第15話 楽園が完成する
お風呂から上がることにした。
けっこー長い間浸かっていたので、体はぽかぽかだ。
お酒が入ってることもあって、ふわふわとした幸せな気分になっている。
脱衣所へ行くと、トマト君が眷属を連れて待っていた。
「あら、トマトくん。どうしたの?」
「…………!」びしっ!
眷属達がタオルを差し出してくれた。
あ、そういえば着替え持ってくるの忘れていたな。
ありがたく、受け取っておく。
「せ、聖女様! すごいです! 眷属様から受け取ったこの布!」
布、というかタオルだ。
「とっっても、ふわふわです! こんなふわふわの布、生まれて初めて触りました!」
まあ柔軟剤とかこっちの世界ないからね。化学繊維も。
だから異世界のフェンリルが驚くのも無理は内。
「それは布じゃ無くてタオル。体や髪の水分をふくためのもの」
「なるほど……! これなら、肌を傷めることなく水分を吸い取れますね! すごい!」
フェルマァはこっちの人だから、日本製品にいちいち驚いてくれる。
なんか、見ていて面白い。
「あ! 美香様ドライヤーもKAmizonで買ったんすねぇ!」
脱衣所には鏡と、そして洗面台がついてる。
洗面台の上にはドライヤーが置いてあった。
「いや、私じゃないよ。多分トマトくんが買っといてくれたんだと思う」
トマトくんには、必要と思われるものは自由に買って良いと指示を出してる。
さっきここもまた龍脈地になっていると聞いたトマトくんが、髪を乾かす用にと、ドライヤーを購入しておいてくれたのだろう。
私とフェルマァは髪の毛をタオルでふいてる。
駄女神はドライヤーのスイッチを入れる。
フォオオオオオオン!
「!? 敵襲ですかっ!?」
ばっ! とフェルマァが四つん這いになって戦闘態勢を取る。
「違う違う。敵じゃあないよ。駄女神がドライヤーで髪を乾かしてる音」
私達は洗面台へと移動。
用意の良いことに、あと2台ドライヤーが置いてあった。
「これ。スイッチを押すとね。こっから熱風が出てくる」
フォオオオオオオン!
「この風、当たっても肌が火傷することがありません! 焦がすことなく、髪の毛を乾かせるなんて! すごい!」
フェルマァが驚く側で、私が自分の髪を乾かそうとする。
「わたくしに聖女様の御髪を乾かす権利をいただけないでしょうか!」
「いいの? ありがとう」
ぱぁ……!
……ん? なに、今の……?
なんか、フェルマァが輝いて見えたような……。錯覚かな。
「聖女様、お座りください!」
ぶんぶんぶん! とフェルマァが尻尾を激しくふりながら、洗面台の椅子を手でたたく。
ちょっと気になったけど、まあ、気のせいか。
私が椅子の上に座ると、フェルマァが髪の毛を乾かしてくれる。
楽だ……。
待ってる間暇だったので、子フェンリルたちの毛皮を、タオルで拭ってあげた。
「みー!」「みゅう!」「…………」
「皆毛皮、ふわふわになったねぇ」
シャンプー&リンスのおかげで、毛がもうふわっふわになった。
「聖女様、髪の毛長いのに、もう乾いてしまいました……! ドライヤーとは……本当に素晴らしい道具ですね!」
「ねー。あ、髪の毛乾かしてくれてありがと」
パァ……!
……ん? なんかまた光った……?
「美香さまー! 髪乾いたならかえりましょー! ワタシお腹へっちゃったっすぅ!」
「はいはい。フェルマァ、先に子フェンリルたち連れてログハウスに戻ってるから、髪の毛乾かしてから来てね」
ということで、駄女神と一緒にログハウスへと戻ることに。
ちょうど時刻は昼くらいだろうか。
確かにお腹すいてきた。
「ねえ、駄女神」
「なんすか?」
「なんかね、さっきフェルマァが輝いてたの。心当たりない?」
「眷属が神に奉仕したから、報酬が支払われたんじゃないっすか?」
「神に……奉仕? 報酬……?」
「そっす。眷属は神に奉仕することで、見返りとして力をもらうんす」
「力って?」
「魔力じゃねーっすか?」
「あ、なるほど……合点がいったわ」
少し不思議だったのだ。
フェルマァは人化にはかなり魔力を消費すると言っていた。
しかし、フェルマァはさっきからずっと人の姿を維持している。
なるほど、
だから、人化を維持し続けられたってことか。
思い返せば、フェルマァが輝いていた時は、私に何かして、私がお礼を言っていたときだったな。
「それって野菜の眷属たちにも当てはまるよね?」
「もちろんっす。彼らは君から魔力を貰い続けてるすよ。だから、あの子たちあんなちっちゃいけど、そこらの高ランク冒険者たちより全然強いっす」
「そ、そうなんだ……」
私の肩の上にトマトくんが座っている。
むきっ、と両腕を曲げる。
こんなちっさいのに、高ランク冒険者を凌駕するんだ……。
ややあって。
ログハウスに到着すると、庭先にテーブルが置かれていた。
キャンプ用のテーブルだ。
その上には寸胴鍋と、かごに入ったバゲット。
「鍋の隣のそれ……にんじんっすか?」
「そう、にんじんの眷属。【料理長・キャロちゃん】」
キャロちゃん。頭頂部に、料理帽子をかぶっている。
「キャロちゃん、お昼ご飯作っててくれたんだ。ありがとう」
「…………」てれてれ。
「しかもこれは……シチュー?」
「…………」こくんっ。
鍋からはおいしそうな匂いが漂ってきている。
濃厚なチーズの匂いだ……。食欲をそそる。
「みー!」「みゅー!」「……!」
子フェンリルたちがこちらに駆け寄ってくる。
そして、テーブルの脚にしがみついた。
どうやらこの子たちもこの匂いにつられてきたようだ。
「待ちなさいっ。母を置いてくのではありません!」
人間姿のフェルマァがこちらに駆け寄ってくる。
「フェルマァ、風呂上がりくらい、ラフな格好でいいのに」
フェルマァはびしっ、と侍女服をみにまとっていた。
ちなみに私はKAmizonで買ったスウェットの上に、白のダウンを羽織っている。
「いえ、今は業務時間中ですので」
「あ、そう」
まあ本人がいいっていうなら、否定はしない。
「みみみー!」「みゅみゅー!」「……!」
ふぇる太たちはシチューを食べたくて仕方ない様子だ。
「駄目です! これは、女神様のお食事なのです! 我々が食べていいものじゃあないの!」
「「み~~~~~~~~!?」」
絶望の表情を浮かべる子フェンリルたち。
「いいっていいって。皆で食べましょ。その方がおいしいし」
「「み~~~~~~~~~~♡」」
ふぇる太たちが私の脚にスリスリ頬ずりしてきた。可愛い。
「あれ、シチュー食って大丈夫かな。犬ってタマネギ食べさせちゃ駄目なんじゃ」
「あれ? なんか、ここなら大丈夫って書いてある……?」
ここならって、どういうこと?
また、全知全能が大丈夫っていうなら大丈夫か。
私達が椅子に座る。
子フェンリルたちは足下にお座りしてる。
眷属達が器にシチューを注いで出してくれた。
「じゃ、いただきまーす」
「「いただきます!」」「「みゅ!」」「…………!」
料理長キャロちゃんの作ったシチューを一口すする……。
「ん~! うまいっ!」
「とても濃厚! こんなにクリーミーなシチュー、初めて食べましたっ!」
がっがっがっ、とフェルマァがシチューにがっつく。
「うんっめぇえ~~~! 特に、野菜! あまくてうまー! さっすが龍脈地産のお野菜! 普通の野菜よりも美味いっすー!」
私達人はシチューを夢中で食べる。
「キャロちゃん、おかわりちょうだい」
「み~!」「みゅー!」
ふぇる太、ふぇる子もおかわりを要望していた。
ほんと元気ねぇこの子達。
「おいしいです! 特にこのパン、最高です!」
フェルマァがシチューではなく、バゲットを食べて、声を張り上げる。
「こんなにふわっふわなパンは初めてです!」
「あー、こっちのパンって基本かったいものね」
「はい! 中なはふわふわ、外はかりっとしてて、最高です!」
「ふふ、このバターをつけるともっと美味しいわよ」
私はテーブルにあったバターを少しとって、バゲットに塗る。
パンはトーストしてあり、その熱でバターがとろりと溶ける。
もう1つ作って、片方をフェルマァに渡す。
私たちは焼きたてバケットを食べる。
「「美味しいー!」」
フェルマァが尻尾を千切れんばかりに振るっている。
いや、わかる。熱々のパンにバターを塗って食べる。
それだけでめちゃくちゃ美味しい。
しかもそこに濃厚シチューを流し込む。うますぎる。
「美味しい料理がたくさん食べられる……ああ、聖女さま。ここが、神のおわす、天の国なのですね……」
「おおげさねえ」
……しかしこれだけ食べてたら太るかも。
やばい。
「らいひょーふですよぉ〜」
駄女神が口の中を食べ物でいっぱいにしてる。
「どういうこと?」
「龍脈地は病気になりません。なので、肥満にもならないし、二日酔いにもならないですよぉう」
「!? そ、うなの?」
「はい。肥満は病気扱いなのでー」
なんて、こと……。
じゃあここいくら食べても飲んでも、健康被害が出ないってこと?
「ここが楽園だったか……」
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