第15話

ソファーに座った僕は俯いてしまった


そしてその先にはつい先ほど遊上くんから繋がれた恋人繋ぎをしたままの僕たちの手が映る


…聞くのが怖い


遊上くんが僕をどう思っているのかなんて


遊上くんだから、付き合ってはいるけど、僕だけが特別じゃないとか…


もしかしたら、付き合っているけど、セフレの子たちとの関係を解消する気はないとか……


………もしそうなら、嫌だなぁ…


悪い方、悪い方へと僕の思考はさらわれていく


その気持ちを誤魔化すために、ぎゅっと手を握る




「……それで、話って?」


「あ、の……」




言わなきゃ…


今ならきっと、聞けるはず…


僕は意を決し、遊上くんを見る




「……あのさ、遊上くん…


遊上くんの…


君の気持ち、聞かせて…?」


「…気持ち……?」




鸚鵡返しにされて、僕は言葉が足りなかったことに気付く


次の言葉を紡ぐために、僕は自分の唇を舐め濡らした




「……遊上くんが、僕のことをどう思ってるのか、聞かせてほしいの…


………僕のこと、好き…?」




思わず、声が震えた


というよりも、少し涙声になってしまった


不安に押しつぶされてしまいそうで、ぎゅっと握った手が少し震えていた


ついに、ついに聞いてしまったのだ


あぁ、遊上くんの返事を聞くのが怖い


付き合ってるけど、好きじゃないよ


セフレの子たちと一緒だよ


なんて言われてしまうのではないかと、怖くなってしまう


怖いけど、そのままじっと遊上くんを見つめていると、最初はきょとんとしていた彼だが、数瞬の後表情をやわらげた




「……好きだよ…


ごめんね、全部終わらせてから言おうと思ってたんだ


そのせいで不安にさせてたなんて知らなかった…」




そう言って遊上くんは僕の頭を撫でた


初めて


初めて遊上くんが僕に好きだと言ってくれた


そのことが嬉しすぎて、涙があふれてくる




「……ほ、ホントに…?


遊びじゃ、ない…?


……セフレの子たちと、一緒じゃない……?」


「本当だよ


矢野だけが…


楓だけが、俺の唯一の好きな人で恋人だよ」




やっと、やっと遊上くんから欲しかった言葉が聞けた


僕はそれがただただ嬉しくて、泣きながら遊上くんに抱き着いた


遊上くんの唯一の好きな人で恋人に、僕はなれていたんだ…


セフレの子たちと違って、僕は遊上くんの特別になっていたんだ…!




「うえぇぇぇ、遊上くんー!


僕も遊上くん大好きだし、恋人も遊上くんだけだよぉー!」




遊上くんに泣きながら抱き着いたままそう言うと、遊上くんはむっとした顔で僕の顔を両手で挟んでお互いの顔を突き合わせる




「……ねぇ、いつまで俺のことは名字で呼ぶの、楓?」


「…!!!


し、たの名前で、呼んで…良いの?」




遊上くんが僕を下の名前で呼んでくれていることにやっと気づいた僕は、恐る恐る遊上くんに尋ねると、遊上くんが頷く




「俺の知らないやつばっかり下の名前で呼んで…


早く俺の名前、呼んでよ?」


「…しゅ、愁くん……」

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