第3話

そうだ、ここには仕事で来たのだ


思いもよらぬ再開はあったものの、今日はこのプレゼンで仕事を取らねばならない


俺は潤が気になりつつも気を引き締める


その結果、プレゼンは結構いい感じに終わらせることができた


飯島課長との打ち合わせ通り進めることができたし、郷上コーポレーションの富樫部長の質問にもつっかえることなく説明し、納得していただけた


後は、上の判断を仰ぎ、その結果を伝えると、富樫部長からも言ってもらえた


上手く、出来たと思う


プレゼンは上手く出来たのだ


だが、落ち着かない


その理由は分かっている


原因は潤だ


潤がプレゼンの間ずっとこちらを、いや俺だけを見ているのだ


最初は気のせいかとも思っていたのだが、1時間もずっと見続けられればさすがに嫌でもわかる


プレゼン中、発言した際にそれを聞くためにこちらを見ているのは分かるが、富樫部長や飯島課長が発言しているときでさえも俺をじっと見つめているのだ


高校の頃、恋愛的に好きだと告白してきたイケメン幼なじみにずっと見つめ続けられながらのこのプレゼンだったのだ


気まずいし、居心地が悪いことこの上ない


でも、プレゼンは上手くやり遂げられたのだ


自分で自分をほめ倒したいくらいだ


…なんて自画自賛している場合じゃないのだけれども


とりあえず、プレゼンは無事終了し、飯島課長と帰社する予定だったのだが、郷上コーポレーションを出る前に潤に呼び止められてしまった




「大輔!」


「……潤…


…どうか、したか?


あ、なんか忘れ物でも…?」


「いや、その…」




呼び止められたので無難な、基少し他人行儀な受け答えをしてしまった


そのせいか、潤も視線をうろうろと落ち着かない


そんな中、この気まずい空気を払しょくしてくれたのは、飯島課長だった




「んんっ…、相原さん、少しお手洗いをお借りしたいのですが…」


「あ、それでしたらまっすぐ突き当りを右に行けばあります」


「どうも、ありがとうございます


池中、少し外すからここで待っててくれ」


「あ、はい、わかりました」




潤の案内通り俺たちから遠のいていく飯島課長の背中をぼんやり眺める


飯島課長は会社を出る前にトイレを済ませていたし、道中やプレゼン中に水をがぶ飲みしたりもしていなかったので、催すまでまだだと思っていたが…


頭上にクエスチョンマークを生やしていると、前方より咳払いが聞こえた




「…あの、さ大輔…


れ、連絡先、教えてくんね…?」


「連絡先…?


名刺に携帯の番号も書いてあっただろ?」




俺の会社では、営業部だけ折り畳み式のガラパゴス携帯が会社から支給されている


営業部は外回りしているときに連絡がつかなくなると困るからと、電話とメールの機能しかついてない安物だが


そして俺の名刺には先ほど言ったとおり、その電話番号とアドレスがきちんと記載されている


だから、たとえ俺が出先だったとしてもそこに連絡さえしてくれれば、もし取れなくても用事が済めばすぐに折り返しができるようになっている


なのに何故、連絡先を聞く…?




「あー…


あのさ、名刺のって会社のケー番だろ?


そうじゃなくて、その…


………お前のプライベート用の方の連絡先、教えてほしいんだ…」




どことなく自信なさげな潤に俺はついそのまま見返す


そのまま無言でいると、潤はいたたまれないとでも言いたげに視線を逸らす




「………嫌なら、いいんだ


忘れてくれ…」


「…あ、いや、待て


嫌じゃない、別に嫌なわけじゃないんだ…


ただ、その、びっくりして…」

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