第47話

這う這うの体で街へとたどり着いたライの父親は、町長へと自分の畑に化け物が出たと報告する


最初は言葉がうまく出てこず、つっかえるばかりのそれではあったが、彼の様子からただ事ではないと、すぐに町の動ける若者をひきつれて彼の畑へと急ぐ


そして、町長と若者たちは、地獄の痕を見てしまったのだった


畑の近くにあった赤子の揺り籠は無残にも粉々になるほど踏みつけられ、その近くには地面の土が吸いきれなかった血がまだ血溜まりとして残っており、

彼の妻、ライの母親は潰された後腹を裂かれ、臓物を食い荒らされたまま放置されていた


そこだけは青空の下だと言うのにむせ返るような鉄臭さが色濃く残っていた


そんな惨状を見てしまった彼らは、思わず目をそむけ、ある者は胃の中の物を吐き出し、またある者は体調不良を訴えた


ライ達の死は、喉かな町に暮らす彼らにトラウマを植え付けてしまった


そして、それが雷龍の耳に届いたのは、それが起こってから3日後のことだった


雷龍は何も知らず、いつも通りライの家に向かい歩いていた


今日はライと何をして遊ぼうかと、雷龍は浮かれていた


だって、久しぶりに会えるのだから


赤子の成長は大人よりも早く、顕著である


だから、ライがどこまで大きく成長しているのか、それも気になるところであった


久しぶりにライに会えると信じていた雷龍は周りの雰囲気など気付かず、ライの家へと着いてしまった


雷龍はいつも通り軽快に3回玄関のドアをノックし、それを開ける




「ライー!


遊びに来たよー…?」




ライの家に入り、雷龍はそこでやっとこの家の異変に気付き始める


家の中には、いつもならライの母親アリシアがライを抱っこしながら雷龍を迎えてくれるのだが、その2人の姿はどこにも見当たらなかった


そして、唯一いるライの父親は、台所にうつ伏せで倒れていた




「親父さん?


どーしたの!?」




雷龍は慌てて倒れているライの父親に駆け寄り、仰向けに抱き起す


え… と、雷龍の唇から小さな驚きが零れ落ちる


もう何も写さない濁りきった目に、土気色になった肌、そして極めつけは心臓の上に深く突き刺さった包丁


ライの父親を抱き起した時の手がぬるりと滑り、彼はゴトリと落ちる


雷龍の手を見ると、それは赤黒い液体に濡れていた


それは、彼の血だ


雷龍は一体なぜこんなことになっているのか理解が出来ない


ほんの数日前までは若い夫婦に可愛い赤子が居る、どこにでもいるような幸せな家族だったはずだ


それが何故、父親である彼は絶望しきった顔で自殺している…?


母親と、その赤子であるライはどこに居る……?


何故、なぜ、ナゼ………?


わからない


何故こんなことになっているのか、雷龍にはわからない


まるで、時が止まってしまったかのように雷龍の思考は止まってしまった

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