第13話 神スキルで温泉を作り出す



 駄女神、フェルマァ(&子フェンリルたち)を連れて、森の方へと様子を見に行った。


 温泉……久しく入っていないなぁ。

 スーパー銭湯も近所にあったけど、就職してから一度も行ったことない。


 こっちの世界にも火山があるので、温泉はあるはず。

 でもブラック宮廷で働いていたせいで、同じく入ったことはない。


 温泉……なんだかとても入りたくなってきた。


「駄女神まさか温泉まで作れちゃうなんてね」

「わっはっはー! どうです美香様! ワタシ優秀でしょうっ? ワタシにかかれば温泉なんてちょちょいのちょいですよー!」


 ……で、お湯の噴き出した場所へとやってきたのだが……。


「これ……本当に温泉?」

「……ただの汚い水たまりみたいですね」


 私とフェルマァがつぶやく。

 ……そう、目の前には、ただお湯が噴き出してる場所があるだけだ。


 地面は土丸出しだ。

 そこにお湯が噴き出してるものだから、床はびちゃびちゃ。


 湯船なんて当然ない。

 そして、目隠しもないので、外から丸見えである。


 ぼんっ、とフェルマァがフェンリル姿になる。


『偉大なる聖女様に、こんな汚らしい場所で湯浴みをしろと言うのですか……?』

「ひぃ! すみません! そうですよね! あまりにただの水たまりですよねこれじゃ!」


 フェルマァににらまれて、駄女神が頭を何度も下げている。

 どうやらフェルマァのなかで、駄女神の序列はだいぶ下がっているようだ。


「ねえ、駄女神。なんとかならないの?」

「申し訳ないっす……自分、できるのはここまでです。人間界に直接干渉してはいけないもので……」


 そういや、最初にそんなこと言っていたような。


「でもあんた、私に技能宝珠スキルオーブ、持ってきてなかった? それに私に会いに来ているし」

「美香様は人間ではなく神の遣いではないので、ノーカウントなんす」


 どうやら神が私に干渉するのはルール内らしい。

 でもこの世界に手を直接手を出すのは駄目と。


「運を操作し、間欠泉が都合良く、龍脈地のそばにあった、とするのが精一杯っす……すみません!」

「源泉は用意したけど、温泉設備は用意できない……ってことね」


 しゅん、と駄女神が肩をすぼめる。


『何をしてるのですか、この役立たず』

「はいぃ……役立たずの駄女神ですぅううう……」


 フェルマァ、ちょっと駄女神に辛辣だった。


「うーん、どうしようかな」


 私はもうすっかり、温泉に入りたいという気持ちでいっぱいだった。


 ログハウスの中にも風呂はあるけど、やっぱり露天風呂……入ってみたい。

 この大自然の中で入ったらさぞ気持ちが良いだろうし。


『人を呼んで、工事させますか?』

「あまり下界の人と関わりたくないのよねぇ」


 私には、全知全能インターネットっていうヤバい神のスキルがある。


 凄すぎる力があると、誰かに知られたら、それを独占しようとする悪い輩が必ずたかってくる。

 それは……嫌だった。私はのんびり自由に暮らしたいのである。


「仕方ない、自分で温泉設備を作るか」


 私はスマホを取り出す。


「温泉 作り方、で検索っと……」


 いつの間にか神のスキルに進化していた、全知全能インターネットを使用する。


「出てきた。温泉設備の作り方」

『インターネットとは、なんでも載っている魔法の書物なのですね』


 フェルマァが感心したようにうなずいてる。


「いや、インターネットっていうか、全知全能インターネットのスキルに情報が載ってるんだけどね……」


 設備の作り方、排水の方法など、かなり詳しく載ってはいる。

 そう……載ってはいるんだけど……。


「読むのめんどくさいし、作るのはもっとめんどくさそう……」


 と、そのときである。


「…………」ちょんちょん。


 いつの間にか、私の肩の上に、トマトの眷属くんが乗っかっていた。


「トマトくん? どうしたの?」

「…………」ぐっ!


「! そうか……眷属にやらせればいいわけだ」

「…………」こくんっ!


 私が全知全能インターネットで検索し、方法を調べて、あとは眷属達に丸投げすればいいんだ。


 駄女神が首を傾げながら言う。


「でも眷属ってちっこいし、工事に時間かかるんじゃないっすか?」

「そこは、創意工夫よ」


 私は神アプリ、《眷属になろう》を立ち上げる。


「トマトくん、力の強い眷属、呼んできてくれる?」

「…………」びしっ!


 トマト君は一回方から降りて、どこかへと消える。


「トマトの眷属がサツマイモとジャガイモ連れてきたね」


 トマトくん同様、野菜から作られた眷属たちだ。

 頭がサツマイモ、ジャガイモの眷属。


 私はそれぞれ《眷属になろう》で名前を付ける。


「サツマイモ君、君には、【建築リーダー・サツマくん】の名前をつけます」

「…………」びしっ!


「ジャガイモ君、君には【開拓リーダー・だんしゃくん】と」

【…………】ぺこっ。


「そして最後に、トマトくんには、【 眷属統括・トマトくん】の名前をつけます」

「…………」ぐっ!


 眷属3人にそれぞれ、役割とともに新たな名前を付ける。


 しゅおんっ! とトマトくんたちの体が光り輝く。


「で、鑑定すると……」


~~~~~~

・建築リーダー・サツマくん

【種族】上級眷属

【スキル】建築(最上級)

~~~~~~


「!? スキルが付与されてるっす! それに、種族が眷属から上級眷属に……!」


 駄女神が驚いてる。


「《眷属になろう》で役割とともに名前を付けたら、魔化ができることがわかっていたからね。だから、お野菜眷属たちもできるかなって思ってやってみたの」


 サツマくんには建築スキル、だんしゃくんには開拓スキル、そしてトマトくんには指揮スキルが、それぞれ発現していた。


「じゃ、眷属の皆。あとはよろしく」

「「「…………」」」びしっ!


 トマトくんがリーダーとなって、眷属達に命令を出す。

 野菜の眷属達がわらわらとあわれて、それぞれ散らばっていく。


 トマトくんは必要な資材をKAmizonで購入。

 適切な場所へ人材と資材を割り振る。


 だんしゃくんは木々を伐採したり、排水を引いたりする。


 サツマくんは平らになった場所に建築を開始。


 工事は超特急で進んでいった。

 そして……1時間後。


『す、すごいです! 聖女様! 1時間前はただの汚い池だったのが、立派な露天風呂になっております!』

「みー!」「みゅー!」「…………!」


 フェンリル達が目を輝かせ、尻尾をぶんぶんしてる。

 

 森の中にぽつんとあっただけの池は、もうない。

 ここにあるのは高級旅館にあっても遜色ない、立派な露天風呂だ。


 脱衣所もあるし、目隠しもある。

 地面には防水加工された石畳の床が敷かれてるし、湯船だってちゃんとある。


「これは……もう……驚くしかないね……。まさか全知全能スキルを、こんなすぐに使いこなしちゃうなんて……」


「ちょとと使ってみて、全知全能について、少し理解できたよ」


 全知とは、ネット使って情報を調べること。

 全能とは、使いたいと思った能力を、眷属に付与し、使えるようにすること。

 

 うん……全知全能インターネット、けっこー便利だ。


『こんな立派なお風呂を、短時間で作ってしまわれるなんて! さすがです、聖女様!』


「じゃ、皆でお風呂入りましょうか」

『はいっ!』「みー!」「みゅー!」「……!」


 駄女神はその場にしゃがみ込んでいた。


「……どーしよ。完全に人間が、神の力を自在に使いこなしてる。これ、上の神にバレたら……まずい……」

「駄女神、風呂入らないの?」


「ま、いっか! 偉い人も言いました、【バレなきゃいかさまじゃあないんだぜ!】って! バレなきゃいいのよバレなきゃ!」


 ……まあ、バレても怒られるの私じゃないので、特にツッコまなかったのだった。


 

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