第6話

隆幸の突然の質問に僕は一瞬固まる


なぜ遊上くんのことが好きなのか


確かに、隆幸が言ったような人で、最低の男と言われてもあまり否定しきれないし、しょうがないとも思わなくもない…


それに、思えばなぜ遊上くんを好きになったのかはまだ隆幸に話してなかった


…まぁ、そのためには僕が話したくなかったことまで話さざるを得なかったから、意識してその話題を避けていたのだけれども…


隆幸の腕の中から逃れ、ベッドに座ると隆幸も正面に座る


馴れ初め、というか好きになった時のことを話すのはいささか以上に恥ずかしいものがあるため、正面に座った隆幸の目は見れず、視線が泳ぐが僕は意を決して話し始める




「えっと…、僕もね、最初は隆幸が言ってたみたいに、軽い人なんだなって思ってたんだ


誰とでも寝て、飽きたらポイみたいな…


だから、入学してすぐその噂を聞いた時、僕ちょっと遊上くんが怖かったんだよね


でも遊上くん、僕に言ったんだ


『俺は相手の同意なしにそういうことしないから安心していいよ』って


遊上くんには悪いけど、やっぱり僕思ってることが態度に出やすいからさ、あの時遊上くんのこと傷つけてたんだってわかって、本当に申し訳なかったなって思ったんだ


それからは同室者として普通に接してたんだけど…」




ここでいったん僕の言葉は止まる


この先のこと、言っても大丈夫だろうか?


隆幸に軽蔑されないだろうか?


気持ち悪い、なんて思われないだろうか…?


そんな不安に心が揺れる


…でも、僕の気持ちを隆幸に理解してもらいたい


親友である隆幸に、僕の恋を応援してもらいたい


…たとえ、応援してもらえなくても、否定だけはしてほしくない


隆幸なら大丈夫だと自分に言い聞かせて、大きく深呼吸する


僕は震える体に鞭打って、隠したかった過去を告げた




「………去年ね、僕レイプされてたんだ…


そこを丁度遊上くんに助けてもらって…


詳しいことは遊上くんに聞いても教えてくれなかったからわかんないけど、相手の方は退学になったらしいんだ……


……それで、えっと…


僕そのあと一時学校来れなくて、寮の自分の部屋に引きこもってたんだ…


その時、遊上くんとは一言も話してなかったんだけど、授業中のノート見せてくれたりとか、食堂のご飯もってきてくれたりとか、してくれてたの…


遊上くん、優しいんだぁ…


遊上くんのその優しさのおかげで、僕はまた学校に通えるようになったし、何なら隆幸とならじゃれあうことだってできるようになったしね!


遊上くんには本当に感謝してるんだ…


……えっと、それで、そこから遊上くんが気になりだし始めちゃって、気付いたらもうすごい好きになっちゃってて…


えへへ、僕ってちょっと単純すぎたかなぁ…?」




へらりと笑いながら、やっとのことで隆幸の目を見ることができた


隆幸を見ると、一目で怒っているのが分かってしまった


眉間に深い皺が刻まれているときは、隆幸が怒っているときなのだ


隆幸は眉間に皺が寄ると元々垂れ目だった優しげな眼が剣呑な雰囲気を醸し出す


それがさらに迫力を引き立てていて、怖いのだ


つい、隆幸のその迫力にひくりと体が震える




「……た、隆幸…?」




恐る恐るうかがうように隆幸を呼んだ僕の声も少し震えていた


僕が隆幸を怖がっていることが伝わったのか、隆幸は僕から目をそらし、1つ大きなため息を吐いた


…呆れ、られちゃったのかな……?


不安に瞳が潤む


……もし、汚いとか、友達止めるとか言われたら、僕泣いちゃうかも…


そんなことを思いながら、隆幸の言葉を待った




「………楓、来い」


「………へ?」


「いいから」




隆幸の思ってもみなかった言葉に目をぱちくりさせていると、グイっと腕をつかまれ、隆幸の厚い胸板にダイブする


僕はわけもわからずそのままでいると、隆幸にきつく抱きしめられた




「……嫌なこと、思い出させて、言わせて悪かった…


辛かっただろ?


気付いてやれなくて悪かった


…お前に怒ってるわけでも、遊上に怒ってるわけでもないから安心しろ


………ただ、お前をそんな目に合わせたやつが許せなくて…


…………それより、何よりもお前が1番辛いときに気付いてやれなくて、力になってやれなくて、そんな不甲斐ない俺が何よりも許せなくて…」




耳元でぎりりと隆幸が歯を食いしばる音が聞こえた

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