12羽目

 ★★★★☆

(未由)

 病院のベッドで、あの岩の中で見つけた写真を見ている。

 どの写真も何も知らない無垢な私たちと、何かを隠しているのを悟らせない母たちの笑顔が写っている。

 写真の後ろには、幼い文字で菜々から手紙が書いてある。

『そうちゃんはゆずります』

 ずっと奈々も壮ちゃんを好きなことは知っていた。

 風鈴のおばあちゃんに言われた、質問の答え

「あんたの家にはカラスウリが植えられていたよ」

という言葉を思い出す。

 病室の扉がいきなり開き、看護師さんが入ってくる。

看護師さんの手には、シロツメクサの花束が握られている。

「さっき、受付で男性の方に渡されて」

と、小さな花束を渡された。「では」と早々に病室を出て行く。どうやら忙しい中、届けてくれたようだ。

ああ、そうか。

 病室の摺りガラスから、看護師さんが廊下を走っていく影が見えた。

 そして代わりに、こちらに向かってくる黒い影が見える。

 黒い影は、ゆっくりと近づいてくる。

私は唇の端が自然と上がった気がした。もう逃げ道はどこにもないのだ。

 一体どちらが先だろう・・・


 コンコンコン


 窓から外を眺める。夕暮れどきだ。カラスが泣いている。

そう、私たちも夕暮れどきの魔女たちだったのかもしれない。

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