第9話
満足気にお腹をさすっていた僕をちらりと見て、隆幸は神妙な顔をして口を開く
「……こんだけ食って、何でお前はデカくも太ったりもしないんだ…?」
「う、うるさい!
僕が身長のこと気にしてるのに、何でそんなこと言うんだよ」
ぷんぷんと頬を膨らませていると、結構なガチトーンで不思議がられる
「…いや、だってあれだけの質量がお前の腹の中に入って消化されて血肉やエネルギーになってるのに、ここ1年でどれだけ伸びた?」
「う……
えっと、4ミリ……」
「去年も今ぐらい食べてたよな?
1年間、こんだけ食ってて4ミリしか伸びてなかったのに、太ったように見えないし…
去年から体重増えたか?」
「…あ、あんまり……
ほぼ横ばい…」
「だよな、あんまり体形変わってねーもんな
……ほんとに食った分はどこにいってんだろうな?」
隆幸は本当に不思議そうに僕を見る
小さい頃からよく食べる方ではあったが、それでも身長は伸び悩み、あまり認めたくはないが、僕は男性にしては少し小柄で、華奢な方だ
何なら僕よりでかい隆幸よりご飯を食べているときだってあるし、基本夜更かしはしないから夜もしっかり寝ている
僕の父は183センチでそれなりにおっきいし、母も162センチはあるから小さい方でもない
それでも僕はいまだに母の身長をぎりぎり超えられていない…
………いや、きっとこれから大きくなるのだ
そうだ、来年か再来年あたりに一気に10センチくらい伸びるのだ!
きっとそうに違いない!
「…あ、そうだ
先に風呂入ってきていいぞ」
「え、良いの?
隆幸が掃除したんだから、隆幸が先に入ったら?」
「部活でいっぱい汗かいた俺の後に入りたいのか」
「あー…、うん、やっぱり先に入るね
ありがとー」
隆幸の言葉に僕が先にお風呂入ることを決めた
うん、隆幸のにおい、別に嫌いではないんだけど、汗いっぱいかいた後ってちょっと臭くなっちゃうもんね…
そそくさと自分の下着を持ってお風呂へと向かう
湯舟には特にお湯を張ったりしてなかったので、僕は簡単にシャワーだけで済ませると、下着だけで部屋へ戻る
「隆幸ー、お風呂ありがとー
次どうぞー」
「おーぅ…、ってお前、パジャマもってきてねーの!?」
「持ってきてなーい
ていうか、夏場は暑いから下着だけのことが多いかなぁ」
そういうと、隆幸は頭をガシガシとかきむしりながら自分の部屋に向かった
僕はそれに疑問符を浮かべながら待っていると、部屋から出てきた隆幸が僕に服を投げつけた
「これでも着とけ
冷房つけっぱなしで寝るから、体冷やされても困るからな」
「えー…、別にいいのに…」
「いいから着とけ!」
僕に投げつけた服を取り上げ、隆幸はその服を頭から僕にかぶせた
突然のことに驚きながらも、このまま隆幸を怒らせるのは得策ではないので、おとなしく隆幸の服を借りることにした
袖を通すと、隆幸の服はぶかぶかで、体格差がものすごくよくわかる
というか、Tシャツを着ただけでパンツまで隠れるとか、これどういうこと?
この理不尽な体格差にムッとしていたら、いつの間にか隆幸もお風呂に入っていた
シャワーの音を聞きながらソファーに座ると、途端になんだか眠たくなってくる
隆幸がお風呂から上がってくるまではしっかり起きて待っておかなければと思っていたのだが、僕は睡魔に勝てずそのままソファーで爆睡するのだった
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