第14話 昼間から温泉に入ってまったりする
脱衣所で服を脱ぎ、私はできたばかりの露天風呂へと、足を踏み入れた。
「おおー! しっかり露天風呂ー! 異世界とは思えないクオリティっすねえ!」
私の隣には体にタオルを巻いた駄女神。
服で隠れていたけど、この子脱ぐと結構、胸が大きかった。
「聖女様に相応しい、美しい湯浴み場所ですね」
フェルマァが人間姿でいう。
フェンリル姿よりも、こっちの方が、洗う面積が少ないため、、変身してるそうだ。
「って、あれ? 子フェンリルたちは?」
脱衣所にはいたはずなんだけど。
すると、眷属たちが、ふぇる太、ふぇる子を連れてやってくる。
「みー!」「みゅー!」「…………」
「泥だらけじゃあないですかっ。もう、何をしてたのあなたたちっ!」
ふぇる太、ふぇる子の毛皮にべったり泥がついていた。
ふぇる美も汚れているが、一部分くらいである。
「みー!」
「『どろんこあそびたーのしー!』ですって?」
そういえば、お湯が吹き出した時に、温泉周囲の地面は泥だらけになっていたな。
「ふぇる美はどうやら二人を止めようとして、巻き込まれたようです」
「ふぇる美ちゃん……苦労人ね。フェンリルだけど」
さて。
ドロドロ状態の子フェンリルたちが目の前にいる。
こんな状態で湯船に浸けるわけにはいかない。
「とりあえず、体洗いましょうか」
露天風呂の外周には目隠しが建てられてる。
そして、脱衣所を出てすぐ左側の壁には……。
「え!? ちょ!? シャワーがついてるじゃあないっすかぁ!?」
駄女神が指差す先には、日本の風呂場ではお馴染みの、シャワーが設置してあった。
「いやでもまさか、動かないっすよねぇ。異世界でシャワーなんて」
駄女神がシャワーの栓をひねる。
シャアアアアアアア!
「ひぃやぁあああああ! 冷水ぃいいいいいいい!」
駄女神が冷水シャワーを頭からかぶって、悲鳴をあげていた。
「温度調節しなさいよ」
ツマミを回すと、シャワーからはお湯が出るようになった。
「あ、お湯になったっす……」
「ど、どうなってるのですか、これ!?」
フェルマァもまた目をむいていた。
「この棒から、お湯が散布されております! 魔法の杖かなにかでしょうか……?」
「杖じゃあないよ。これはシャワー。こっから勢いよく、お湯が出るの」
私は駄女神にシャワーをぶっかける。
「こんな感じでピンポイントに髪や体を洗えるでしょう?」
「なるほど! なんと便利な! こんな便利なものが存在するとは……わたくし、知りませんでした!」
そうでしょうとも。地球産なのだから。
「シャワーなんてどうやって作ったんすか?」
「
サツマくんはとても器用だ。
このお風呂場も、シャワーも、作ってしまったのだから。
ちなみに素材はKAmizonでトマトくんが買ってくれた。
私がやったのは《眷属になろう》で温度調整機能つけたくらい。
「さ、ふぇる太、ふぇる子。キレイキレイしましょうね」
「みー!」「みゅー!」
逃げようとする二匹を、母親が捕まえる。
「フェルマァ、そのまま抱っこしてて」
「かしこまりました。……それは、なんですか?」
私はシャワーの脇においてあった、ボトルを手に取る。
「これはシャンプー」
「しゃん、ぷー?」
文明レベルが、現代日本と比べてはるかに劣るため、シャンプーも存在しないのである。
体を洗うときは基本石鹸。しかも石鹸はものすごく高価なのだ(ネット調べ)。
「液体の石鹸のこと。ほら、こうやって手にとって、わしゃわしゃすると」
「!? ふぇ、ふぇる太が泡まみれに!」
ふぇる太の汚れた毛皮をシャンプーしていく。
ふぇる太は途中ジタバタ暴れていたが、次第におとなしくなった。
「で、仕上げにシャワーで泡を流すと……」
「!? あ、あれだけ泥だらけだったのに、毛皮が綺麗になりました! しかも……ほのかにいい香りがします!?」
ふぇる太の毛皮が艶々のぴっかぴかになっていた。
ふぇる子が「みゅう! みゅう!」と驚いたように吠えていた。
「す、すごい……こんなに泡立ちやすい石鹸、初めて見ました。しかも、こんなに綺麗に汚れが取れるなんて……!」
「じゃ、残りの子らも洗っちゃおうか」
「はい!」
ややあって。
「フェルマァ、すごい綺麗になったね」
フェルマァの毛皮がシャンプー&リンスの効果でまるで宝石みたいに輝いてる。
「こんなに綺麗に毛繕いができるだなんて……! シャンプーとは、凄いですね!」
フェルマァも女性だから、綺麗になったことを喜んでるようだ。
「はぁー! 温泉きーんもちぃいいいいいい!」
駄女神は自分の体を洗って、さっさと湯船に直行していたのだ。まあいいけど。
「じゃ、湯船に行きましょう」
「はい、聖女様!」
フェルマァは子フェンリル三匹を抱っこしながら、私の後ろをついてくる。
私たちはタオルを脱いで、湯船に浸かる。
ああ……きもちい……。
やっぱり、大きな湯船は違うなぁ。手足が伸ばせて、すごく……いい……。
「最高に気持ちいいです……」「みー……」「みゅ……」「…………」
フェンリル親子も、目を閉じて、温泉に文字通り浸っていた。
ちなもいに子どもたちが沈まないように、フェルマァは抱っこしてる。
「しかし……本当に、人間の体で入る風呂は……いいですね……。毛皮が無い分……肌に、温かさが、直で……」
「フェルマァ、寝ちゃだめ。溺れちゃうから」
「は! すみません!」
フェンリル親子は露天風呂に気持ちさそうに浸かっている。
私も久方ぶりの露天風呂に入れて、とても満足だ。
しかも、真っ昼間からというシチュエーションもいい。
美しい空を見ながら湯船に浸かっていると、心が洗われていくようだ。
「空を見上げながら、ゆったり湯浴みができて、最高ですね、この露天風呂とやらは」
「そうでしょうとも」
「静かですね……のどかで、最高です」
……ん? なんか、違和感が……。
「美香さまー! 喉乾かないっすかぁ!?」
がら! と脱衣所のドアが開く。
駄女神のやつ、いつの間に風呂から上がってたんだ……?
「美香さまのパシリが、キンキンに冷えたビールとってきやしたー!」
駄女神がクーラーボックスを肩にかけた状態で、湯船へと近づいてくる。
って、ん? んんっ?
「ビール……どっからとってきたの?」
「そりゃ、美香様のお家ですけど」
……ログハウスからこの露天風呂は、そこそこ離れてる。
「ねえ、駄女神。気になったんだけどさ、ここって、龍脈地の外だよね」
ログハウスの建ってる場所は、龍脈地といって、聖なる魔力がみちる特別な場所だ。
聖なる魔力は魔物を遠ざける効果がある。だから、家の周囲は魔物がいなくて安全だ。
が。
ここ、露天風呂は龍脈地の外。魔物が出てもおかしくない。
「全然魔物が襲ってこないんだけど、なんで?」
「そりゃ、美香さまの神の力が増大して、龍脈地が広がったからじゃあないですか?」
駄女神がクーラーボックスを床に置いて、缶ビール片手に湯船に入る。
そして、ぷしゅっと。
「ちょっと今さらっと重要なこと言ってなかった? 私の力が増えて、土地がどうのって」
ああ、と駄女神がうなずいていう。
「神の住んでいる土地は、神から漏れ出る魔力の影響を受けるんす」
「ほぉ……」
「美香様は半神、ほぼ神みたいなもんす。その魔力を受けて、龍脈地が広がったんすね」
「……なるほど。その結果、露天風呂まで、龍脈地になったと」
風呂とログハウスを行き来する際に、魔物に襲われるという心配がなくなった。
それに、魔物が周りにいないので、ゆっくり静かに風呂に浸かっていられる。
「ぷっはー! しふく〜! ビールうんめぇえええええ!」
駄女神が風呂に浸かりながら、ログハウスの冷蔵庫で冷やしていたビールをかぱかぱ飲んでいる。
私ものむことにしよう。
ぷしゅっ。
「聖女様、それはなんですか?」
「これ? ビール。お酒だよ」
「酒!? これが……ですか?」
そういや、この世界で酒っていえばワインだっけ。
「おいしいよ。一緒にのむ?」
「い、いただきます! ぜひ!」
ぷしゅ、と缶を開けて、フェルマァに渡す。
フェルマァは恐る恐るビールをのむ。
「こ、これは!!!!!!!!!!!!!!!」
びん! とフェルマァの獣しっぽが立つ。
「なんと、おいしいい! こんなしゅわしゅわで、喉越しのいい、それでいて雑味を全く感じさせないお酒が存在するだなんて!」
酒を作る技術力は現代日本の方が上だ。
こっちのワイン飲んだことあるんだけど、まあ、酷いできだった。機械で品質管理してないから、大味でまずい。
フェルマァが勢いよくビールを飲んでいる。
どうやらそうとう、ビールが気に入ったようだ。
「みー!」「みゅー!」「…………」
母親の翻訳を聞かずとも、子供らが自分も飲みたい、と言ってるのがわかる。
「ごめんよ、子フェンリルちゃんず。これは大人の飲み物なんだ」
「「みーーーーー!」」
しかし……うん。
真昼間っから露天風呂に入り、喉が渇いたらキンキンに冷えたおいしいビールを飲める。
みんながあくせく働いてる中で、こうしてダラダラと。
ああ、最高……スローライフばんざい。
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