第19話 母フェンリルを超強化させる
あくる日。
『では……聖女様……狩りにいってまいります……』
ログハウスの庭先にて。
フェルマァが私に頭を下げる。
「いってらっしゃい。子フェンリルちゃんズはシッターに任せてあるから、安心して狩りいってきてね」
『はい……』
ん?
フェルマァ少し元気ない……?
「どうしたの? 体調悪いなら狩りは休んだら?」
『い、いえ! 体調【は】万全です! 聖女様のおいしい食事と、この龍脈の魔力で!』
別に私がご飯を作ってるわけじゃあないけどね。
『いってまいります!』
たっ! とフェルマァが森の方へと走っていった。
体調【は】、っていうのが気になる……。
けどなぁ、他人の頭の中をのぞくみたいなの、ちょっと気が引ける。
本人が悩みを言ってくれるまで、待ってみよう。
さ、家でゴロゴロしよう。
ドアを開けると……。
「ぎゃー!」
……
リビングへ行くと、狐耳を生やした、青髪の美少女メイドが立っている。
ふぶきは私が眷属にして名前を付けた結果、人化を覚えたのだ。
「ふぇる太! ふぇる子! 尻尾を噛むなというとろうが!」
「みー!」「みゅー!」
子フェンリルやんちゃ組が、ふぶきのもふもふ狐尻尾に噛みついていた。
この二匹はどうやら、狩猟本能が強いのか、
「…………」
ちなみにふぇる美は部屋の隅で座っておトイレしていた。
犬用のトイレをKAmizonで購入しておいたのだ。
ふぇる美は良い子なので、すぐにトイレを覚えた。
問題はやんちゃ組二匹である。
トイレの場所を教えても、全然そこでしてくれない……。
「って、あれ?」
トイレのあとが、3つある。
「ねえふぶき? ふぇる太とふぇる子、犬用のトイレでちゃんと用足してた」
「うむ、ちゃんとトイレするように、しつけておいたぞ」
どういうことだろう。
「忘れたか? おぬしがわしにスキルを与えたのではないか」
「スキル……ああ、そういえば」
神アプリ《眷属になろう》で、ふぶきには【ペットシッター・ふぶき】という名前を付けた。
「その結果、わしは【
・
→自分より低ランクの魔物を従え、言うことを聞かせることができる。
「ありがとね、助かったよ」
「別に主のためにやったわけじゃないのじゃ! 偉大なる極光神さまのためなんじゃからね!」
「褒めてあげたんだから、素直に喜びなよ」
「ふんだ。別にうれしくないし」
「
「わーい♡ 主に褒められてうれしいのじゃー♡」
私がリビングの椅子に座ると、ふぇる美がぴょんっ、と私の膝の上に乗っかってくる。
「ん? ふぇる美……あんたちょっと大きくなってない?」
ふぇる太、ふぇる子もだ。
前より、一回りくらい大きくなってるような……。
さっきふぶきが、子フェンリルたちに尻尾噛まれて痛いって言ってたし……。
「ふぇる美、お口開けて」
ふぇる美のお口には可愛らしい乳歯が生えていたのだ。
「もしかして……もうお乳卒業? え、生まれてからそんなに経ってなくない?」
気になったので
どうやら、赤ちゃんフェンリルは、犬よりもっと成長速度が早いらしい。
三匹とも乳離れしてるそうだ。
「【人を噛むときは、強く噛まないこと】!」
「み!」「みゅ!」
ふぶきがふぇる太たちを教育している。
子フェンリルらは歯が生えたのだ、本気で噛まれたら血だらけになってしまう。
「よしよし、良い子じゃぞおぬしら」
「み!」がぶっ。
「みゅー!」がぶっ。
「なぜ噛むんじゃ!?」
それは君が人じゃないからでしょう?
でも血は出てないし、ふぇる太たちも手加減してるんじゃなかろうか。
「…………」
ふぇる美が外を見ている。
「どうしたの?」
ぴょん、とふぇる美が私の膝から降り、ドアをカリカリしてる。
「もしかしてフェルマァ帰ってきたの?」
私はふぇる美を抱っこしてドアを開ける。
フェルマァがこちらに向かって歩いていた。
……フェルマァが、とぼとぼと、こちらにやってくる。
「フェルマァ、何かあった?」
『聖女様……申し訳ありませんでした……!』
いきなりフェルマァが頭を下げてきた。
『これを見てください』
フェルマァは背中の風呂敷を地面に下ろす。
包みを開くと、フェルマァの狩ってきた魔物の死骸が入っていた。
「……10匹?」
あれ、おかしいな。
前はフェルマァ、100匹とか普通に狩ってきたような。
『最近……狩りが上手くいかないのです……』
フェルマァの話をまとめるとこうだ。
最近、狩れる魔物の数が減ってきてるとのこと。
原因として、白い大きなフェンリルを見ると、狩られる前に逃げるのだそうだ。
またその大きな体のせいで森の木々にぶつかってしまい、思うように狩りができない。
確かにフェルマァの体は大きく、毛皮は真っ白でとても美しい。
目立って仕方ない。
『偉大なる御方に名前を貰ったというのに……このていたらくじゃ! 聖女様の格を落としてしまいます!』
「いやいや、気にしないで」
『しかも! こないだは竜に擬態したキツネごときに負けてしまいました!』
あー……それ気にしてたんだ。この子。
『レベルではふぶきを下回り、狩りも下手だなんて……うう……眷属失格です……』
フェルマァが落ち込んでしまった。
「そんな深刻に考えなくてもいいのに」
まあでも、眷属が悩んでいるのだ。その悩みを解決してあげるのも、主人の勤めだろう。
「じゃあ、フェルマァを強くしてあげる」
『! ほんとですかっ!』
「うん。たぶん役職を付ければ、フェルマァもきっともっと強くなれるよ。だから落ち込まないで」
『聖女様ぁ~……うう~……お優しい~……ありがとうございます~……』
よしよし、と私はフェルマァをなでてあげる。
さて、じゃあなんて役職を付けようか。
戦士長とか?
狩人?
「なんかいいのないかしらっと」
私は
すると一つ、よさげなのがヒットした。
「ねえ、フェルマァ。こんな感じであなたに名前を付けたいと思うの」
【長野 美香のフェルマァ】
『せ、聖女様の御名をつけてくださるのですかっ?』
「え、うん。なんか知らないけど、こうするとめちゃくちゃ強化されるって、
フェルマァがなんか凄い勢いで尻尾を振っている。
『ぜひ! その名前で!』
よくわからないけど、まあ本人もこれで納得してるし……。
私はフェルマァに、【長野 美香のフェルマァ】と名前を付けて、眷属になろうに再登録した。
ゴオォオオオオオオオオオオオ!
瞬間、フェルマァの体が黄金の輝きを放ったのだ。
「え、なにこれ……?」
『力があふれ出ます! 今までに無いほどの……パワー! 抑えきれません!』
フェルマァは大きく口を開く。
びごぉお! と森に向かって……なんかビームを放った。
「はぁ……? ビーム……!?」
「何の騒ぎじゃい!」
ふぶきが子フェンリルちゃんらを連れてログハウスから出てくる。
黄金に輝く(さっきよりは光は弱くなった)母親を見て、子フェンリルちゃんらが目を輝かせてる。
「フェルマァに、私の名前を付けてあげたら、ビーム出せるようになった」
「! なるほど。おぬしの御名を眷属につけたから、眷属が超強化されたのじゃな」
「え、私の名前を付けただけだよ?」
「ただの名前じゃない、神の名前じゃ。強くなるに決まっておろうが」
そういや、私人間じゃなくて、半神なんだっけ……。
しかし、神の名前つけるだけで、眷属って強くなるんだ。
北海道産ってつくだけで、食べ物がおいしく見えるみたいな、そういう理屈だろうか。
「とりあえずフェルマァのレベルを調べて……って、おお、すごい」
~~~~~~
長野 美香のフェルマァ
【レベル】1450
【種族】
~~~~~~
フェルマァは元々レベル450だった。
それが、1000もレベルアップしてる。
しかも種族がフェンリルから、上位フェンリルになっていた。
「すさまじいの……四桁レベルなんて、魔王種を軽く凌駕しておるじゃないか」
気になるのはフェルマァの強さだ。
多分新しいスキルを覚えてるよね?
「おお、新しいスキルに【空歩】、【影分身】、【魔力探知】を覚えたって」
・空歩(S+)
→空を走ることができる
・影分身(S+)
→実体を伴った分身を作り出す
・魔力探知(SS)
→周囲の魔物の魔力を探知できる
『今ならそこの九尾にも勝てる! さぁ! わたくしと戦いなさい! こないだの雪辱を晴らさせてもらいますよ!』
「普通に嫌じゃー!」
逃げるふぶきを、追いかけ回すフェルマァ。
一瞬でフェルマァがふぶきに追いつき、押し倒す。
『ありがとうございます、聖女様のおかげで、さらに強くなれました! これであなた様のお役に立てます!』
なんにせよ、フェルマァの悩みが解決できて良かった。
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