第52話

神華ははっきりと、事実のみを言葉にする


だが、それに反発するものはやはりいる、雷龍だ




「嘘だ!!


人間は美しい心を持っていた!


他者を排除しようとせず、歩み寄り、話し合い、協調し、共存していた!


悪意なんて、持っていなかった!!


人間の心を汚し、悪意を持たせたのは魔物だ!!」




雷龍の言葉で、彼がどれほどまでに人間を愛しているのかがわかる


解ってしまうから、神華は苦しくなる




「……そうだよ、雷龍の言うとおりだよ


この世界の人間は美しい心を持っていた


………ボクが、人間を嫌いだったから…」




俯きながら溢す言葉に息を飲む音が聞こえた


意味が解らないと、きっと彼ら五つ神たちは思っているのだろう


だが、それも当然の話しなのだ


神華が五つ神である彼等にも、この世界に居る誰にも教えていないのだから


神華や美月、信哉以外、この世界にいるもの達は知らないのだから


…もしかしたら、紅龍なら気付いていたかもしれないが


皆、知らないのだ


本物の人間というものが、どれだけ汚く、大きな悪意をその心に秘めているのかを



神華は大きく息を吸い、ゆっくり吐出す


心を落ち着けて、言葉を選びながら紡ぐ


誰にも教えたくなかった過去を


いかに自分が醜かったのかということを…






~神華side 過去~




ボクは


“イラナイ存在”



それを感知し始めたのは、まだ幼かった頃


神華は、とある孤児院に住んでいた


物心がついた時には、すでにその孤児院が自分の家で、居場所なのだと理解していた


孤児院には、親代わりと呼ぶべき大人、職員の人たちが居る


他にも、神華以外の親や身寄りのいない子供たち


その全員が、髪と目が黒かった


ただ、神華を除いては…


髪と目が他の人たちとは違う銀色だった神華は、周りから浮いていた


だからなのだろうか、孤児院の中で浮いている神華は次第に子供たちからいじめられるようになった


仲間外れにしたり、無視したり、何故か退け物扱いされることが多かった


それが、幼い頃は特に寂しくて、こわくて、よく泣いていた


まるで親だけではなく、周りの皆からもいらないと言われているようで苦しかった


職員の人たちはそんな神華を気遣って優しくしてくれていたが、ある日、夜中に喉が渇いて食堂に行った時、こんな会話が聞こえてきたのだ




「あぁ、もうホントめんどくさい」


「何が?」


「神華よ、あの銀髪の


いじめられたとか言って毎回あたしのところに来るのよ


ずっと泣いててうっとおしいったらありゃしない!」


「あぁ、あの子あんたのこと気に入ってるもんね


私のところには来ないから楽だけどねー」


「そんな風に言うんなら、今度からあんたに押し付けてやろうか?」


「えぇ、いやよ冗談じゃない!


私、あの子嫌いなのよ」


「それはあたしだって同じよ」




やだーと言って、神華が頼りにしていた職員の人ともう1人の職員が嗤う


まだ4歳か5歳くらいのことだったと思うが、この会話と笑い声はいつまで経っても神華の脳裏にこびりついたままだ

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