7

 次の週末の休み、昭二は考えていた。あの女の子にまた会いたいな。そして、今度こそ真剣に話したいな。昭二はまったく気づいていないが、少しずつ自分が変わり始めていた。そして、今までの人生を見つめなおしたいと思っていた。自分は弱さを見せまいと思って、なんて破天荒な人生を送ってきたんだろう。もっと自分と向かい合わないと。昭二はだんだん、自分のじんせうぃお反省したいと思い始めていた。こんな気持ちになったのは、初めてだ。やり直したいと思っても、後戻りできない。これからでもいい。自分を見つめなおしてみよう。


 突然、インターホンが鳴った。またあの女だろうか? よほど真剣なんだな。昭二は扉を開けた。そこにはあの女がいる。また来たようだ。


「ねぇ、昭二くん」

「どうした?」

「今夜、一緒に飲まない?」


 昭二は少し戸惑ったが、すんなり受け入れた。いつも1人で飲んでいる。たまには誰かと飲むのもいいな。ぜひ、行きつけの居酒屋で飲みたいな。


「いいけど」


 それを聞いて、渚はほっとした。断れないか心配だったが、誘いに乗ってくれた。


「突然ごめんね。一緒に飲みたいと思って」


 だが、昭二は思った。どうして居酒屋に誘ったんだろうか? 2人で気ままに話したいんだろうか?


「いいよ。でも、どうして?」

「いろいろ話したいなと思って」


 やはりそうだった。あの時は暴れていて、なかなか真剣に話す事ができなかったな。そんなに暴れなくなった今だからこそ、もっと2人でいろいろと話したいな。


「ふーん」

「ありがとう」


 渚は部屋を後にした。昭二はその後姿を見ている。昭二は徐々に思っていた。この人となら、一緒になりたいな。




 その夜、渚は約束の居酒屋で待っていた。今日は街を歩き回って、多少疲れた。だけど、いい気分転換に慣れた。そして、今日は昭二と飲み会だ。どんな話が飛び出すんだろう。わからないけど、楽しみだな。


「お待たせ」


 渚はその声に反応した右に向いた。昭二だ。いつも通り、昭二はラフな服装をしている。


「よぉ!」


 と、そこにはかつてのいじめグループがいる。昭二は少し戸惑った。まさか、渚が呼んだんだろうか? どうしてそんな奴らを呼ぶんだ。


「なんでお前らがいるんだよ!」


 昭二は怒り、暴れようとした。だが、渚は昭二を抑えた。


「まぁまぁいいから」

「話そうよ」


 村井は優しそうな表情だ。あのころとはまるで別人だ。とても優しそうに見える。それを見て、昭二は少し優しい表情になった。もう何もしないのなら、自分も何もやらないようにしよう。いつも通りに接すればいいだろう。


「い、いいよ・・・」

「どうしたの?」


 村井は思った。今までの怖い表情とは全く違っている。どういう事だろう。やはり、渚に会ったからだろうか?


「この人といると、なぜか優しくなれて」


 昭二もどうしてかはわからない。今までに味わった事のない感覚だ。


「そうなんだ。どうしてかな?」

「わからない」


 おしゃべりばかりで居酒屋に入らなければ、飲み会は始まらない。早く行こう。


「行こうか?」

「うん」


 4人は店に入った。店には何組かの人がいる。彼らのほとんどは仕事帰りの一杯で来ている。


「すいません、4名様で」

「はい」


 すると、店員はテーブル席に案内した。そのテーブル席は木目調で、落ち着く空間だ。


「こちらへどうぞ」


 4人はテーブル席に座った。


「いらっしゃいませ、お飲み物はどうなさいますか?」

「生中で」

「僕も!」

「俺は焼酎で」

「僕は日本酒で」


 すると、店員は厨房の中に入った。注文の品を伝えに行ったようだ。昭二はその様子をじっと見ている。


「でも今日はどうして呼んだの?」

「許してくれるのかなと思って」


 村井は下を向いていた。あの時の事を、許してくれないんだろうか? だとしたら、自分は一生、その重荷を負う事になってしまう。どうにか、あの時の過ちを許してほしいな。


「うーん・・・」


 昭二は何かを考えていた。何を考えているんだろう。素直に話してほしいな。


「どうしたの?」

「もう許してくれないなと思って。だってあれだけ暴れてんだもん」


 昭二は泣きそうになった。弱さを隠すために、あんなに暴れてきた。もう誰も近づいてくれないだろう。それでもいい。それが自分の人生なんだ。だけど、その人生は間違っていた。もっと自分と向き合う人生でなければ。


「それは・・・」


 と、渚は昭二の肩を叩いた。昭二は驚いた。


「もう暴れないでよ!」

「うーん・・・」


 昭二は言葉が詰まってしまった。自分はどうしてこんなに暴れてしまったんだろう。今までの人生って、悔いばかりだ。


「今までごめんな。俺、自分を見失っていた。誰も信じられなくなった。だけど、あの女と会う事で優しさを取り戻せが気がする」

「本当? 私の名前、渚って言うの」


 初めてあの子の名前を知った。渚というのか。いい名前だな。昭二はもっとあの子が好きになった。


「そうか。これからもよろしくね」

「ああ」


 村井はその様子を、温かい目で見ていた。ようやく優しい心を取り戻したようだ。村井はほっとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る