1隻目
こんなに朝早くから呼び出されるなんて思っても見なかった。なんでも山林で、白骨化した遺体が出たらしい。
眠たい目を擦りながら、俺は呼び出された山に向かった。
「今回の山林は、中々人が出入りしないらしいが、どうしてご遺体が見つかったんだ?」
隣で運転している部下に尋ねる。
まだ「来い」と、言われただけで詳細が把握しきれていなかった。
「なんだか、匿名で通報があったらしいですよ」
「匿名?」
「はい。最初はイタズラ電話だと思ったらしくて担当者も相手にしてはいなかったということなんですが・・・」
運転中の部下が言葉を濁した。そして俺に一枚の写真を手渡す。
「遺体の一部が送られてきたと・・・」
部下は黙って頷いた。
警察署宛に遺体の腕だと思われる小包が届き、捜査になったらしい。しかも、ご丁寧に遺体の残りの地図付きだ。
とてもじゃないが『自分で殺しました、自分で埋めました』というだけの話ではない気がしていた。わざわざ、自分で埋めた遺体を自分で通報する奴もいないだろう。何か裏があるなら話は別だが。
「わざわざ、警察署に小包を送ってまでも、僕たちに見つけさせたいなんて何かあるんですかね」
「死体探しのプロだったりするのかね」
ありもしないことを言ってみる。
「尾畑さん流石にそれはないですって」
部下が苦笑いをしているようだ。流石にそれはないにしても、この遺体を見つけさせてまで何を調べさせたいのだろう。
山林のカーブにあるガードレール下に、そのご遺体の残りがあった。
カーブのずっと手前にパトカーや警察車両が停まっていて、その後ろに車をつけてもらう。
「ひえ〜、こんなところにご遺体があっても見つかりませんって」
部下が後ろで騒いでいるのを聞きながら、白い手袋をする。
くたびれた革靴で、足場が悪い道を歩いていく。
木と木の間に張り巡らされたテープをくぐり、まだ全ては掘り出されていない、ご遺体の元へと行く。
俺は、ご遺体に手を合わせた。
「身元がわかるものは、見つかってるのか?」
近くにいた鑑識員に尋ねる。
「今のところ見つかってはいません」
作業しながら、こちらを一瞥もしないで鑑識員が言った。
「そうか。これを送ってきた奴は少なからず、このご遺体を俺たちに見つけさせたい奴なんだろう。自分では身元を調べられない、もしくは何らかの事件に巻き込まれている可能性があるってわけだ」
鑑識員が、俺をみているのがわかった。
「それって・・・」
普段どこか抜けているこの部下が、今の説明だけで内容を把握できただろうか。
「連続殺人事件のご遺体かもしれないってことですか?」
「ほう」
と、珍しく声が出そうになった。察しがいい。
「そうだ。周辺に身元がわかるものがないかの捜索と、ほかに別のご遺体が埋まっていないかの捜索を二手に分かれてしてもらいたい」
鑑識員を見ると、少し面倒さそうな顔をしていた。
「一人のご遺体の為に、人数を増員しろと?」
その言葉に俺はため息をつきつつ、頭を搔いた。
「周辺に他のご遺体が埋まってなかったら、そこで打ち切りでいい。ただこの山、何か匂う気がする」
「それって、刑事の勘ってやつですか」
部下が面白かったのか、少し笑いながら言った。
「はっ、まさか。本当に殺した奴が死体を埋めるとしたら、決して見つからない所に別々に埋めるだろ?」
「?」
部下が首を傾げている。今度は察しが悪いなと思った。
「他に何かこの辺りにあるんだろうよ」
二手に分かれて捜索を始めて、二時間くらいで案の定、別のご遺体が出た。
だいぶ近くに白骨化しているご遺体が、浅めに埋められていたらしい。
「こちらのご遺体も、身元がわかるようなものはありませんでした」
鑑識員が、またこちらを見ずに言った。
「ご遺体を見つけられても身元が全然わからないんじゃ、こちらもなかなか探しようがない」
俺は頭の後ろを搔きながら言った。
「ただ、一つわかっているのは、ご遺体を埋めた人間と、ご遺体の場所を教えてくれた人間は違うということだな」
俺が腕を組みかけたそのとき、
「出ましたーーー」
部下がいきなり後ろで叫んだ。
「おい、声がでかいぞ。聞こえてるっての」
「出たんですーーー」
「何がだよ?身元がわかるようなものか?」
部下の元気な声が少しうるさく感じる。疲れているのかもしれない。だが、身元がわかるものが出たならいい。すぐ調べられる。
「もう一人!もう一人分のご遺体が出たんですーーー」
部下がここから出たと、手を大きく振りながらアピールする。
「はっ、まじかよ」
俺は少し笑ってしまった。ここ辺りの場所からあとどれだけのご遺体が出るのだろう。そうなったのなら、大が付くほどの連続殺人事件だ。公にはなっていない殺人。俺の背筋にゾクッと何か寒気がきたのがわかった。
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