関係の可視化
ふぁあとあくびをしながら、俺は一般生徒が集う賑やかな教室内で参考書を読む。あれから合宿は早十日は経ったが、学校っぽい事をする毎日を過ごしてる。ここ最近は行事らしい行事無しで、学習カリキュラムがメインな感じだ。
透明人間との生活も慣れたけど、あの気配だけはなかなか肌に馴染まない。今の所聞かないけど、被害妄想とか対人恐怖症に繋がりそうで結構危うさあるんじゃないか。まあ、それも知り合いになれば気にならないのはコモケーと天草先輩と一緒に過ごしてればわかる。
「おっす、きーちゃん」
ミホの声が聞こえて「よう」と返すと、いつもと雰囲気が変わっていた。最初こそ黒髪ロングにカチューシャの真面目スタイルだったが、今日は短くした上でポニーテールに結っている。
「髪切ったのか?」
「まぁね、似合うでしょ〜?」
ほれほれハイポニーシュシュだよぉと一々解説してくるが、親しみ易くなって印象はいい。ミホ自身も見た目を変えれて嬉しそうだ。
「ヘアスタイリストさんまで施設から生えてくるとか、もう最高〜ッ!」
「ショッピングセンターかってくらい、学生ニーズ対応完璧な合宿施設だよな」
「合宿の間くらい、普段できない事しないとね!」
何気ないその言葉が凄く耳に残った。あれから夜中サムバしたり、話す機会が毎日あるのに今だに天草先輩の事を全然知らない、進展もしてない。
考えてみれば合宿が終わったら、この関係性はどうなっちまうんだろう。学校は別々だし、連絡先とSNSの交換もしてないし。もう十日経ったんだぞ。この調子だと何も出来ないまま、さよならしてしまうんじゃないか。
「今日も学習プログラムか〜。もう勉強とかいいから、キャンプファイヤーくらいしたいよねぇ」
「そうだな……」
割と真面目に勉強しようとするミホが隣の席に座った。予定も分からず過ぎてく毎日、急に心臓がドキドキと叩く。
「俺さ、今週天草先輩に告白しようと思ってる」
「はぁ?」
突拍子もない発言に当然の反応をされる。ミホは横向きで疑問顔を迫らせてきた。
「決断急ぎ過ぎでしょ。まだアマユユスの性別も、恋人がいるかどうかも分からないままじゃん?」
「合宿期間は一カ月しかねぇ、モタモタしてられないだろ」
「いやいや〜……告白するにしても最終日にしときなよ、良くてもダメでも一番綺麗に収まるんだから」
「くッ……。でも気持ちを隠す理由が、俺にはない訳で」
「でも、相手は隠し事だらけだよ?」
ミホの指摘にエゴを押し通せなかった。人間性はよく分かるし存在感も人一倍あるけど、それだけしか見えない。
「女子目線意見だけど、中身を知ってもない相手から告白されてもダルイだけなんだよね」
「男なら一目惚れって言われると……結構、嬉しいもんだけどな」
「それにこれ、実態調査なんだよ。感情を表に出したら、データみたいな扱いされるかもだし」
「それは……、分かってるけどよ」
「ま。どっちみち、お互い尊重し合えるような関係値があるとは思えないね〜?」
意見交換の後に現実を突き付けられて、俺は突っ伏す。振られた後の事を想像してみたが、表情が見えない相手と過ごす毎日はあまりにも辛い。でも今の不明瞭な天草先輩が好きなんだ、知り過ぎて伝える前から心変わりするのもそれはそれでカッコ悪い。
「じゃあ俺はどうしたらいいんだよ……」
「ん〜……。まずは二人で写真撮る所から目指してみたら?」
「写真?」
「そ、二人共通の思い出ってやつ。写真なら、行事も関係なくいつでもトライ出来るし」
確かにと俺は身体を起こした。ネットにアップは出来ないがスマホで合宿の写真を撮る事自体は禁止されていない、まさにアプローチの第一段階だ。
「ミホ天才だな、さすが和泉沢だ」
「そこまで言う事ぉ? ま、これが
おいおい、こいつ本当に先週下ネタ連発しまくった人間なのか。控えろって言っても、たまにエロトークが飛び出してくるがお嬢様の教養は伊達じゃ無いぜ。
「こんなアイデアがスッと出るなら、学習プログラムなんて余裕だろうしな」
「どうだろ。やってる事、基礎中の基礎じゃない?」
「確かに。高校レベルではあるけど、別に普通って感だよな。ちなみにミホの成績は?」
「もちろん、平均点! きーちゃんは?」
「並だよ……」
他愛無い話をしていると、ガラッとドアが開いて教員が入ってきた。いつもならヨボヨボ越前先生が来るんだけど、教壇に立ったのは五島先生だ。
「本日は、越前先生が体調不良の為、
相変わらずの独特イントネーションとよく似合うメガネ+白衣で丁寧にご挨拶。勉強姿勢に入ろうと筆箱に手を伸ばすと、俺の手首に何かが見えて確認したらグレーの毛……いや、短い白髪が袖についていた。
猫の毛かと思ったけど、この施設にペットいないだろと適当に払ったら微かなミホの視線を感じた。
「どうしたの?」
「なんでもね」
この学習プログラムに透明人間は参加していない。飯で毎日会うし、昨日もコモケーの部屋で三人組んでサムバしたけど——少しだけ、一般生徒と距離を置かれているような気がする。
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