3

 今日の仕事を終えた昭二は、アパートに戻ってきた。もう一人暮らしをして20年近くだ。結婚なんて無縁だ。このまま俺は孤独に人生を終えてもしょうがない。誰とも仲良くなれないんだ。俺はそういう男なんだ。昭二は今の人生に絶望していた。だが、心の中では思っていた。幸せになりたいなと。だけど、いつになったら俺は幸せになるんだろう。幸せになれずに人生を終わるんだろうなと思い始めていた。


「はぁ・・・。もう疲れた」


 昭二は冷蔵庫から缶ビールを出した。勉強机には柿の種がある。つらい事ばかりだけど、酒を飲めばなんでも忘れられる。だから酒は素晴らしい。昭二はそう思っていた。


「さて、飲むか・・・」


 昭二は缶ビールを開け、飲み始めた。昭二はため息をついた。今日も1日疲れたけど、ビールを飲んで疲れを癒そう。


「もうどうなってでもいいんや」


 昭二は抱えきれないほどの苦しみを背負って生きてきた。だから、それを忘れるために酒を飲む。だけど、ちっとも忘れる事ができない。どうすれば忘れることができるんだろう。答えが全く見つからない。


 酒を飲み終わった所で、昭二は眠気に襲われ、眠ってしまった。




 昭二が目を覚ますと、そこは中学校だ。昭二は首をかしげた。どうして中学校にいるんだろう。まさか、また中学校時代の夢だろうか?


「痛てっ・・・」


 突然、誰かが後ろから野球のボールを投げつけた。昭二はまったく気づかなかった。昭二は振り向いた。だが、誰が投げつけたのか、全くわからない。だが、昭二はわかっている。あそこにいる下田がいつも投げつけるんだ。


「おい! 物を投げつけただろ?」

「なんもやってないよ!」


 だが、下田は否定する。本当は自分がしたというのに。


「バレバレなんだよ!」


 下田は再び投げつけた。昭二は再び痛がった。絶対にあいつが投げつけたのに、否定し続けている。


「やめろ! 何をするんだ!」


 昭二は下田に向かって投げつけた。下田は頭を抱えた。


「いってー!」


 だが、下田はすぐに昭二に向かって投げつけた。すると、その近くにいた生徒も投げつける。昭二がいたがっても、どんどん投げつける。


「もっとやれ! もっとやれ!」

「やめて!」


 昭二は頭を抱えた。やっと収まったと思い、昭二は顔を上げた。そこは自分のアパートの勉強机だ。どうやら昨夜と同じ夢を見ていたようだ。


「夢か・・・」


 昭二は涙を流した。いい夢を見たいのに、いつもこんな悪い夢を見てしまう。つらくてつらくてしょうがないよ。


「まったこんなの見てしまった・・・。もう忘れたいのに・・・」


 ふと、昭二は自分の人生を振り返った。悪い事ばっかりで、いい思い出が全くと言っていいほどない。


「なんで俺、こんな人生になったんだろう・・・」


 だが、昭二は思った。これが自分の人生なんだ。自分はこんなぼろぼろの人生を生き抜いてやる。


「もういい! 俺の人生なんてこんなもんよ。俺は俺らしく生きてやる! 誰も信じない! もう誰も信用できない!」


 そして、昭二は再び缶ビールを持ってきた。そして酒を飲む。その毎日だ。もう自分の人生、どうなってでもいい。生きていればそれでいいと思っていた。




 週末、昭二はいつものように居酒屋にやって来た。昭二は今週の仕事が終わると居酒屋に通っている。今週頑張った自分をねぎらうためだが、それとともに、つらい過去を忘れる目的もある。だが、全く忘れる事ができない。どうすれば忘れることができるんだろう。忘れる事ができれば、穏やかな性格に慣れるのに。普通の生活ができるのに。


 すでに商事は1リットルぐらいは飲んでいる。だが、いつもは2リットル飲んでいる。今日もそれぐらい飲むつもりだ。


「よぉ! 久しぶりだな・・・」


 そこに、かつて昭二をいじめていた鈴木がやって来た。鈴木はそれ以後反省して、昭二をいじめなくなったが、昭二と仲直りできていない。昭二が全く許してくれないからだ。会うたびにキレて、暴力を与えてしまう。されるたびに鈴木は思う。あの時いじめていたのが原因なんだ。因果応報なんだ。仕方がない。


「・・・」


 だが、昭二は何も言おうとしない。無口になっている。だが、鈴木は必死に話しかけようとする。


「そんなに怒るなよ!」

「近寄るな! 俺は誰も信じられないんだ!」


 昭二は鈴木を押し倒した。鈴木は呆然となっている。やっぱり怒られた。まだ許してくれないようだ。


「大丈夫?」


 そこに、1人の女性がやって来た。村田だ。村田は昭二をいじめておらず、かわいそうだと思っていた。だが、止める事が出来なかった。


「もう近寄りたくないわ!」


 昭二は鈴木を追い出そうとした。鈴木は何も抵抗できなかった。


「その気持ち、わかるよ」

「大丈夫?」


 そこに、渚がやって来た。渚もその居酒屋に来ていた。会った事がないが、渚も昭二を心配していた。


「まぁまぁ」

「もう仲直りできんわ・・・」


 村田は自信がない。昭二は絶望している。一生仲直りできないだろう。この性格はもう直らないだろう。自分はとんでもない事をしてしまった。だが、後悔してももう遅い。昭二はずっとこんな性格なんだ。あの時の業を受けているんだ。


「大丈夫大丈夫。絶対に仲直りできるって」


 渚を見て、鈴木は思う。本当に仲直りできるんだろうか?


「本当かな? わからない・・・」

「きっとできるさ!」


 渚は鈴木の肩を叩いた。少し自信が出たけど、本当に大丈夫だろうかという不安でいっぱいだ。


「うーん・・・」

「もう誰も人が信じられなくなったみたいで。もういいんだ。俺たちが悪いんだ」


 鈴木は泣きそうになった。仲直りするにはどうすればいいんだろうか? その答えが全く見つからない。


「だけど・・・」

「もういいよ。気にしないでおこう。関わったら痛い目にあうだけだから」


 鈴木はもうあきらめる事にした。一生、その性格は直らないだろうし、関わったらまた痛い目にあうだろう。


「そうだね」


 その頃、昭二は頭に来ていた。どうすれば忘れる事ができるんだろう。全くわからない。


「もう自分しか信用できんわ・・・」


 昭二は机をたたいた。興奮が収まらない。もう自分の人生、どうなってでもいいんだ。


「チクショー! どうしてこんな人生になったんだ・・・」


 昭二は次第に泣き出した。どうして自分の人生はこうなってしまったんだろう。俺はこうして頑張っているのに、全く満足できない。


「もういいや・・・。俺、どうなってもいいんだ・・・」


 そして昭二は酒を飲んだ。だが、忘れたくても忘れられない。




 その頃、カウンターで渚と鈴木、鈴木と同じいじめグループの安藤は飲んでいた。鈴木は泣いていた。もうあの子の性格は直らない。どうして自分は道を踏み外してしまったんだろう。昭二をいじめていなければ、自分も昭二も、普通の人生を送っていたのに。


「うーん・・・」

「どうしたの?」


 渚は優しそうな表情で声をかけた。だが、鈴木は泣き止まない。次第に店員もその様子を見に来た。


「どうやったら仲直りできるんだろうって」

「わからないよ・・・」


 鈴木も安藤も落ち込んでいた。あの時、いじめていなければ、昭二も自分たちも普通だったのに。


「僕もだよ・・・。昭二はすっかりぐれちゃったもん」

「そうだな・・・。俺でも近寄りがたいよ」


 安藤も近寄りがたいと思っていた。それが、自分に与えられた業なのだと思うと、絶望でしかない。


「どうすりゃいいんだ? 答えが見つからない・・・」

「もう近づかないようにしよう・・・」


 鈴木は安藤に、もうあきらめようと言う。近寄らなければ、何もされないからだ。


「そうだそうだ。そうしよう・・・」

「はぁ・・・」


 安藤はため息をついた。いつまでこんな業を受け続けるんだろう。普通に昭二と交流したいのに、謝りたいのに。


「どうしたんだい?」

「いつになったら元の優しい昭二になるんだろう」


 渚は安藤の肩を叩いた。安藤は少し勇気が出たが、すぐに元の表情に変わった。


「わからないけど、奇跡を信じよう」

「奇跡?」


 安藤は思った。本当に奇跡って起こるんだろうか? 全く奇跡を起こした事がないのに。


「うん。きっと誰かが元通りにしてくれるさ!」

「本当に元通りになるのかな?」


 それでも安藤は疑い深かった。昭二が元通りになるなんて、無理だろう。あんな性格なんだから。


「きっと大丈夫。人は変われるんだから」

「そうかな?」

「信じよう!」


 渚は励ました。だが、2人の表情は変わらない。いったい、いつになったら普通に交流できるようになるんだろう。そのためには、自分も頑張らなければならないかもしれない。後日会ってみて、話をしてみようじゃないか?

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