第16話 古竜に襲われるも余裕で返り討ち



 ふと、目を覚ます。


「あれ……? ここは……?」


 体を起こす。

 自分がログハウスのベッドルームにいることがわかった。


 KAmizonで購入したふわふわキングサイズベッドに寝かされていた。


「みー……」「むー……」「…………」


 子フェンリルたちが私の傍で丸くなって眠っていた。

 おかしい。私は外で昼ごはん食べていたような……


 窓の外を見やる。真っ暗だった。


「まさか……あのまま夜まで寝ちゃってたのかな?」


 外で寝ていたのに、中にいるってことは、多分眷属の誰かがここへ運んでくれたんだろう。


「いま何時……?」


 私は充電器ケーブルからスマホを抜いて、時刻を確かめる。


「朝の4時……?」


 嘘でしょ。私、お昼から翌日まで眠っていたわけ……?


「寝過ぎた……」


 まあ、寝過ぎたからといって、焦ることはない。

 地球にいた頃や、ブラック宮廷にいた頃と違って、いま私は働いていないのだ。


「…………」ひょこ。

「トマトくん、おはよう」


 トマトくんがどこからか現れてベッドに乗っかってきた。

 その両手には手紙。


「ん? 手紙……?」


 KAmizonで買っておいたメモ帳に、文字が書かれている。


「異世界文字だ。ええと、【狩へ行ってきます フェルマァ】」


 あなた偉いよ。

 朝からしっかり働いてるんだから。


 私はジャケットとニット帽(KAmizonで購入》をかぶって外に出る。

 子フェンリルちゃんズのことは、眷属に見てもらうことにした。


 外に出る。

 ひんやりとした空気が肌に当たる。


 でも、過剰な寒さも、痛さも感じない。


「どこからかいい匂いが……」


 フェルマァたちフェンリル用に買ったテントの前に、キャンプ用の椅子とテーブルがおいてある。


 テーブルの上にはコーヒーマシーンが置いてあった。


 その隣で、料理長のニンジンちゃんがガスバーナーでホットサンド作っていた。


 朝起きた私が、お腹を空かせているだろうと思って、朝食の準備をしてくれてた様子。


「君たちほんっとに優秀ね」

「「「…………」」」ぴょんぴょん!


 私に褒められたのがうれしかったのか、お野菜眷属たちがジャンプしてバク宙かましていた。

 

 キャンプ椅子にどっかりと腰を下ろす。

 朝ごはんができるまで待つ。


 山の朝は澄んだ空気がただよっている。

 ただ、気になることがある。


「天気悪いんだよねぇ」


 龍脈地以外の空は、分厚い雲で覆われているのだ。

 そのせいで、朝日を拝めない。


 せっかく眷属たちが美味しい朝ごはんを用意してくれているのだ。

 いい景色を見ながら、食べたいものである。


「あ、全知全能インターネットで調べればいいのか」


 私はポケットからスマホを取り出し、【悪天候 どうにかする方法】と入力。


 すると……一つ、検索にヒットした。


 【天候操作コントロール・ウェザー】。


 どうやら、魔法で天候を操作することができるようだ。

 さすが異世界、魔法でなんでもできるなんて。


 しかも私には全魔法適正がある。

 この魔法も使えるということだ。


 魔法、そういえばこっちに転移してきて、一度も使ってみたことなかった。

 適正ももらったし、ちょっと試してみてもいいかもしれない。


「さっそく使ってみよう……【天候操作コントロール・ウェザー】を使うためには……」


 と、そのときだった。

 ブワワァアアアアアアアア!


「え? ええっ?」


 私は、唖然とする。

 

「そ、空が……晴れていくっ?」


 さっきまで東の空は分厚い雪雲に覆われていた。

 だが、雲が一瞬で消え、晴れた蒼空がどこまでも広がっているではないか。


「う、うそ。まさか……魔法発動したの? なんで? まだ、なにもしてないのに……」


 すると……。


『聖女様!』


 フェンリル姿のフェルマァが、こちらに駆け寄ってくる。

 背中には大きな包みを背負っていた。

 どうやら狩りから帰ってきたようだ。


『すごいです、聖女様! まさか、【超位魔法】を使えるだなんて!』

「ちょ、ちょーい、まほう……? なに、超位魔法って?」


『世界に干渉するレベルの、人理を超えし魔法でございます』

「世界に干渉する……。すごい魔法ってこと?」


『はいっ。超位魔法の使い手は、いにしえの大賢者ノアール以後、一〇〇〇年現れておりませんと伝え聞きます!』


 超位魔法とは、使い手がとても限られた魔法らしい。


『才能のある魔法使いがいくら修練をつんでも、習得できないとされる特別な魔法を、使って見せるだなんて!」


 そんなすごい魔法だったとは……。

 まあ、私は全知全能インターネットを持っている。


 どんな力も行使できるスキルがあるからこそ、そんな使い手の限られる魔法でも使えたのだ。


 しかもどうやら、魔法の名前呟いただけで発動したみたい。


『しかし驚きました! まさか【蒼銀竜山】を覆う雪雲を消してしまうなんて!』

「そうぎんりゅーざん……? なにそれ?」


『聖女様のお住まいになられてる、この山の名前です。一年中分厚い雪雲で覆われております』


 そんな名前がついていたとは。

 ここでの生活が満ち足りていたので、別にここがどことか全くきにならなかった。


「竜の山って……名前の由来とかあるの?」

蒼銀竜ブリザード・ドラゴンという、いにしえの時代から生きる古竜が住まうことを由来としております』


 ……古竜?

 ネット小説とかだと、ものすごい強いモンスターだ。


「え、大丈夫かな。モンスター、襲ってこないかな」


 こんなド派手に魔法をかましたのだ。

 蒼銀竜ブリザード・ドラゴンとやらが、驚いてこっちに攻撃してこないだろうか。


『大丈夫ですよ。蒼銀竜ブリザード・ドラゴンは他の古竜と違って、比較的おとなしい竜ですので』

「襲ってくることはない? 絶対?」


『はい、絶対襲ってきません』


 じゃあ、大丈夫かな。


「狩りご苦労様。朝ごはん食べましょう?」

『はい! いただきます!』


 そのときだった。


『ギャオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 ……どこからか、獣の鳴き声が聞こえてきた。


『これは……竜の鳴き声です!』

蒼銀竜ブリザード・ドラゴンじゃない……怒ってるじゃない……」


『も、申し訳ございません。おかしいな……蒼銀竜ブリザード・ドラゴンは大人しい竜のはず……』


 ごぉおお! と風を切る音が聞こえてくる。


「これ、こっち来るんじゃない?」

『だ、大丈夫です! わ、わたくしが聖女様を、守ります! この命に変えても!』


「いや死んじゃダメでしょ……とにかく、家の中に避難を」

『うぉおおおお! 見つけたのじゃぁあああああ!』


 ばさっ! と森の木々の上に、一匹の巨大な竜が現れる。

 青い、サファイアのように美しい鱗を持つ、大きな翼の竜がそこにいた。


 朝日に反射した鱗が、キラキラと輝いてる。


「か、【鑑定】」


〜〜〜〜〜〜

吹雪丸

【種族】蒼銀竜ブリザード・ドラゴン

【レベル】500

〜〜〜〜〜〜 


 レベル500のドラゴンか。

 確かにフェルマァの倍くらいのレベル差がある。


 けど、私レベル9999だからか、そんなに怖いと感じなかった。


『貴様か! 超位魔法を使ったのは!』


 蒼銀竜ブリザード・ドラゴンが吠えると、ぶわああ! と吹雪がこちらに襲ってくる。

 フェルマァが私を守るように立つ。が。


『うわぁああ!』

 

 フェルマァは軽く吹き飛ばされてしまった。

 

「フェルマァ!」


 が、飛ばされた先に眷属くんたちが待っていて、彼女を受け止めてくれる。

 よかった、地面に激突しなくって。


 ……しかし、私の大事な眷属を傷つけようとしたな。

 ちょっと、いや、かなり不快だ。


『ここは【極光神トゥアハーデ】さまの領土であるのじゃ! 出ていくのじゃ!』

「きょっこーしん? よくわからないけど、ここは私の土地だよ」


『何をバカなことを! 極光神さまの御所を汚す不届きものめ! このわし、吹雪丸が成敗してやるのじゃ! 覚悟しろぉ!』


 蒼銀竜ブリザード・ドラゴンが翼を広げて、こちらに向かって突進してくる。


『聖女さま! 危ない! 逃げてくださいいい!』

『死ねえ!』


 がきんっ!


『ふげっ!』


 蒼銀竜ブリザード・ドラゴンが、空中で突然固まる。

 何かにぶつかったようだった。


 そのまま、ずるずると落ちてくる。

 

「あ、そういえば、龍脈地って、魔物が入れないんだった」


 フェルマァは最初はここに入れなかったものね。

 龍脈の魔力が、魔物の侵入を防ぐ結界になってるとかどうとか。


『うきゅうぅ〜』


 戦う前に戦闘が終わってしまった……


『あの恐ろしい古竜を一撃で倒してしまわれるなんて……!』


 フェルマァがこちらにキラキラした目を向けてくる。

 いや、倒してない。ただこいつが自滅しただけ……


「しかし、なんでこいつこんなキレてたんだろう。極光神の領土がどうとか言ってたけど」


 極光神って、誰?


「ふぁー……美香しゃまぁ……おふぁよーございまふぅ〜」


 駄女神があくびしながらログハウスから出てきた。

 こいつこんなに外でうるさくしてたのに、よく今まで寝てられたな。


「あれぇ? なんでワタシの眷属ちゃんが、そこで伸びてるんっすか?」


 …………はい? ワタシの、眷属?

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