6

 翌日、昭二はいつものように目を覚ました。今日も休みだ。明日の仕事に備えて、今日は家でのんびりしよう。歩いてばかりでいると、疲れて仕事がベストでできなくなってしまうだろう。


 昭二は、昨日やって来た女が気になった。また来るんだろうか? もう誰とも関わりたくないのに。どうしてこっちからやって来たんだろう。また来たら、追い出してやる!


 突然、インターホンが鳴った。またあの女だろうか?


「はい」


 昭二は扉を開けた。そこには、昨日の女がいる。またやって来たんだろうか? しつこいな。もう俺と関わらないでくれ。早く家から帰ってくれ。もう会いたくない。


「あのー」

「今日も来たのか!」


 昭二は怒っている。相変わらず、関わりたくないと思っているようだ。


「ちょっと、話して!」


 だが、渚は帰ろうとしない。こんなにも必死な女は見た事がない。大体の女は自分の声を聞くと、逃げてしまうのに。


「何だ! もう誰も信じられないんだ!」


 だが、昭二は引き離そうとする。それでも渚は必死だ。


「いいから話を聞いて!」


 昭二は女を殴った。もう帰ってほしいようだ。それでも女は帰ろうとしない。


「どうしてそんなに人を避けるの?」

「もういいんだ! 俺はもういいんだ!」


 昭二は部屋に戻ろうとする。だが、渚も入ってくる。しつこいな。早く帰ってほしいな。


「崩壊しないで!」

「帰れ!」


 昭二は女を突き飛ばした。だが、渚はうまく受け身を取って、しつこく追いかけてくる。


「帰らない!」


 渚は怖い表情だ。ここまで怖い女は見た事がない。昭二は驚いている。これほど一生懸命な女は初めてだ。怒られてもこんなに引き下がらないとは。この女は何かを持っているようだ。


「入るな!」

「説得したいの!」


 それでも渚は話そうとする。こんなに必死になるとは。そんなに話したいんだろうか? 少しずつ昭二はおびえ始めた。だが、おびえてはだめだ。またいじめられるだろう。


「もういい!」

「話そうよ!」


 だが、昭二は渚の髪をつかみ、玄関に引っ張ろうとする。すごい強さだ。渚は驚いている。


「入るな!」

「もうやめなさい!」


 渚は抵抗した。こんなに抵抗するとは。昭二は驚いている。こんなにしつこいなんて。


「帰ってくれ!」

「あきらめない!」


 だが、昭二は徐々に抵抗するのをやめ、少し話す事にした。誰かと真剣に話すなんて、久しぶりだな。本当にできるんだろうか?


「うーん・・・。いいぞ。ただし、すぐ帰れよ」

「はい・・・」


 すると、渚はベッドに座った。女はほっとしている。やっと聞き入れてくれた。


「どうしてこんな事になったの?」

「あいつらから聞いただろ? いじめられて誰も信じられなくなったんだ」


 昭二は初めて今までの事を明かした。今まで話した事がなかった。誰も聞いてくれないだろう。誰も助けてくれないだろう。周りがみんな敵だろうと思って、誰にも話さなかった。


「そんな・・・」

「もう俺は誰も信じられないんだ!」


 だが、昭二は暴れだした。また怒っているようだ。怒ってほしくない。そう思って、渚は昭二を抑えた。


「もうやめて! 暴れないで!」

「暴力はすべてを解決するんだ!」


 それでも昭二は暴れている。渚は必死で抑えようとする。だが、昭二の怒りは収まらない。


「そんな・・・」

「もういいんだ! 帰って!」


 だが、渚は帰らない。やっぱりこの女は必死だな。どうしたんだろう。この女といると、落ち着いてくる。自分の事を明かしたからだろうか?


「元の昭二くんに戻って!」

「もう戻らない! 暴力こそ愛情なんだ!」


 小学校の頃、昭二は愛情と言って暴力、暴言を与えられていた。だからこそ、暴力こそ愛情だと思っていた。


「そんな事、やめて!」


 だが、渚に抑えられて、何もできなくなった。すると、昭二は少し落ち着いた。


「大丈夫?」

「俺、どうしてこんな人生になってしまったんだろうと思って」


 昭二は泣きだした。どうしてこんな人生になったんだろう。これが自分に与えられた運命だろうか? こんな運命、間違っているよ。今からでもいい。やり直したいよ。だけど、その方法が見つからない。だったら、死ねばいいじゃない。だけど、それだけで本当に解決するんだろうか?


「それも人生だよ。自分の人生を歩んで」

「・・・、うん・・・」


 昭二は顔を上げた。そこには女がいる。昭二はほっとした。こんな感覚、初めてだ。


「大丈夫?」

「うん」


 渚はほっとした。すっかり落ち着いたようだ。これで一安心だ。これからもっとこの人に積極的に話していこう。


「少し落ち着いてよかった。またね」

「うん」


 渚はもう帰る事にした。やっと優しくなったようで、一安心だ。


「バイバイ」

「バイバイ」


 渚は帰っていった。昭二は見送っている。昭二は少し優しさを取り戻した。どうしてなのかわからない。誰かと真剣に話したからだろうか?

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