第2話 召喚されてから追放されるまで

 今から三年前。

 私、長野ながの 美香みかは東京のブラック企業で働いていた。


 毎日残業の超絶ブラック企業で、日々仕事に忙殺されていたある日、私は家に帰ると、気づけば見知らぬ場所にいた。


『聖女召喚に、成功したぞぉ!』


 石造りの広い部屋。

 周りには鎧をきた人や、中世ヨーロッパ風の格好をした人たちがいた。


 呆然とする私、とその隣には学生服を着た少女がいた。

 真の聖女、木曽川きそがわこごみちゃんそのひとである。


『オロカニクソ様! 聖女召喚に成功しました! ただ、聖女が二人おります』


 石造りの部屋に入ってきたのは、ゲータ・ニィガ王国の王太子オロカニクソ。

 大臣っぽい人が、オロカニクソにそう告げる。


 王太子は私を一瞥して、


『こんな地味で不細工で、年増が聖女なわけがない』


 と面と向かって罵倒してきたのだ。

 まあ、オロカニクソは登場19歳。


 19歳から見れば、二十代後半はババアかもしれない。


『おお、なんと美しい! そなた、名前は?』

『こ、こごみ……です。木曽川、こごみ』

『コゴミ! なんと美しい名前! 美しいそなたにぴったりだ!』


 オロカニクソはその場にひざまづいて、聖女にいう。


『聖女コゴミよ、どうか、我が国を救って欲しい』


 オロカニクソから簡単に説明を受けた(私にというより、こごみにだろうけど)ところによると、こんな感じ。

 この世界は剣と魔法のファンタジー世界。


 魔物も闊歩してて、非常に危ない。

 人の命の価値がとても軽いらしい。


 そんな世界でも、人々が安全に暮らせるように、100年周期で聖女を異世界から呼び寄せ、街に結界を張らせているのだという。

 結界。魔物を遠ざけるバリア。


 この世界には魔法が存在する。結界魔法というものもある。

 しかし街を覆うほどの大規模な、そして、長い間効力が持続できる特別な結界を張れるのは、異世界の聖女だけ、とのこと。


 説明ののち、スキル鑑定を行うことになった。

 こごみには聖女スキルが宿っていた。

 ちなみに私のスキルは【インターネット】という謎スキル。


『やはりこごみこそが、真の聖女だ!』

『あのぉ、じゃあ私って必要ないですよね? 元の世界に帰らせてくれませんか?』


『ふん! 帰す方法など存在しない。召喚聖女はこの世界で生きてもらうしかない』


 私に対しては、全く悪びれなく、オロカニクソがそう言ってきた。

 一方でこごみはビビっていた。


 それはそうだ。

 家にもう2度と帰れないのだから。そりゃ、私は両親ともにすでに他界してるし、ブラック企業勤、カレシなし、という独り身だからいいけどさ。


『こごみ、君の生活はボクが保証する。君が何不自由ない暮らしをおくれるように、最大限サポートさせてもらう』


 異世界での贅沢三昧、しかもイケメンつきという条件を聞き、こごみはここでの暮らすことに納得したようだ。

 私は納得いってなかったが、帰る手段がないのなら、仕方ないと諦めた。


 もちろん、真の聖女ではない私の生活を、国が保証してくれなかった。

 私は国から金をもらって、聖女こごみの補佐として働くことになった。


 だが、そっからもかなり地獄だった。

 なにせこごみのやつ、自分の聖女としての仕事(お役目)を、まるでしないのだ。


 全部私に丸投げしてきた。

 私は金を得るために、仕方なく、働いた。

 別に愛国心があったからではない。生活するためだ。


 この国には冒険者ギルドがあるし、他国にも働き口はあった。

 でもここに召喚された当時は、この世界のこと何も知らないうえ、コネもツテもなかった。


 だから、環境がクソだとしても、このゲータ・ニィガの、こごみの下で働かざるを得なかったのだ。

 そして、召喚されてから三年が経過したある日のこと。


 聖女こごみとオロカニクソ王太子の結婚が正式に決まった。

 多分、聖女の価値を高めたかったのだろう(こごみが)、だから、もう一人の聖女である私を切ることにしたのだ。


 で、追放されて今に至る……というわけだ。

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