合コン寿司
合宿十五日目。夕方十六時頃になるとソワソワした生徒がリビングに集まり始めて、これから合コン寿司が始まるらしい。大会に向けて仮眠しているコモケーと体調不良でダウンしている天草先輩は不参加で、残った俺とミホは会場の様子を遠目に眺めていた。
今回の為に用意した木の四角いテーブルを二つ並べ、一席で四人座るスタイル。メインディッシュの寿司は容器の中に大トロが何十貫も入ってるようだ。
「ミホ、あれマジで高級なやつ?」
「銀座と神楽坂のお店で使われてる
お嬢様が言うなら間違いないな。味にごくりと期待しながらその場の雰囲気に目を向けてみると、既に透明人間や一般生徒が好きなように集まってカラオケ店内みたいなノリになってる。学校事情とか関係無い上に、久々に伸び伸びとコミュニケーションが取れる機会となれば高校生達の勢いは止められない。
「これって恋リアか何かだったりしない?」
「寿司で矢印相関図が入り乱れそうだな」
ミホが言うように恋愛番組企画としか思えない合コン寿司だが、一応強制参加ではない。でも工場弁当で貧乏になった俺の舌が新しい味を求めてて、なんとか混ざれないか目で探すがどの席も最低二人。どうしても相席になる。
「あッ、和泉沢の! ここが、ああ、空いてるよ」
そこに昨日、和泉沢のコネを狙おうとコンビを組んだ広瀬と古川がこっちに手招きしている。俺はご丁寧な口調でミホに道を譲った。
「良かったな、ご指名だぞ」
「
「きーちゃんも、ご指名みたい?」
ミホが苦笑いで座席を指差す。これ男三人でお嬢様を囲おうって魂胆だろ、見え見えの下心に付き合いながらミホと向かい合う形で着席した。
「オレ
「古川
「
周りに純白の花が咲いたフィルターが見える、俺の知らない花笠美穂が出てきたぞ。合コン寿司ではそのスタイルで行くつもりか。
「オレと
寿司のラップを取ったり、箸やおしぼりを配りながら、いつも通り早口で下の名前呼びする広瀬はミホに絡む。
「北水君は、色々気を遣ってくれてて。ただ、部屋でシャツ着てないのは……直して欲しいかな」
「「はぁ⁉︎」」
「今はもうしてない! 最初、最初だけだから!」
紛れもない事実に、言い訳しか出来ない俺は広瀬と古川から熱苦しい敵対心を向けられる。お淑やかな口調におまかせしてたけど、合宿でのあれこれを色々誇張表現しないか心配だぞ。ドキドキしながら、コモケーに頼まれた良い寿司ネタを取り皿へ確保していく。
「
「ううん、大丈夫。ありがとう、恭平君」
「いやいやそれほどでもないッスよ!」
俺下げをしつつ、ほぼ無理矢理な下の名前呼びを受けてテンションが上がる広瀬。こいつ息継ぎ無しでよく喋れるな、聞き取る側は大変だぞ毎回。
「おい
「じゃあ、すす、好きな男のタイプ!」
「うーん……余裕があって、文武両道で、甘やかしてくれる人が
「うぉおぉお嬢様はやっぱり王子様みたいなのがタイプなんすねぇ!」
「甘やかすなら俺、ああ、当てはまってるけど⁉︎」
「一個も該当しない俺は、関係ないな」
流れに合わせて適当な事言ったら、礼儀正しい顔のミホに座ってる椅子の足を蹴られた。え、話逸らせよって意味なのか、あッッぶない、椅子から転がり落ちちゃうって。
「つッ、次は俺らの好きな女子のタイィッ……プ話そうぜ?」
苦し紛れの話題作りで、やっと椅子への攻撃をやめてくれた。天草先輩への告白を先延ばしてからミホの当たりが強い、俺が意気地無しなせいもあるけど。
「じゃあ、まま、まずは北水から!」
「俺? 好きになった奴が好きだけど」
適当に回答して、俺は大トロを食べ始める。
「単純すぎだろ〜お前オタクに優しいギャルとか好きそう」
「素の優しさに、見た目は関係ないだろ」
「
んー、この大トロは美味いけど、回転寿司との違いがいまいち分からないな。高級に期待し過ぎたか。次は何の魚か分からない、白身の寿司を食う。——やっぱ普通に感じるぞ。
「へえ、古川君はそうなんだ」
黙々とカニとイクラと鯛の寿司を味わいながら、広瀬アンド古川と話すミホを眺める。やっぱり風貌は、日本三大お嬢様学校の和泉沢って感じだ。面倒でつまらない話に付き合わされて態度に出ないの本当に凄い、俺なら食べることに集中する。
「へー
「女子校だと、やっぱり出会いが無くて」
「ならさ、おお、俺ら三人の中で付き合うなら誰がいい⁉︎」
「うぅん、それはちょっと選ぶの難しいかな……」
「オレと
広瀬のゴリ押しで答えなきゃいけない雰囲気になったぞ。大変だな、男に囲まれる女子ってのは。
「北水君」
悩む事無く、ミホは俺の名前を選んだ。既に広瀬と古川が「「なんで
「なんで俺なの?」
三人の中から選ぶのはあっという間だったのに理由を求められた途端、湯呑みに口を付け始めて回答を渋る。
「ほっとする、からかな」
温かい緑茶を飲んだ後、落ち着いた顔でミホはそう言った。それを見て、駐車場で緑茶を好きな理由を話してくれた時の事を結び付ける。無難に選んだだけなんだろうな、きっと。
「くそぉおぉお羨ましいぞ
「これがグループで得た関係値補正ってやつ」
「くッ、ずず、ずるいってそれ!」
三人から選んで反応面倒じゃないのが俺だったってだけだしなぁと再び寿司を食べ始めた時、女子の制服を着た透明人間と一般生徒が近付いてきた。
「あの……、和泉沢の生徒さんだよね?」
「お話、出来たらなぁーと思って」
追加の女子二人を逃すまいと、広瀬はガタッと立ち上がった。
「全然大丈夫大丈夫えっと空いてる椅子は」
「あ、いいよ。俺一回部屋に戻るから」
コモケーの寿司を届けるタイミングに合わせて、俺は席を一つ譲った。男子だけならアレだったけど、女子がいるならミホも大丈夫だろ。
チラッと見ると既に透明人間の子と話していたから静かにその場を離れて、俺は騒がしい水槽リビングから二人が寝ている部屋に向かった。
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