第3話 雪山に捨てられるも、小屋発見

「寒っ!」


 猛烈な寒さとともに私は目を覚ます。

 寒さ? は? おかしい、だって今は秋だ。(ゲータ・ニィガには日本と同じく四季が存在する)


「なに、これ? どこなの、ここっ……?」


 ま、まず、状況整理だ。だ。

 オロカニクソから追放を言い渡された。


 私は喜んで国を出て行こうとした。

 出ていくための準備を、自分の部屋でしようとした瞬間、意識を失った。


 つぎに目覚めたら一面の雪景色……くっしゅん!


「さ、察するに、私を眠らせたのちに、雪山に廃棄したのかな……くっしゅん!」


 私をここに捨てるよう命じたのは、十中八九こごみだろう。

 自分の嘘がバレないように、邪魔な私を処分しようとしたのだ。


 直接手を下す(眠ってる間にナイフでぐさりとか)と、あとで足がつくかもしれない。

 だから、雪山に放り出すという遠回りな手を使ったのだろう。


「くしゅん! さ、寒い……寒すぎる……し、死ぬ……」


 状況は把握できたが、ここがどこなのかさっぱりわからない。

 でも、このままでは凍死してしまう。


「と、とにかく暖をとらないと……」


 どこかにこの吹雪が病むのを待つ、洞窟でもないだろうか。

 私はザクザクと歩き出す。


 めちゃくちゃ寒い。

 薄着のまま来てしまった。


 衣類も食料もない状態だ。

 しかも私は魔法が使えない。


 唯一の武器は……スキル【インターネット】。

 このインターネットというスキルは、文字通り、異世界でもインターネットが使えるようになる、というもの。


 これがあれば異世界で知識無双できる、と思った時期があった。

 だが、このスキルを使用するためには、デバイスが必要なのだ。


 パソコンとか、スマホとか。

 幸い私はスマホを持った状態で異世界転移した。けど、だ。


 スマホの充電はすぐに切れてしまい、そして電源を回復する手段が、異世界にはなかった。

 なので、私はスキル【インターネット】が使えない状態にあるのである……


「終わった……」


 このまま雪山を彷徨い歩き、遭難のすえに死ぬ。そんな未来がありありと見えた。


 そのときだった。


「ぐるる……」

「え、ええー……嘘でしょ……」


 吹雪の中、私は、1匹の巨大な狼と遭遇した。

 見上げるほどの巨大狼……た、多分これ、ふぇ、フェンリルってやつでは!?


 ネット小説だと、割と人間に有効的な存在だ。

 でも、目の前のフェンリル(仮)は血走った目で私を見ている。


 牙を剥いて、こちらに敵意を剥き出しにしてる!


「ちょ、ちょっと待って。話そう。話せばわかる」

「アオォオオオオオン!」

「ぎゃあ! こっちきたぁ!」


 私は必死になって逃げる。

 足を止めたら死ぬ! 凍えて死ぬか、フェンリルに食われて死ぬか。選べと言われたら、いや、言われても選びたくない!


 現実では社畜としてこき使われ、異世界に来ても不遇な扱い! その結末が犬に喰われてしぬなんて真平ごめんだ!

 私は走る、走る、走って……


 ふと、気づく。


「え、ここ……どこ?」


 気づけば、私は先ほどとは全く別の場所にいた。

 雪山の中にいるはずなのだが、そこには、雪が積もっていないのである。


「草が生い茂ってる……。雪が全く積もってない……吹雪いてもない。なにこれ? どうなってるの……?」


 周りを見渡す。

 あたり一面草原が広がっていた。

 木々もなく、雪も積もっていない。


 空を見上げる。青空がここだけ広がっていた。

 遠く見渡せば曇天があるのに……


「ここだけ雪が降っていない……?」


 寒さは依然としてあるけれども、吹雪いてない分寒さは幾分和らいでいた。


「ん? あれ、なんだ……? 小屋……?」


 この謎の空間の中心部に、1棟の、木造の建築物があった。

 平家で、ログハウスっぽい見た目をしている。

 ログハウスの入り口前には畑があった。


「民家……?」


 助かった! とはならなかったね。

 どう考えても、この場所も、あの小屋も、変だし。


「って、あのフェンリルは?」


 振り返ると……。


「ぎゃう! がうがう! ぎゃう!」

「いるし……って、あれ? おかしいな」


 フェンリルはすぐ近くまできてる。

 だというのに、こっちに入ってこないのだ。


「入ってこれない? 入れない? まさか、結界とか……?」


 そうだ。この現象、みたことあるじゃないか。

 私の張った結界に、魔物が入ってこれなかった。あの場面と、目の前の光景が重なる。


「この辺り一体、結界が張られてるんだ……だから、フェンリルが入ってこれないし、雪も入ってこれないと」


 その場に私はへたり込んだ。

 とりあえず、助かったようだから。


「はぁ……疲れた」


 一命を取り留めた私。

 だが、いつこの結界が破れるかわからない。


 とりあえず、安全な場所に移動しよう。

 私は小屋を目指すことにした。


 小屋は近くで見ると、なんというか、雪山によくあるようなログハウスだった。

 見た感じ、壁は新しい。木が腐ってないし。つまり、中に人がいる可能性がある……?


「あのぉ! ごめんくださーい!」


 私がどんどん! と扉をたたきながら声を張り上げる。

 だが、返事がない。


「ぎゃう! ががう!」

「ひっ! し、失礼しますよぉ!」


 フェンリルに食い殺される前に、私は安全な家の中に入ることにした。

 鍵がかかってるかと思ったけど、あっさりドアは開いた。


 結構ひろいリビングが目の前に広がっている。

 床には絨毯が敷いてあった。


 でも、家具がほとんどない。

 食事に使うテーブルくらいか。


「ん? コンロだ。しかも、蛇口?」


 この世界の文明レベルは中世レベルだ。

 けれど魔法があるおかげで、独自の文化体系を気付いてる。


 王都だと、魔法で動く道具、魔道具というものが普通に売られている。

 このコンロ、多分魔法コンロだ。現実でいうところの、カセットコンロのようなもので、捻ると火がつく。


 蛇口を捻ると水も出た。

 多分これも魔道具だろう。


「インフラが整ってる。整いすぎてる。ここに誰かが住んでいる、あるいは、住んでいたのは確実か……」


 私は家探ししてみた。

 部屋数は6つ。


 リビング・キッチン。寝室。書斎。倉庫。風呂場。トイレ。

 書斎には本がたくさんあった。壁一面本棚で、そこにはギチギチに本が詰まっていた。


 倉庫には、武器やら防具やらがたくさんあった。

 これがまあ、ものすごそうなのだ(語彙)。


 黄金の剣とか、黒いオーラを放つ鎧とか、そういういかにもレアそうなアイテムがたんまりあったのである。

 そして小屋の外には畑があり、野菜? が植えてあった。


「今も誰か住んでるのかな……」


 めちゃくちゃ物たくさん置いてあるし、そのどれも状態がかなりいい。

 でも、いったい誰が、こんなところに住んでいるんだ……?


「人が今も住んでるんだとしたら、あんまり家探しするのはよくないよね」


 ここに人が今も住んでるのか、そうでないのかは不明だ。

 でも、外に出る気はなかった。だって危ないし、寒いし。


「まあここも寒いけど」


 でも、身の安全は確保できた。

 ほっ、と安堵の息を吐く。


 椅子に腰掛ける。この小屋の持ち主が帰ってくるまで、ちょっと待つか。


「ふぅ……」


 私はつい、現実にいた時の癖で、ポケットからスマホを取り出してしまう。 

 向こうにいたとき、私はスマホ中毒だった。


 電車のったとき、一息つくとき、意味もなくスマホを取り出してしまう。

 このときも、いつもの癖でスマホを手に取っただけにすぎない。


 もう電池が切れて動かないはずの、スマホ……


「って、ええ!? で、電源がついたっ?」

 

 あ、ありえない。三年動かなかったはずの、スマホが、ついていたのだ!


「う、嘘? なんで? とっくに電池ぎれだったのに」


 と、そのときだった。

 ピコン♪


 ら、ライン?

 え、ライン?


 いや、確かに、私のスキル【インターネット】があれば、異世界でもネットが使えるけども。


 ライン……って、誰から?

 私はラインアプリを開く。


【神】


 ……。

 …………神?

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