第44話

~雷龍side 過去~




僕たち五つ神が神華から生まれて永い時を経たある日、この世界に魔物が生まれた


最初はそれが何かわからなかった


魔力を持たぬ普通の動物なら、そこらへんに色んな種類のものが生存、共存していた


神華の生まれた世界、チキュウに居る動物たちと同じものらしい


動物たちはこの世界の環境の中で生存競争をしながらも、生きていた


それらは美しかった


だが、ある日突然、人間とも動物たちとも違うモノがどこからともなく生まれた


それは人間ほどではないが幾ばくかの知能を持ち、普通の動物たちには持ちへぬ魔力を持ち、容姿は化け物と言う他ないほどおどろおどろしいモノ


そしてそれは、生まれ落ちた瞬間から人間を襲った


それの名を、我らは魔物と呼んだ




人間たちは順調にその数を増やし、村や町だけに留まらず、街や国まで作るようになっていた


人間というものは寿命は短いものの、繁殖力は高い


まるで、ウサギやネズミなどみたいに


でも、そんな動物たちとは違い、人間は言葉を交わすことで心を通わせたり、意思の疎通が出来る


だから、僕は人間が好きだ


その命の儚さと、ころころ変わる表情と、仲間の死に流す涙と


それらは美しい、綺麗だ


だから、僕は人間が好きなのだ


だから、僕の好きな人間を害する魔物が、嫌いなのだ


僕が魔物を嫌いだと、憎いと明確に思うようになったのはそう、とある一家に息子が生まれて少し経った時だった




僕はその日、日課になりつつある、とある一家の家に向かった


少し前に仲良くなったその一家の夫婦が、子供を授かり、もう少しで生まれる


僕は楽しみだった


僕たちが生まれたときからこの姿形だが、人間は母親の腹から小さな赤子として生まれてくると言う


そして少しずつ成長し、年を取り、老いて死ぬ


子どもも大人も老人も、皆見てきたし触れあい、交流もした


だが、僕は未だかつて人間の出産に立ち会ったことも、生まれたばかりの赤子も


見たことも抱き上げたこともなかった


だが、この夫婦は僕に生まれてくる赤子を見せてくれると、抱かせてくれると、約束してくれたのだ


僕はそのことに喜び、胸をときめかせ、1日と日を空けずに夫婦の元へ通った


そしてついに、僕は初めて人間の出産に立ち会ったのだ


母親は必死の形相で力み、父親はそんな母親を見てオロオロしたり励ましたり、医学の心得があるものは赤子を迎える準備をしたり母親の面倒を見たり…


とても慌ただしく、全員が一丸となって赤子を迎えようとしていた


僕はそんな彼らに感動した


そして、待ちに待った瞬間がやってくる


赤子が、母親の中から出てきた


元気な産声を上げた男の子に、母親も父親も歓喜の涙を流した


僕もこの時は思わず涙がこぼれそうになった

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