第12話

「………遊上、くん…」




僕は、まさかこの時間に遊上くんが帰ってきているとは思っておらず、玄関を開けたまま固まってしまった


そんな僕にものすごく不機嫌そうな遊上くんが舌打ちをする


それにびくりと僕の体が小さく震えた


それを見た遊上くんはさらに苛立たしげな顔をして、奥を顎でしゃくる




「……話がある」


「……は、い…」




地を這うような遊上くんの声にすくみ上った僕の絞り出した返事はかすれ、上ずっていた


遊上くんは僕がこれまで見たことのないほど、怒っていた


それだけが理解できて、僕の足はすくみそうになるが、先に共有スペースに待っている遊上くんを待たせられない


震える体に鞭打って僕は共有スペースに入る


ここに入るためだけにここまで勇気が要ったのは、今日が始めてだ


僕が共有スペースに来たのを確認すると、遊上くんはどさりとソファーに座る


僕はどうしようかと視線を巡らせていると、遊上くんが不機嫌丸出しの声で言う




「…そこ、座って」




遊上くんが指さしたのは、テーブルを挟んだところだった


小さくはいと返事をしつつ、遊上くんに指定されたところに正座をする


正座して、居心地は悪いがとりあえず姿勢は正す


それを見て、遊上くんは口火を切った




「………それで、あの噂は本当なの?」


「ち、違うの!


あれは、僕と隆幸のお喋りを一部だけ聞いて勘違いしたクラスメイトが言いふらしただけで、僕は隆幸と付き合ってないよ!」




あの噂、と遊上くんの口から出てきて、僕は少し安心した


だって、もし遊上くんが本当に僕に興味がなく、どうでもいいのなら噂のことなんて気にも留めないだろうし、こうやって詰問されることもなかっただろう


遊上くんがまだ僕に興味を持ってくれていることに安堵していた僕は、遊上くんの綺麗な眉がピクリと動いたことを知らない




「……勘違いされるような会話、ね…」




ぼそりと呟いた遊上くんの声が聞き取れなかったが、更に不機嫌そうになった遊上くんが怖くて僕は何となくそれを聞き返せなかった


何か考え事でもしているのか、組んだ足の上に肘を置き、頬杖を突いたまま遊上くんはそのまま喋らない


止まった会話に僕はさらに居心地が悪くなる


どうしようと思案しているうちに、遊上くんがまた喉を震わせた




「………ちなみに、どんな会話してたの?」


「…へ?


会話……


えーっと、僕が隆幸のシャワー待ってる間にソファーで寝てたんだけど、今朝起きたらベッドに居たから何でかなーって思って登校中に隆幸に聞いたら、隆幸が寝てた僕をベッドまで運んでくれてたんだって


それで、隆幸はどこで寝たのか聞いたら、僕がちっちゃいから僕を抱いて寝たって……」




今朝のことを思い出しつつかいつまんで話すと、だんだん遊上くんの眉間の皴が深くなり、最後には舌打ちまでされてしまった


こ、怖い…


恐怖で瞳に涙の膜が張る


今日の遊上くんはまるで隆幸が地雷かのように、隆幸の話をすればするほど機嫌が悪くなっていく




「……じゃぁ、昨日居なかったのはその隆幸ってやつのところに泊まってたわけ?」


「う、うん…


部活、見学した後一緒にご飯食べて、お泊り、して、きました……」




僕がしゃべるたびに遊上くんの瞳は険悪な色が濃くなる


若干言いたくないことは隠しつつ、嘘にならない範囲で事実を述べる


昨日は確かに隆幸の部活見学した後に泣いていた僕を慰めてもらい、色々話して心の中のもの全部ぶちまけて、食堂のお弁当買ってきてもらったのを一緒に食べて、お風呂入ったらいつのまにか寝ていたのだ


泣いたことや隆幸に話したことは言っていないが、間違ったことは言っていない、はず…




「………で?


その彼とは寝たの?」


「え、と……


僕が寝落ちして、朝起きた時にはもう隆幸起きてたから…」


「………わからないの?」


「ぅ…、わ、わかりません……」

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