(尾畑壮)

「ごめんね・・・ごめんね」

 記憶が途切れていく中、泣きながら謝る母の姿を今でも覚えている。


 目を覚ました時、僕は知らない場所のベットで眠っていた。

目の前には、知らない人、知らない顔、この人たちは一体誰なんだろう。

「目が覚めた?」

 知らない女の人が、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

「自分のお名前わかるかな?」

 僕は首を横に振った。

 その日から僕は、大原光として生きてきた。養子として引き取ってくれた両親と何不自由なく幸せに過ごした。その幸せな時間は、ふとした瞬間に破られる。


「初めまして。尾畑未由です」

 そう笑った彼女を見た時、思い出してしまったのだ。

 自分たちの記憶も、母のことも。そして、未由のことが好きだった記憶も。その夜は、どうしようもない気持ちを叫び泣くことしかできなかった。

 僕だけが全てを知っていて、何も知らない他の四人を酷く羨ましいとさえ思った。昔、未由と交わした約束を守り結婚した。しかし、全てを知っている僕は、子供は作らないと決めた。僕たちのような子を増やしてはいけないのだ。幸い未由も、子供が欲しいと思っていなかったと言ってくれた。


 そこから僕は調べに調べた。

 この町のこと、金丸の噂、母たちのこと。

 調べれば調べるほど、知りたくなかった現実と向かい合わなければいけなかった。

 僕は苦しくて仕方がなかったのに、未由は全てを知っても、何故あんなに平然としていられるのだろう。


 燃え広がる辺りと、拓の亡骸を見ながら小さくため息をついた。未由は逃げ切れるだろうか?

「未由のことだから、もしかしたら逃げ切れるのかもな」

そう言いながら、煙が立ち上る空を見た。

 

 夕暮れどきの魔女に囚われていたのは僕だけなのかもしれない。

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