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(尾畑美代子)
火を放つことに抵抗はなかった。
むしろ、みんないなくなってもいいと思った。
特別に家族に思い入れがあるわけではなかった。
父は物心ついた頃には、家に帰ってこないことが多かったし、母も見て見ぬ振りをしていた。
誠兄さんも、私には全く興味がないようでいないも同然の扱いだった。
もう一人の兄さんは生真面目な人だったけれど、一番私を人間として見てくれる人だった。それも、高校を卒業と同時にこの町から出て行った。
私が、誠兄さんみたいに医者になったらよかったのだろうか。
いつしか、誠兄さんは病院という名の研究所にこもり、母も山奥の小屋に籠ってしまった。私はいつも独りぼっちだった。
あの日、学校の帰り道。
研究所の周りに灯油を撒く人間を私は見た。
一人はわからなかったけれど、研究所の中から出てきた人間が、病院の明美先生だったことに驚いた。
明美先生は、何の迷いもなくライターを投げ入れた。
燃え上がっていく炎の中、私はヘンゼルとグレーテルを思い出したのだ。
それからは無我夢中だった。
幼い頃に見た、絵本の中の悪い魔女は業火に焼かれて命を落とすのだ。
私も、明美先生たちのいる白鳥坂の貸家近辺に灯油を撒いた。そのまま、母のいる小屋まで灯油を撒いて歩く予定だった。
この町の魔女は、私が綺麗さっぱり燃やし尽くす。そう思った。
魔女の子供達だって、将来は魔女になるかもしれないじゃない。
それなのに、あんなに無関心だった私の父は、生き残ったあの四人を笑顔で連れてきたのよ?
でも、でもね。一緒に過ごした時間があまりにも楽しくて、そんな気持ちを忘れていたの。
目の前にいる男は昔の兄にそっくりで、生まれ変わりなのかもなんて思った。
誠兄さんは私と視線が合うことなんてなかったから、真っ直ぐに目を見て
「協力してほしい」
なんて言われた日には、協力するしかなかった。
父の遺体の棺と空っぽの棺を取り替えるだけだったから・・・
それなのに、菜々があんなことに。
目を覚ますと、見たことの無い天井だった。
長く眠っていた割には、スッキリとしない。
私は、頼まれた通りに上手くできたのだろうか?
「尾畑美代子さんが、目を覚まされました!」
看護師の人だろうか?慌てて何処かへと行ってしまう。
戻ってくると、後ろに警察らしき人達を率いていた。
「尾畑美代子さんですね?」
「・・・はい」
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