。


「まだ魚を釣るのかの?」

「うん、今度はちっちゃいお魚が欲しくってね」


 私はイクラを針に付けて湖に放り投げる。

 すぐに釣れた。


「また王魚っ!」

『聖女様はわたくしが守る! 絶対切断!』


 ズバンと一発で、王魚は死亡。

 アイテムボックス行きとなった。


 もう一回釣ろうとするも、同じ感じで失敗。


「魔物食いつきすぎでしょ……普通の魚どうしてつれないの?」

『この湖は王魚の住処ですからね』

 

 王魚まものに怯えて普通の小魚たちは形見の狭い思いをしてる訳か。


「なんじゃ、主よ。王魚じゃ不満なのか?」

「うん、普通のお魚がほしいんだ」


「なれば、魔物を殲滅するか?」

「いや、食べない分まで採る必要ないでしょ」


 現在魔物が邪魔で普通の魚を釣れない状況にあるわけだ。


「フェルマァ、私を乗せて湖の上につれてって。ふぶきは子フェンリルちゃんたちの面倒よろしく」

『はいっ! 喜んでっ!』


 フェルマァの背中に乗っかる。

 おお……もっふもふ……。お日様のとても良い匂いもする。


 このままフェルマァの背中の上で寝るのもあり。


 だが、それは後のお楽しみにしておこう。

 フェルマァは【空歩】スキルで飛び上がる。

 空を駆け上がり、湖の上空へとやってきた。


「適当に湖の周りを走って」


 私はアイテムボックスから【それ】を取り出しながら言う。


『わかりました。いきますっ!』


 フェルマァが湖上を走る間、私は【それ】をパラパラとまく。


「よし。終わり。戻って良いよ」

『…………………………そうですか』


 なんかものすっごく残念そうな声でフェルマァが言う。


『……もっと聖女様を乗せて走りたかったです……』


 犬か。可愛い犬め。

 よしよし、と私が背中を撫でる。


「今度、また一緒に散歩いこうね」

『! はい! はいっ! 喜んでっ!』


 ぶんぶんぶん! とフェルマァが尻尾を振る。

 

 私達は湖畔へと降り立つ。


「主は何をしていたのじゃ? 上から何かまいていたようじゃが」

「ん、ちょっとね。仕込み」


 私は釣り竿を手に取って、餌を湖に放り投げる。


「また魔物が連れるのではないかの?」

「さて、どうでしょう」


 ぐんっ、と釣り糸が引っ張られる。

 ざばんっ!


「よし、釣れた」


 釣り針には小魚が付いていた。

 私はそれを回収し、バケツ(トマトくんが置いてくれてた、有能)に入れる。


「キャロちゃん、魚さばいて開きにしておいて」


 料理長の眷属が釣った小魚を捌いて、内臓を取り出し、開きにする。

 

 私は次々と小魚を釣り上げていく。


「主はいったい何をしたのじゃ?」

「この湖に魔物よけの結界を構築したんだけど?」


「……………………は?」


 唖然とした表情のぶぶき。

 あれ、どうしたんだろう?


『け、結界!? 聖女様は結界を作られたのですか!?』

「うん、そうだけど……二人とも何驚いてるの……?」


 フェルマァは目を閉じる。


『魔物が湖底に沈んで動いておりません……』


 フェルマァはどうやら魔力探知スキルで魔物の位置を調べていたようだ。


「馬鹿な……ありえないのじゃ……こんな短時間で……」

「え、どういうこと?」


 ふぶきが説明する。


「結界の構築には、膨大な魔力と時間が必要なのは知っておるじゃろう?」


 いや知っておるじゃろうって言われても……。


「知らないけど」


 私をここに呼び出した愚かなクソ王子は、若い聖女こごみに最初からご執心のようだった。


 私のことは放置。それゆえに、この世界の教育を受けたことがなかった。


 だというのに、結界の構築という聖女のお役目を押しつけてくるし……。


『……ちょっとそのゲータ・ニィガとか言う国、滅ぼしてきていいですか?』

「いいよ、あなたがそんなことしないでも」


 駄女神曰く、もう一人の聖女である木曽川こごみが、ゲータ・ニィガを滅ぼすみたいだし。


 話を戻して……。

 私は全知全能インターネットを使って、結界について調べる。


「あ、ほんとだ……。聖女が三日三晩祈りを捧げ、貯めた魔力を使い、そこからさらに三日かけて結界を構築する……って書いてある」

「うむ。本来なら結界構築には六日かかる。しかも、聖女スキル持ちの人間にしかできぬことじゃ」


「私聖女スキルもってないし、結界作るのに一分もかかってない……」


 って、あれ?


「私のやってたのって、異常だった?」

「まあ、そうじゃな。異質じゃ」

『すごいです! 結界をこんな短時間で作ってしまわれるなんてっ!』


 ううん、そうだったんだ……。


「しかしどうやってこのような短時間で結界を?」

「塩まいた、以上」


「塩!? 塩で結界が作れるのかの!?」

「うん。ほら、塩ってお清めの力があるでしょ?」


 それで魔を退けるんだって、インターネット(全知全能インターネットに進化する前)に書いてあったのだ。


「なるほど……塩本来の清めの力を、聖女の力で増幅した。ゼロから結界を構築するより、早く結界ができたということか……ううむ、なんという発想力じゃ……」


 ふぶきって長く生きてるからか結構物知りだな。


 ややあって。


 魚をたくさん釣った。眷属たちには捌いて貰い、開きにしてもらっている。


「さ、調理を開始しましょう」


 目の前にはバーナーと鍋。

 倒れないようにしっかりと固定してる。


「ふぶき、子フェンリルらをしっかり抱っこしててね。危ないから」

「う、うむ……いったい何を煮ているのじゃ……?」


「煮てるんじゃないよ。揚げるんだよ」


 私は魚に卵、パン粉をまぶし、そして鍋に入れる。

 じゅぅううううう。


『美味しそうな香りです! 焼いた魚のにおいとはまた別!』


 ひくひく、と大人組が鼻を鳴らしてる。

 そして、さっ、と私は鍋から魚を回収。


 キッチンペーパーの上にのっけて、余計な油をとる。


「魚のフライの完成です」

「『ふ、フライ……!?』」


 あれ、なんで驚いてるんだろう。

 揚げ物って確かあったような……結構かっちかちで美味しくないけど。


「さ、どうぞお二人さん」


 フェルマァたちが恐る恐る魚のフライを食べる。

 サクッ。


「な、なんじゃぁ……! う、美味すぎる……!」

『サクッとした歯ごたえ! そして噛むとじゅわっと甘い油が! こんな美味しい魚料理は食べたことありません!』


 うんうん、二人とも喜んでくれたようだ。

 今子フェンリルちゃんらは私が抱っこしてる。


「みー!」「みゅー!」「……!」

「君らに油物は早いかな」

「「み~~~~~~~~!」」


 ペロッとたべおわってしまったフェルマァたち。


「あ、主ぃ~……その、もっとぉ~……」

「はいはいおかわりね」


 キャロちゃんは今一度みただけで、フライの作り方をマスターしたようだ。

 他の眷属たちと協力して、次々とフライを作っていく。


『はむはむむしゃむしゃ! お、おいしすぎまふ~……』


 涙を流しながらフェルマァがフライを食べている。

 どうやら相当お気に入りのようだ。


「フライってこの世界にも確かあったでしょ?」

「うむ……じゃが、油は貴重品なので、基本使い回す。ギドギドの油で作ったフライはまずくて仕方ないのじゃ」


 なるほどね。

 だから、日本製の油で作った美味しいフライに感動してるわけか。


 どれ、私も一口。さくっ。じゅわっ!

 うん……おいしい!


 このままでも十二分に美味しいけども……。

 アイテムボックスからソースを取り出す。


「ここにソースをかける!」


 さくっ! じゅわっ!

 うん! ソースの甘塩っぱいのがフライに合う合う!


『そ、それをわたくしにもかけて欲しいです!』

「わ、わしも! おねがいじゃっ!」


 二人がこぞって私に詰め寄ってくる。

 もうすっかりフライのおいしさの虜になっているようだ。


 ソースをかけてあげる。二人がフライを食べて、「『うまーーーーーい!』」と絶賛してくれたのだった。

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