第45話

赤子が生まれ一旦落ち着くと、この夫婦は僕が出産に立ち会ってくれたから息子は無事元気に生まれてきてくれたのだと、感謝してくれた


僕はただここに居ただけで何もしていないのに


でも、嬉しかった


そしてさらに嬉しかったのは、その生まれたばかりの赤子を抱かせてくれた時に言われた言葉だった




母親「雷龍様、ありがとうございます


ライも嬉しそうだわ」


雷龍「ライ…?


この子、ライって言うの?」


母親「えぇ、僭越ながらも雷龍様の“雷”からいただきました」




びっくりしつつも、ライと名付けられたその赤子を見る


身体が震えた


人間の出産に立ち会い、こうして赤子も抱かせてもらい、更には僕の名前からこの子の名前を付けたと言う


嬉しくて、さっきは堪えられていた涙が、僕の頬を伝い、僕の腕の中の赤子の頬に跳ねた


それは、筆舌に尽くしがたいほどの嬉しさだった


僕はやっと人に喜ばれることが出来たのだと、神華や五つ神の皆以外から初めて必要とされた気がしたのだ


だって、僕の力である雷は、皆に必要とされるどころか、恐怖の対象でしかないのだから


神華の力でこの世界を、人間を、動物を、世界を形作る総てを創った


紅龍の力である火なら、料理をするとき、暖を取るときに使い、喜ばれる


翠龍の力である水なら、恵みの雨を降らせ、飲み水を確保できると喜ばれる


緑龍の力である大地なら、作物を豊かに実らせ、豊作だと喜ばれる


風龍の力である風なら、暑い夏に涼しい風を運び、喜ばれる


………でも、僕は?


僕の力である雷は嵐を呼び、大雨を降らせ、強風が吹き、すさまじい音と光と電圧で、人々を怖がらせ、時にはその儚い命を奪う


でも、そんな僕をこの夫婦は怖がらず、僕に優しくしてくれて、人間の出産にも立ち会わせてくれて、大事な赤子を抱かせてくれて、あまつさえ僕の名前から赤子の名前を付けた


嬉しかった、涙がこぼれるほど


嬉しくて、嬉しくて、僕は腕の中のライと名付けられたこの赤子の幸せな未来を願った


翠龍にここ最近は耳タコになるほど気安く神の祝福を授けるなと言われていたが


この可愛い幼子に幸あれと、深く、願っていたのだ


そこに自分も必要とされたいと、邪な想いが同時に居座っていることにも気づかず


儚いながらもこの一生、多幸に恵まれんことをと


強く願ったのだが、僕のそんな願いが叶えられることはなかった


優しい夫婦の間に生まれたこの可愛い赤子は、1年と経たずにその生涯を終えることとなったのだ


赤子、ライが息を引き取ったのは、生まれてまだ11ヶ月目の晴れた日だった

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