第42話

不意に強く紅に抱きしめられた信哉は、その温もりに小さく安堵する


それを感じ取ったらしい紅は信哉を己の後ろへと隠し、口を開く




紅「…雷龍、貴様こそ何をしている


信哉を殺す気か!」


雷龍「えぇー、信哉をー?


あんな雷じゃぁ、信哉は死なないよぉー


だって彼ぇ、神華と美月の生まれ変わりなんでしょぉー?


それじゃぁ、もし万が一あたっても傷1つつかないしぃ、さっきみたいに紅龍が助けてくれるもんねぇー?」




紅の鋭い問いに雷龍は小首を傾げてそんなことを宣う


そんな雷龍の言葉に信哉は頭上にクエスチョンマークを飛ばす


もし雷が当たっても傷1つつかないとは、どういう事なのだろうか?


信哉は転べば膝を擦りむいたりするし、冬場にドアノブを握ろうとして静電気で手が痛かったこともある


もしあんなに凄い雷が信哉に落ちたら感電死すると思うのだが…?


疑問には思うのだが、信哉はそれを口には出さない


紅が雷龍のそれに反論しようとしたのだが、それは雷龍によって阻まれた


信哉の口出す暇がない




雷龍「てゆーか、僕が先に聞いたじゃーん


早く応えてよね、紅龍は何してた、のっ?」




ズガガアァン!!


雷龍の手がパシリと小さく光ったかと思うとまた信哉達のところに雷が落ちた


紅は落ちる寸前にまた信哉を抱えてその場を離脱する


例え攻撃してくる本人に傷1つつかないと言われても、己を狙って雷を落とされると、やはり筆舌に尽くしがたいほどに怖い


ただの恐怖でしかない


少し情けないとは思いつつも信哉は必死に紅にしがみつく




紅「信哉に、美月と神華に謝っていたのだ!


悪いことをしたら謝るのが筋だろう!」


雷龍「はぁあ?


僕悪いことなんてしてないし!!


僕らが感謝されることはあっても、謝ることなんて何一つもない!」




雷龍は紅と口論しながら信哉めがけて雷をどんどん落していく


紅は信哉を抱えたまま、それをただ避けるだけで攻撃はしない


雷龍はなかなか紅と信哉に雷が当たらないことに焦れているらしく、声を荒げる




雷龍「あぁ、もう!!


いい加減当れよ!!


信哉が美月達の生まれ変わりの神龍様なら、あそこにまた入れなきゃいけないんだから!!」




雷龍のその言葉に信哉の心がざわりと粟立つ


神華と美月の過去で閉じ込められた、あのなにもない真っ暗な空間


あそこにまた入れると、閉じ込めると雷龍はそう言っているのだ


信哉は知っている


あそこに閉じ込められる恐怖を


怒りを


恨みを


辛さを


悲しみを


実際にはまだ信哉自身は閉じ込められてはいないが、神華と美月の追体験をしてきた信哉には、それがどれほどのものなのかを知っている


知って、しまったのだ

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