第20話 湖に魚釣りに行く



 ある日のこと。

 ベッドの上で、私はゴロゴロしながら、暇つぶしにサブスクで旅番組を見ていた。


 私の隣にはふぇる美ちゃんがお座りしてる。

 わんぱく組と違って、この子はテレビやアニメなどに興味を持っているのだ。


 今やテレビ番組もサブスクで(ネットで)見れるんだから、良い時代になったものだ。


 さて。

 旅番組のなかで、出演者たちが川で釣りをしていた。

 釣った魚に塩を振って炭火で焼いて食べてる。


「みー!」「みゅー!」


 ふぇる太、ふぇる子がテレビ(チューナ無しテレビ)にくっついてる。

 焼き魚に興味をがあるようだ。


「おいしそう」

「み!」「みゅー!」「…………」


「食べてみたいね」

「「みー!」」


 KAmizonで魚は買える。

 でも、せっかくなら新鮮な魚でやってみたい。

 何だったら……釣りしてみたい。


「釣りか……フェルマァ」

『なんでございましょう』


 ぬぅ……とフェルマァが寝室の窓から、顔をのぞかせる。

 彼女は外でひなたぼっこをしていたのだ。


「このあたりで魚釣りできるようなとこない? 川とか池とか」

龍脈地ここを出てほど近い場所に、湖があります』


「へえ……! 湖。魚はいる?」

『はい、【魚】はおります』

 

 ならば、やることは決まった。


「湖まで案内と護衛お願いね。みんなでピクニックに行きましょう!」

「「みー……?」」


 子フェンリルたちが首をかしげる。


「皆でお弁当を持ってお散歩です」

「「みー……!」」


 まあお弁当といっても、現地で魚を釣って、そこで料理長キャロちゃんにお昼を作って貰おう。

 おにぎりとか作って貰うか。


 ということで、私達は近くの湖へと向かうことにした。


 目的地は龍脈地の外、つまり、魔物がうろつく場所だ。

 しかしこっちにはレベル1450のフェンリルがいる。


 どんな魔物が出てきても大体ワンパンできるから、安心して龍脈地の外でも出歩ける。


「みー!」「みゅーん!」


 ふぇる太、ふぇる子は、お散歩が楽しすぎるのか、ぴょんぴょと飛び跳ねている。

 元気な子犬たちだ。


 ややあって。


「ここがその湖ね」


 澄んだ水の、巨大な湖がそこにはあった。

 少しのぞき込んでみると、魚が泳いでいるのがわかる。


「主よ、釣りなんてしたことあるのかの? 聖女なのに」

「ちっちゃいときに川釣りはしたことあるよ」


 しっかり釣り道具も、KAmizonで購入済みだ。

 アイテムボックスから釣り道具を取り出す。

 竿、ウキ、そして……餌。


「なんじゃ、それ? そのオレンジのつぶつぶ?」


 ふぶきが物珍しそうに、私の手元を見てくる。

 ふぇる太、ふぇる子もふんふんと匂いを嗅いでる。


「これはイクラです。魚の卵……あ、こら。ふぇる太たち、食べちゃいけません。餌なんだから」

「みー!」「みゅー!」


 カップに入ったいくらに、ふぇる太たちが顔をツッコんで食べようとしていた。


 まあ別に乳離れしたから、食べてもいいんだけど、これは釣り用の餌なので食べないで欲しい。


「ペットシッター、やんちゃ組の面倒見て」

「わしは極光神の眷属なのに……」


 ぶつぶつと文句いいながらも、ふぶきはふぇる太たちを両脇にかかえる。


「さて……レッツ魚釣り」


 針にいくらを付けて、ぽいっと湖の中に投げ入れる。


『聖女様。魚をご所望でしたら、わたくしが湖に入って採ってきましょうか?』


「大丈夫、釣れるまでの時間を楽しむのも、釣りの醍醐味なんだ」


『なるほど……時間を楽しむですか』


 と、そのときだった。

 ぐんっ……!


『ひ、引いてます! 釣れたのではありませんかっ?』

「え、早くない……?」


 しかもなんか竿がものすごい、ぐんっ! と曲がっている。

 持ち上げようとして……。


「うわ、けっこー……重っ……!」


 でも持ち上がらない重さじゃない。

 ぐいっ、と持ち上げると……。


 ドパァアアアアアン!


「なんじゃあれぇ……!? デカすぎるじゃろぉお!?」


 空中には、私のつり上げた魚がいる。

 ……なんか、尋常じゃない大きさの魚……いや違う。


「魔物でしょあれ!」

『はい、魚です』


 フェルマァさんや、魚の魔物は魚って言わないよ……。


~~~~~~

王魚キング・フィッシュ

【レベル】400

~~~~~~


 鑑定スキルで調べたところによると、強化前のフェルマァと同じくらいの、凄いレベルの高い魔物だということが判明した。


 見た目は完全にマグロだ。

 湖にマグロって……。


「フェルマァ、お願いして良い?」

『お任せあれ……!』


 たんっ! とフェルマァがジャンプする。


『【絶対切断】!』


 ぐるんっ、とフェルマァが空中で一回転する。

 尻尾で王魚の頭を一刀両断してみせた。


「みみーー!」「みゅー!」「……!」


 子フェンリルたちは母親の勇士を目の当たりにして、大興奮していた。


「レベル400の強力な魔物を一撃……じゃと……? ますます強くなっておるじゃ無いかあやつ!」


 ふぶきは子フェンリルたちが湖に落ちない、しっかり抱っこしてる。

 フェルマァは鮮やかに着地。


 その後に湖に王魚が着水……する前に、アイテムボックスで回収しておいた。


「お疲れ、フェルマァ。ナイス」

『お褒めいただき光栄でございますっ!』


 ぶんぶんぶん! とフェルマァが尻尾をちぎれんばかりに振っている。


「みみみみ!」「みゅーん!」「……!」


 子フェンリルたちはお母さんの足下にかけつけて、ぴょんぴょんしていた。

 母親のかっこいいところを見て大興奮してるようだ。


 まあ、魔物だったけど、魚は魚。


「さっそくキャロちゃんにさばいてもらって、お刺身にして食べましょうか」


『「ええっ!?」』』


 フェルマァとふぶきが目をむいている。


「正気か!?」

『聖女様、お戯れはおよしください! 魔物を食べるなど!』


 ん……?


「どうしたの、二人とも。そんな焦って」

「主が魔物を食べる等と言う、危険な行為をしようとしてるからじゃ」


「魔物を食べるのが……危険な行為?」


 初耳だ。

 ということで、全知全能インターネットで検索。


 魔物を食べる行為は、【魔食まぐい】といって、この世界では禁忌とされているとのこと。


『魔物の体には、魔素とよばれる、食べると人体に悪影響を及ぼす物質が含まれているのです』

「成獣魔物は魔素を中和する器官がそなわっておるが、人間にはそれがないのじゃ」


 ちなみに幼獣の魔物も器官が未発達のため、食べられないらしい。


「私や子フェンリルちゃんたちは、魔物のお刺身が食べられないってことね」

「みー……」「みゅーん……」「…………」


 子フェンリルたちが明らかにしょんぼりしてる。

 なんとも可哀想だ。


 私も食べてみたいし、なんとかできないものか。


 アイテムボックスから王魚の死体を取り出す。


「こんな新鮮でおいしそうなのにね……」


 私はなんとなく鑑定スキルを使ってみる。

 ……あれ?


「なんか、食べれるみたいだよ」

「『は……?』」


「キャロちゃん、ちょっとさばいて見て」


 料理長にして眷属のにんじんのキャロちゃんがどこからともなく現れる。


 すぱんっ!

 王魚の一部をさばいて、紙皿に載せて、私に差し出してきた。


「ありがとう」


 ぱくっと。

 もぐもぐ……。


「う、」

『「う?」』

「うまい……!」

『「ええええ!?」』


 味的にはマグロだ。

 でも釣ったばかりなのでとても新鮮。


 お醤油も何もつけてないのに、とっても甘いのだ。

 いい油が載ってるから?


「皆も食べてどうぞ」


 私は紙皿を子フェンリルらの元におく。

 皆ははぐはぐ、と刺身を食べる。


「うみゃー!」「みゃーい!」「……!」


 どうやら子フェンリルらはお刺身を気に入ったようだ。

 キャロちゃんは目の前でマグロの解体ショーを行っている。


「ど、どうなっておるのじゃ……? 魔物は食べれぬはずなのに……」


全知全能インターネットで調べてみたんだけど、私が、魔物の体内に含まれてる魔素を完全に浄化していたらしいよ」


「魔素を中和じゃと!? いつの間に!」

「王魚を釣ったとき、正確には、王魚がイクラを食べたときみたい」


 全知全能インターネット曰く……。

 私が餌としてつけたイクラには、私の体内から漏れ出る、聖なる魔力が付与されていたようだ。


 聖なる魔力を帯びたイクラを食べた王魚の、体内の魔素が消え、結果、食べれるようになったと。


 ……なんか、いつの間にか私からも、龍脈地の聖なる魔力が出るようになっているらしい。

 神の力が増したからかな。


『す、すごいです……聖女様。魔物の魔素だけを中和するだなんて、前代未聞です』

「え、そうなの?」


『はい!』


 へえ……そうなんだ。


「魔物は美味とされて、美食家たちの間では、流行っておるのじゃ」

「は? 禁忌じゃないの?」


「うむ。じゃが、死ぬ可能性があるとしても、食べたいという輩はおおいそうじゃ」


 なにそれふぐみたい……。


「腕の良い料理人が長い年月をかけても、魔物の可食化を実現できなかった。それを……主は軽々とやってのけたのじゃ」

『さすがです、聖女様っ!』


 あれ、これって他の人にバレたらやばいんじゃ……。

 たとえば貴族とかの、美食家たちに。


 ……うん。黙っておこう。

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