第7話

「………なん、で……」




いつの間にか頬を伝う涙にも気づかず、僕は茫然としながら気持ちをそのまま言葉を吐き出す


僕のその言葉に隆幸ははじかれたように僕の肩を持ち、涙にぬれた瞳を怒らせながら僕に言い聞かせるように言葉を紡ぐ




「そんなの、お前が大事な親友だからに決まってるだろ!!


去年のその頃は、まだお前と話したことなかったけど、でも今は俺の1番の親友だ!


その親友が、こんなに悲しんで、苦しんでたのも知らずに…!」




そこまで言って、隆幸の顔が悲痛に歪む


……あぁ、隆幸はこんな僕でも、まだ親友と言ってくれるのか…


その事実が嬉しくて、僕はポロリポロリと泣いてしまう


あぁ、涙って、悲しい時や辛い時だけじゃなくて、嬉しい時も出てくるものなんだ…


どこかぼんやりとそんなことを思いつつ、僕は喉を震わせる




「…ありがとう、隆幸


隆幸がそう言ってくれるだけで僕は嬉しいよ


……だから、もうこのことは気にしないで…


………もう、終わったことだから…」




僕がそう言うと、隆幸は何か言いたそうな顔をしつつも、頷いてくれた


何となく、空気を変えたくて僕はへらりと笑う




「…えへへ、僕はいい親友に恵まれたなぁ…」




隆幸はそう言って笑う僕に小さく苦笑しつつも言葉を返す




「…恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ、ばぁか」


「あ、隆幸が照れた!


珍し~い!


明日は槍が降るかな!?」


「降らねぇよ」




そう言って僕たちは笑った


聞きたいことを、言いたいことを飲み込んで、僕の茶番に付き合ってくれて、本当に僕はいい親友を持った




「……あ、隆幸も泣いちゃったから、目ぇ赤くなってるね」


「…ゲ、まじか…


楓も真っ赤だし、腫れてるけどな」


「え、うっそ


ちょっとタオル借りていいー?」


「脱衣所にあるぞ」


「おっけー、借りるねー」




隆幸の言葉通り、脱衣所に行くとタオルがきれいにたたんであった


そのうちの2枚を手に取り、順番にぬらしてしっかり絞る


水が冷たいので片方はこのままで良いだろう


もう1つはレンジの中に入れて少しだけあっためる


隆幸が僕の行動の意味が理解できていないようで、ポカンとこちらを見ていた


そんな隆幸に先程水で濡らしたタオルを渡す




「……濡れタオルで何するんだ…?」


「それ、目に当てて冷やしてて


冷たいタオルとあったかいタオル、交互に目に当ててあげたら目の腫れが引くんだって


知らなかったの?」


「……知らなかった


てか、それなら楓が先に使えよ


お前の方が真っ赤に腫れてるから」




隆幸に目の腫れのひかせ方を教えると、隆幸は気づかわし気に僕に濡れタオルを差し出す


でも僕は首を左右に振る




「んーん、僕は後からでいいよ


だから、目があまり腫れてない隆幸が先にして、ご飯買ってきて」




にっこりお願いすると、ずるりと隆幸の肩がずれた


そしてちょっと引いた眼をこちらに向けられる




「…お前、それが狙いか……」


「えー、だってもう9時だよ?


後30分くらいで食堂閉まっちゃうし、僕の目の腫れが引くの待ってたらご飯食べ損ねるよ?


それとも泣き腫らしたのがよくわかる僕と一緒に食べに行って、隆幸が僕を泣かしたっていう噂が流れてもいいなら今から一緒に食べに行くけど…」




そう言ってちらりと隆幸を見ると、頭をガシガシ掻いて、ため息を1つ吐く




「わかったよ、さっさと赤みひかせて買ってくるよ


楓、何にする?」




濡れタオルを目に当てながら観念したように隆幸が聞いてくるそれに僕はうーんと悩む

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