第54話

今まで見たことのない、おぞましい化け物を…


そしてその化け物の口がもごもごと動いている


口を開けてぐちゃぐちゃと汚い音を立てつつ化け物が咀嚼しているのは―――ピッチャーだった彼女の突然抉り取られた腕


食いちぎられたようなと先ほど感じたそれは、間違いではなかった


ピッチャーだった女子生徒の腕はその化け物によって食いちぎられたのだ


神華はそれに対して恐怖した


恐怖に固まって動けない神華は見てしまった


あのおぞましい化け物が、神華を見てニチャリと嗤うところを…




「っ!!?」




突然のR指定入り間違いなしのグロシーンを間近に見て、その直後おぞましい化け物に不気味な笑みを見せつけられた


神華は口を手で抑え、恐怖による悲鳴を押し殺しながら震える


怖くて、恐くて目に涙が浮かぶ


あの化け物から逃げなければと思うのに、腰が抜けて逃げることさえできない


本能が逃げろと叫ぶのに、体は思うように動かない


目が合ったことを恐らく認識してしまった化け物が、ズシンズシンと重量を感じさせながら神華の方へ一直線に来る


怖い


恐い


周りの喧騒など何1つ耳に入らない


神華の瞳には突然現れたおぞましい化け物しか入っていない


このおぞましい化け物が、自分の目の前に来た時、神華はきっと何もなすことなく、これに喰われてしまうのだろう


そしたらどうなるのか、それはピッチャーだった女子生徒の腕によって証明されている


きっと、神華の存在がまるでなかったかのように、血だまりだけ残してあの化け物の口に噛み千切られ、すりつぶされ、嚥下して消化されるのを待つのみだ


こわい




「ぃ…やぁぁあ!


来ないでぇぇ!」




神華の小さな叫び声とともに、化け物の歩みが止まった


だが、恐怖でパニックになっている神華はそれに気付かない


涙をボロボロとこぼしながら神華は言葉を紡ぐ




「いや、いや…


こっちに来ないで……


消えてよ……!」




バシン!!


神華の言葉の後に鋭い音が鳴った


神華が驚いて音がした方を見ると、更に驚いた


音がした方、つまりは化け物が居たところだが、そこに化け物はいなかった


そして、化け物の代わりなのかは分からないが、どす黒い靄みたいなものがそこを漂っていたが靄みたいなものは次第に霧散していった


その靄らしきものが神華の横を通り過ぎる時、おぞましい声が聞こえた




『あの子さえ居なければ、私がエースだったのに…』




ゾワリと、全身悪寒がして震え上がるような声だった


そう思ったのも束の間、化け物という恐怖の権化が居なくなって緊張がほどけたからだろうか、神華はそこに崩れ落ちる様にして気を失った

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