第50話

「………ねぇ、神華


あの時神華は化け物を…魔物をどうにかするって言ってくれたよねぇ?


何でまだ魔物が居るの…?


何であんな化け物創ったの!?」




激しい憎しみと悲しみと、疑問を涙ながらに尋ねる雷龍


神華の心はそれにぐらりと揺れる


どうして雷龍たちが、自分をあの中に閉じ込めたのか、やっと理解できた


化け物…魔物についてボクと五つ神である彼らとの間に、“誤解”があったからだ


五つ神である彼等なら知っていると、説明を怠った、ボクの怠慢のせいだったんだ


神華は紅の胸を押し、1人で立つ


雷龍に、言わなければならない


伝えなければならない


真実と、ボクの想いを




「………雷龍、ごめんね


辛かったよね


ボクは五つ神である君たちには、言わなきゃいけなかったんだね…


緑龍、風龍、居るんでしょ?


出ておいで


話しをしよう」




ボクの呼びかけに、2つの影が降り立つ


それは、色鮮やかな森林を思わせる翆色の髪に、深く知性を携えたようなエメラルドグリーンの眼の綺麗な男性、緑龍


長い白髪を1つに纏め、綺麗な黒眼が全てを見透かすような、それでいてどこか儚く消えそうな印象の男性、風龍


これで、この場に全ての五つ神が揃った


久しぶりに、皆の顔見たなぁ…


ボクがあそこに閉じ込められてから、この世界がどんなふうに変わったのか、いろいろ聞きたいこともあるけれど、それよりも先に、話さなければならない


ボクの生まれ変わりの、生まれ変わりである信哉君の身体を借りていられるのも、そう長くはない


今はただ、前世と前前世を思い出した反動でボクの意志が表に出てこられただけであって、ボクが生き返ったわけではないのだ


ボクには少し高いこの視界も、これは彼のものだから


だが、彼のものも、今だけはボクのものだ


この世界の創世神であるボクの魂が宿った肉体なのだから、ボクでもそれなりに動かせる


力だって…使える!


神華はグッと手を握り、意を決したように五つ神一人ひとりの目を見る


五つ神全員と目を合わせた後、リンとライド、ギンゼスと見て微笑みかける




「………リン、ライド、ギンゼス


君たち人間には聞かれてはならない話があるんだ


だから、申し訳ないけど少しだけ退場してもらうよ


『母の子守歌』」




息を大きく吸い、神華は優しく美しい旋律を奏でる


それはまるで、幼子のために子守歌を歌う母親のように、ただただ優しく慈しむそれだった


美しいそれは響く


今ここに居る部屋だけでなく、ギンゼスの城の中だけでなく、ルミリア国国内だけでなく、この世界の総てに…


美しく響いたそれは、聞くもの全てを眠りへと誘う


人間も動物も、草も木も、あの魔物でさえも


全てが深い眠りにつく


そして、響き渡ったそれが止むと、起きているのは世界中で神華と五つ神たちだけであった

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