第1話 変わった先輩(3)

 映画館は平日の午後でも子ども連れが多かった。冬休み前で小学生などは午前中で授業を終えているらしい。席に座り上映を待つ間、子どもたちの嬌声を聞きながら体裁悪く過ごした。

「なんだか場違いですよね。」

赤松が苦笑いして話し掛けた。

「でも君が一緒で良かったよ。一人だとホント恥ずかしいんだ。」

「でしょうね。」


 漸く場内が暗くなり本編が始まった。カラーのシネマスコープでタイトルロールに“原案構成 手塚治虫”とあったのを赤松は確認した。監督は白川大介。

 『わんわん忠臣蔵』は素晴らしかった。森の奥に住む悪役の虎キラーに殺された母犬の仇討ちの為に、成長した主人公の野良犬ロックが街で知り合った犬の仲間と共に戦いを挑む物語で、ギャグもアクションも豊富で、場内の子どもたちが一斉にケラケラ笑い、そして息をのんだ。犬たちの疾走する姿や雪の降る森林など情景描写の美しさに見惚れた。(東映動画は日本のディズニーだ。)赤松は観ていて溜息が出た。更にキラーとロックが遊園地の走るジェットコースター上で対決するクライマックスのアクションは圧巻だった。(これは実写ではできない。)赤松は舌を巻いた。ふと、横を見ると谷田が食い入るように画面を魅入っていた。一瞬たりとも見逃したくないという姿勢が伺えた。

 場内が明るくなった。

「良かったです。観てよかった。」

赤松が素直な気持ちで言うと谷田も仕切りに頷いて笑った。


帰りの道すがら、谷田がこう告げた。

「赤松君。日本の映画はその内、漫画映画がけん引する日が来るよ。テレビもこれからどんどん漫画をやるようになる。文学よりも漫画が読まれる時代が来ると思う。」

「へぇー。そんな日がきますかねぇ。」

赤松は懐疑的に応じた。

「まだ、先だけど大人もきっとそうなると思う。今、劇場で観ていた子どもたちが大人になったらそうなるよ。」

「なるほど。」興奮した様に話す谷田に、赤松は否定も肯定もできずに曖昧に答えるしかなかった。

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