第13話

はぁぁと盛大な溜息を遊上くんが吐く


……あぁ、僕は遊上くんに呆れられたのか…


それとも嫌われちゃったのかな…?


………このまま、ここで別れたいって言われるのかな…


あぁ、そもそも付き合ってると思ってたのは僕だけで、遊上くんにとっては僕なんて取るに足らない存在なのかも……


嫌な想像がやけにリアルで、鼻の奥がツンとする


あぁ、泣いても何の解決にもならないのに


遊上くんに迷惑をかけるだけなのに


僕が泣いてはいけないんだ…


そう思えば思うほどこらえきれなくて、僕の瞳からぽろぽろと涙がこぼれだす


こんな醜い姿、遊上くんに見られたくない…


そう思うと、僕はその場から玄関の方へ飛び出していた


が、運動が苦手な僕よりも体格のいい遊上くんの方が足は速いようで、玄関のドアを開ける前に遊上くんにつかまった


左腕をつかまれ、振り返させられたまま、ドアに背中を打ち付けた


今の僕と遊上くんの体制を分かりやすく言うのなら、いわゆる壁ドンみたいな体制だ


背の小さめな僕がドアに押し付けられ、背が僕より大きい遊上くんに覆いかぶされるような形になっていた


普段から僕に触れようとしない遊上くんとの余りあり得ない体制なのだが、遊上くんの前から逃げ出したい僕はそれどころではない


つかまれていない右手で顔を隠しつつ、僕は遊上くんに離すよう懇願する




「……離し、て…」


「…離したらどこか行くんだろ?


あの隆幸って男のところか?」


「なん……


ち、ちが…」




遊上くんの言葉に驚きつつ否定しようとすると、遊上くんは舌打ちをして僕の右手もつかむとそのまま左手同様ドアに押し付けられた


遊上くんにつかまれた手が痛い




「………俺には触られるのも嫌がるくせに、そいつには簡単に触らせるんだな!?」


「…!!?」




遊上くんの言葉が一瞬理解できなかったが、理解した瞬間驚愕する


…どういうこと……?


僕は泣き顔を隠したかったのも忘れて、ポカンと遊上くんを見返す


涙で少し見えづらかったが、遊上くんの顔がなぜか苦し気に歪められていた


思ってもみなかった遊上くんの表情に僕はさらに混乱する


なぜ遊上くんはこんなに苦しそうな、悲しそうな顔をしているのか?


そもそも僕は遊上くんに触られるのを嫌がった覚えなどないし、むしろ触って欲しいぐらいだったのに…


僕の中で加速度的に疑問が膨らんでいく




「ま、待って、どういうこと…?」




僕はわけがわからず、つい遊上くんに尋ねていた


遊上くんは分かっていない僕の様子を見てさらに眉間の皴を深めた




「……さっきだって逃げようとしてたし、今までも俺が触れようとするたびにびくびくと怯えていただろ」


「ち、違う!!


に、逃げようとしたのは泣き顔を見られたくなくて…


遊上くんに触られるの嫌じゃないよ!


遊上くんが好きだから、触りたいし触られたいけど、遊上くんから触られるときはどうしても緊張しちゃって…」




恥ずかしくなって、顔に熱が集中する


あああ、言っちゃった


どうしよう


恥ずかしい、僕の顔今絶対赤くなってる


とてつもない恥ずかしさに顔を俯けてしまいたかったが、この言葉に嘘はないと証明するために、僕は一生懸命遊上くんの目を見つめる


すると、じわりと遊上くんの頬も赤くなってきた、気がする


いや、気のせいかもしれないけど…


じっと遊上くんを見つめていると、僕の左手をつかんでいた遊上くんの手がするりと僕の頬を撫でる


瞬間、僕は火が付いたように体が熱くなった




「…お前に触ってもいいってことだよな?」




僕の涙を優しく拭いながら遊上くんに尋ねられ、僕は赤いまま小さく頷く

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