第2話 空を超えて

 クリスマス・イヴの夜。九段下の会館で行われた二つの大学の学生主催によるダンスパーティが盛大に行われた。学生バンドがクリスマス音楽を陽気に奏でてスタートした。皆で祝杯をしたのちバンドがメロウなジャズナンバーに演奏を変えたのであちこちでカップルが社交ダンスを行おうとするが大賑わいで踊れたものではなかった。仕方なく立食パーティ風になる。あちこちで男の子が女の子に声をかけ、ペアになる者もあれば壁の花のように動けないシャイな者もあった。赤松はというと隅の方でやはり場に馴染めなかった友人の男たちとたむろしているだけだった。何人かの女の子に声をかけても研に幌呂で相手にされず次第に気持ちが折れたのだ。

「まぁ、たぶんこうなるだろうとは思っていたけど。」自嘲して赤松がぼやいた。

「もう、ここは出て、どこかで飲もうか。」

「そうだな。」口々に言いさっさと会場を後にした。出る途中、斎藤や他の先輩にもあったか皆、バツが悪そうに眼を逸らした。

 十二月の夜は寒くコートの襟を立てた。ましてや恋人のいない男には寒さが身に沁みた。九段下駅近くの居酒屋に入り熱燗を飲んでモテない同士、肩を寄せ合い管を巻いた。だが、こういう連帯感も案外楽しいものである。ふと、赤松は谷田のことを思い出した。(今頃、『アトム』を観ているのだろうな。)そう思うとなんだか、谷田には自分にはない揺るぎない芯を持っているように感じられた。



 その頃、谷田は『アトム』を食卓で観ていた。オープニングの歌が流れる。


空を超えて ラララ 星の彼方

行くぞ アトム ジェットの限り


両親は大学まで行っている息子が漫画に夢中なのを幼いと思ってはいたが、普段、真面目に勉強しているからと大目に見ている。

「ごはん、早く食べなさい。冷めちゃうじゃない。」母親が注意をするが生返事しただけだった。父親は食事を食べ終え黙って新聞を読んでいた。

 『アトム』を観終え自室のベッドに寝っ転がった。そして今観たストーリーを述回した。こういう時間も好きだった。それから机に向かいレポート用紙に感想を書き綴った。書き終えたらまた、テレビ局に送るつもりである。そして、もし手塚先生が本当にそれを目にし、お礼に直筆のサインと返事の手紙が来たらいいなぁ、などと都合の良い事を勝手に夢想しているのだった。

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