第8話 フェンリルと焼肉を食べ絶賛される


 翌朝。目覚めてすぐに、強烈な寒さに襲われる。

 私はペラペラな毛布にくるまった状態で目が覚めた。


「……ダウンジャケット着ておけばよかったな」


 場所はログハウスの中。

 神が用意してあったベッドを使って昨日は寝たんだけど、これが粗悪品だった。


 まずマットレスが硬い。床ってほどじゃないけど。

 次に毛布とかけ布団。ペラペラ。

 そして枕もゴツゴツで硬くて痛い。


 これじゃ質の良い睡眠が取れない。 

 早急に睡眠環境を整えないと……。


「でもなぁ……神ポイント、今2.5万KP……? けっこー減ったな」


 フェルマァたちの寝るテントに、石油ストーブと燃料を、KAmizonで購入した。


 その結果、KPはかなり減ってしまったのである。


「まだポイントに余裕はあるけど、無駄遣いはできないよね」


 駄女神はポイントを貯める方法はあるって言っていた。


「魔物の死骸をポイントと交換か。魔物と戦わないといけないじゃん」


 29の元OLに、異世界の魔物と戦うなんて無理。


 転生ボーナスのチートスキルも、【インターネット】という、非戦闘系の技能だからね。


 ポイントためる手段がない以上、やっぱり無駄遣いできない。


「ところで、フェルマァたち、ちゃんと寝れてるかな」


 テントとストーブを買ってあげたとはいえ、外はめちゃくちゃ寒い。

 風邪引いてないかな?


「様子見に行ってみよ」


 私はKAmizonで買ったダウンジャケットを身につけて外に出る。


 ドアを開け、隣へ。

 大きめのテントの中に入る。


「おはよー……って、なにこれ!?」


 入ってすぐ、私はテントの中が……異様に広いことに気づいた。

 一度外に顔を出して、もう一度テントの中に入る。


 フェルマァの巨体であっても、まだ、テントの中にはかなりのスペースがあった。


『おはようございます、聖女様』


 フェルマァがペコッと頭を下げる。

 どことなく、疲れ切った様子だ。産後まもないから仕方ないだろう。


「おはよ、フェルマァ。テントの中寒かった?」


『いえいえ! とても温かいです! 雪山のなかとは思えないほどでした。』


 フェルマァがストーブを見ながら言う。


 私はダウンを脱いでみる。

 おお、あったかい……。


「テントといい、ストーブと良い、ダウンジャケットみたいに、神パワーが付与されてるのかな……?」


 神にラインしてみたけど、返事がない。

 駄女神のやつも一応、神としての仕事をこなしてるみたい。


「寒すぎて寝れてないかと思ってたんだけど、大丈夫そうね」

『はい、聖女様のおかげです。ほんとにありがとうございます』


 ぺこぺこ、とフェルマァが頭を下げる。


「フェルマァ。赤ちゃんたちは元気?」

『はい……それはもう』

「よければ見せてほしいな」

『ええ、どうぞ』


 伏せ状態フェルマァが尻尾をどける。

 お腹のあたりに……3匹の子犬がいた……って、あれ?


「みー! みー!」「みゅー!」「…………」


「なんか……ふぇる太たち、一日でおっきくなりすぎてない……?」


 ふぇる太とは、私が名前を付けてあげた、フェルマァの子供のことだ。

 

 三兄妹は、昨日見たとき、手のひらサイズだった。


 でも……今のフェンリル三兄妹は、ラグビーボールくらいまで成長してる。


「フェンリルってこんな早さで成長するのね」

『いいえ、これは、聖女様が名前を付けてくださった影響です』


「名付けの影響……? あ! もしかして、フェルマァと一緒で、進化したの?」

『そのとおりでございます。通常個体より強く、そして成長速度が上がってます。ただ、一つ困った事態が……』


「困った事態?」

『はい。この子達、食欲旺盛すぎまして……お乳を吸われまくってしまって……』


 ふぇる太たちはお母さんのお腹に顔を埋めている。


「みーみー!」「みゅー! みゅー!」「…………」


 ふぇる太、ふぇる子の二人が抗議の声を上げている。


『乳をもっと出してあげたいのですが、わたくしもお腹が減っておりまして……聖女様の眷属さまが、野菜を定期的に運んできてはくれるのですが……』


 テントのなかに、トマト君が入ってくる。

 ……って、ええ!?


「と、トマト君……なんか、増殖してない?」


 トマト君の後ろには、野菜の頭をした、人形サイズの小さな眷属達が、たくさんいらっしゃった。


「…………」ぺこっ。

「あ、おはようトマト君」


 私はトマトの眷属を手に取る。


「なんで眷属増えてるの?」

「…………!」ぐっ!


 トマト君が自分の顔を親指で指す。

 ああ、なるほど……。


「もしかして、私が寝てる間に、収穫してくれてたの?」

「…………!」ぐぐっ!


 なるほど……これはたすかる。

 いちいち野菜を採取するの、めんどうだからね。


 トマト君たち眷属が、フェルマァにお野菜(食料)を運んでくれていたそうだ。


 ……が。

 ぐぅ~~~~~~~~~~!


『す、すみません……』


 フェルマァが顔を真っ赤にしてうつむく。

 空腹で腹の虫がなってしまったようだ。


 そりゃそうだ。

 見るからに肉食獣だもの。


「お肉食べたいのね」

『はい……ですが、この子たちを置いて、狩りにはできけられませんし……そもそも、お腹が空いて力が出ず……』


 体力が回復しないと、自分の食い扶持を取ってくることもできないようだ。

 仕方ない、ここは、飼い主である私が餌を提供しよう。


 フェルマァ、それにこの幼子たちが死ぬのは、可哀想だものね。


「ということで、KAmizonアプリ起動」


 フェルマァのために、奮発してお肉をいっぱい買ってあげる。

 

 メニューは、焼き肉だ。

 ホットプレート、そして焼き肉のタレを買う。


 ……ポイントがついに0.5万KPになってしまったけど……仕方ない。この子らのためだ。


 ぼんっ! と段ボールが無数に、虚空から送られてくる。

 段ボールを開けながら焼き肉の準備をする。


 トマト君たち眷属が準備を手伝ってくれた。


 ほどなくして焼き肉の準備完了。

 ジュウウウウウウ……と肉が焼ける。


 ごくり、とフェルマァが生唾を飲む。


「ささ、遠慮せず。たんとお食べ」


 トマト君がお肉を焼いて、フェルマァの前の紙皿の上に置いてあげる。

 

『よ、よろしいのですか……こんな、上等そうなお肉を……?』

「いいのいいの。さ、食べて」


『は、はい……で、では……』


 フェルマァが食べているのは、KAmizonで売っている、焼き肉用の黒毛和牛。

 よく焼いて、タレに付けてある。


 バクッ!


『!?!?!?!?!?!?!?!?』


 フェルマァが目をむいてる。

 ヴォンヴォン! と尻尾が左右に振れる。


『な、なんでございますか、この……美味しすぎるお肉は!!!!』


 ばくばくばく! と勢いよくフェルマァがお肉を食べ出す。

 うん、気に入ってくれたようだ。


『こんな……脂ののっているお肉、はじめてです!』


 割とお上品な振る舞いのフェルマァだったが、このときばかりは我を忘れて、肉をくらっていた。


 眷属くんたちはフェルマァの口の周りにべったりついた、ソースを拭ってあげている。


「…………」さささっ。

「ありがとう、トマト君」


 トマト君ってば私のお皿に、いつの間にかお肉を載せてくれていた。

 どれ一口……。


 ぱくっ!

 うん……! 美味いね。


 あー……おいし。あー……お酒のみたーい。

 でもKPがないからなぁ。


『聖女様!』

「え? ふぇ、フェルマァ……なんか、あなたなんか、キラキラしてない……?」


 フェルマァの今までちょっとしおしおだった毛皮が、一転して、高級な毛皮みたいにキラキラしてる。

 

『聖女様のお肉のおかげで、この体に活力が戻りましたっ!』


 なんか朝みたとき、死にかけの表情だったのに、今はもう元気もりもりって感じ。


『恐れながら、聖女様。ふぇる太たちを少しの間見ててくださいませんか?』

「え、いいけど……」


 私の膝の上に、フェルマァがふぇる太ちゃんたちをのっけてくる。

 三匹はふんふん、と私の匂いを嗅いでいた。可愛い。


『ただいま帰りました!』

「え? はや……」


 まだ出て行って数分も経っていないのに、フェルマァが帰ってきたのだ。


『外をご覧くださいませ』

「外……?」


 私は三匹の子フェンリルを抱えたまま、テントの外に出て……。


「なにこれっ!?」


 テントの前にはモンスターの死体の山が築かれていたのだっ。


『軽く、雑魚を狩ってまいりました!』


 軽くって数じゃない。

 どうやって、こんなにたくさんの魔物を狩ったんだろう?


 いや、待てよ。

 フェンリルってゲームやアニメだと、伝説の獣だ。

 つまり、この子は強いのだ。


「はは、そっか……」


 フェンリルがいれば、このように簡単に、たくさん魔物を狩ってきてもらえる。

 これをKPに交換できる。つまり……。


「もうポイントが無くなるの、気にしなくて良いんだっ」


 これなら欲しいもの買い放題だぞっ。

 ベッドに布団……欲しいものはいっぱいある!


「ありがとう、フェルマァ! あなたのおかげで、素敵なスローライフおくれそうっ」


 

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