5

 翌日、渚は車で昭二の家の前にやって来た。昭二の家はアパートだ。もう何年も一人暮らしだという。この近くに実家はあるが、現在は家族と別居しているそうだ。両親が怖いと感じて、別居したという。教員としての評判は良い。だが、教え方は評価してもらっているようだ。


 渚はアパートを見上げた。アパートは少しぼろい外観だ。渚は深呼吸をした。昭二にどんな事言われるかはわからない。だけど、振り向いてほしいな。そして、自分と向き合ってほしいな。


 渚は昭二の部屋の前にやって来た。昭二は今日は休みだと聞いている。今日はここにいるだろう。渚はインターホンを押した。


「はーい」


 昭二の声だ。渚は緊張している。今日はどんな事を言われるんだろう。全くわからないけど、積極的に話さないと。


 昭二は玄関のドアを開けた。そこには昨日の女、渚がいる。ここまでやってくるとはしつこいな。早く帰ってほしいな。


「あのー」

「来ないでよ!」


 昭二は扉を閉めようとする。だが、渚は扉を抑えて、話そうとする。


「どうして避けるの?」

「もう誰も信じられないんだ! 自分の道は自分で生きるんだ!」


 昭二は渚を殴った。昭二は渚をうっとうしいと思っていた。早く帰ってほしいと思っていた。


「あなたと話がしたいの!」

「だからもう関わらないで!」


 渚はそれでも説得しようとしていた。だが、昭二は引き離そうとする。それでも昭二は、誰ともかかわりたくないと思っているようだ。


「はぁ・・・」


 結局、また追い出された。渚は呆然とした。いつになったら元に戻るんだろう。全くわからない。


「ダメだった?」


 誰かが渚の肩を叩いた。渚は横を向いた。そこには昨日の男たちがいた。


「うん」

「いつになったら振り向いてくれるのかなって」


 渚はその場で落ち込んでいた。泣きそうだ。彼らは必死で慰めようとする。


「そうだね」


 渚は強制的に昭二の家に入った。昭二は中でネットサーフィンをしていた。渚は誰かが入ってくるとは思わなかった。


「あんた、たまには誰かと話しなさいよ! 誰かと仲良くなって、人は成長できるのに」

「もう俺はいいんだ!」


 昭二は怒って、渚を帰らせようとする。だが、渚は帰ろうとしない。ここまで一生懸命関わろうとする人がいるとは。


「もう誰ともかかわりたくない! 俺は俺の道を歩くんだ!」

「どうして・・・」


 渚は泣きそうだ。元の昭二に戻ってほしいのに。昭二は優しさを忘れてしまったようだ。もう一度、優しい心を取り戻してほしいのに。


「もう誰も信じられない!」

「もう大丈夫だよ! だから信じて! みんな謝ってるよ!」


 だが、昭二は全く信用しない。謝っても、またやるんだろう。そして、もうやめないんだろう。


「そんなの嘘だ! 謝ってもまたするんだろう。その繰り返しなんだろう」

「そんな・・・」


 こんなにも人が信じられないとは。こんなに荒々しい性格の人は初めて見た。だけど、元に戻ってほしいな。


「帰れ!」


 そう言って、昭二は渚を強制的に追い出した。今はあきらめよう。また今度、あの家に来よう。そして、優しい心を取り戻せるようにしたいな。




 その後、渚は彼らと喫茶店にいた。結局、昭二に何にも話す事ができなかった。どうすれば優しい心を取り戻するんだろう。全くわからない。だけど、それ以後も頑張らないと。


 ふと、渚は気になった。反省しても、いじめを繰り返していたんだろうか? 彼らに聞いて、本当の事を聞きたいな。


「謝ってもまた繰り返してたの?」

「ああ。今はもう反省してるよ」


 彼らは下を向いた。今は反省している。だけど、いくら謝っても昭二は聞いてくれない。


「そうだったんだ」

「仲直りできるんだろうか?」


 彼らは不安そうだ。そんな彼らの様子を見て渚は思った。彼らのために、私が何とかしないと。


「うーん・・・。私も頑張ってみるから」

「ありがとう」


 そして、渚は思った。中学校時代、渚はどんな子だったんだろう。会うたびに、ますます昭二の事が気になった。


「昭二くんって、もともとはどんな子だったの?」

「弱気だったんだよ。だからいじめられたんだ。だけど、乱暴になって、支配する事でいじめられたくなかったんだ」


 渚は驚いた。今と比べると全く想像がつかない。弱気だったとは。だからこんなに怖い性格になったんだな。もういじめられたくないという気持ちが、昭二を変えたんだなと思った。


「何でも力押しでいじめを解決しても・・・」

「私もそれはいけないと思う。やっぱり相談しないと」


 いじめはやっぱり信用できる友達や先生に相談しないといけないだろう。そうしない限り、いじめはなくならないだろう。


「だけどもう意味がないと思ってるんだもん」

「そうだよね」


 確かにそうだ。どれだけ注意してもいじめられていたんだ。そう思うと、意味がないと思ってしまい、話す気力もなくなってしまうだろう。


「まぁ、いつか元通りになってくれると信じてるよ」

「うん」


 彼らの1人、村井は渚の肩を叩いた。村井は渚を応援しているようだ。彼らのためにも、頑張らないと。


「だから頑張って!」

「わかった!」


 渚は決意した。彼らのためにも、昭二のためにも、説得して昭二をもとの優しい男に戻したいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る