(尾畑壮)

 僕の母はよく笑い、よく泣く人だった。

 金曜日に作るカレー以外はいつも美味しい料理を作ってくれた。

 僕は金曜日のカレーを作るとき、母が何かをカレーに入れるのを見てしまった。何かと尋ねると、

「壮はね心臓の病気で長くは生きられないの。だからね、そのお薬を入れたのよ」

と、母は泣きながら僕に嘘をついた。

 その日のカレーを食べた後、僕の体は痙攣し口からは沢山の泡が出た。

 朦朧とする意識の中、母は泣き、未由のお母さんは叫んでいた。


 おかしいと思っていた。

 母に「未由ちゃんと結婚するんだ」と、伝えたときに目の色を変えて

「それはできないのよ」

と言われたこと。

 未由と再開するまで、記憶がすっぽり抜け落ちてしまったこと。

 母さんではない人たちに育てられていたこと。





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