第36話

雷龍「ねぇ美月、ちょっと皆でお散歩しよっかぁー♪


美月といーっぱいお話ししたい事あるしーっ


…ね?」




にっこりと、小首を傾げて嗤う雷龍


そんな彼を見て、ワタシは恐怖の中で理解した


これは一見選択肢のある“提案”に見えるが、そうじゃない


立派な“脅し”であって、“強制”なのだ


雷龍は動けないワタシの腕を引っ張り上げて立たせた


雷龍のその華奢な体の中のどこにそんな力があったのか、はなはだ疑問だが、そんな疑問差し挟んでいる余地などない


ワタシが立ったことを確認した雷龍は、そのままさっき出てきたばかりのラダ森へとワタシの腕を引いて連行する


4,5km程か、歩いた所で雷龍の歩みは止まった


それに合わせて皆の動きも止まった


雷龍は皆の方へと振り返る




雷龍「さぁ、ここからは紅龍に任せよっかぁー♪」




その言葉に紅の肩が微かだが、ピクリと反応した


雷龍はそんな些細な動きも見逃さず、嗤った




雷龍「だいじょーぶだよぉー?


皆と準備してくるからぁ、その間に美月と此処で待っとくだけだしぃーっ


簡単でしょー?」




嗤ったまま可愛らしく小首を傾げるが、ワタシにとってはただただ、恐怖でしかなかった




紅「……わかった…」


雷龍「んじゃっ、皆行こっかぁー♪」




雷龍はやっとワタシの手を離し、スキップしそうな足取りで奥へと歩を進めた


それを、翠龍をはじめ、他の 紅以外の皆が雷龍の後を追った




緑龍「………すまん、美月…」




ワタシの横を通る時に、耳元でポツリと緑龍が囁いた


それは、ワタシにもやっと聞こえるくらいの小さな声で


でも、ありったけの思いを込めた短い謝罪だった


それがどうしても苦しそうな声で、尚更ワタシの恐怖心を煽るものだった




美月「紅………」




ワタシは、不安と恐怖に震えた手で紅の袖を引いた


紅はワタシの方を向くと、ふわりと微笑み 頭を撫でてくれる


たったそれだけで、スッ と薄らぐ恐怖達


些かぎこちなかったが、ワタシもやっと笑みを浮かべられた




紅「美月、好きだ………」




紅からの突然の告白


ワタシはびっくりして目を見開くが、意味を理解した瞬時に頬を朱に染めた


それを見た紅の表情は穏やかに、ふやけた笑顔になった




美月「ぁ、う……


ゎ、ワタシもっ!!


ワタシも、好き…っ」




ぎゅっと目を閉じ、顔だけでなく耳や首まで真っ赤になりながらも、返事をする


ワタシも、紅が好き


いつもやんわりと伝えていたこの好意を、今はっきりと紅は好きだと返してくれた


それに先程までの恐怖が全部吹き飛び、ついワタシも紅に好きだと返してしまった


恥ずかしくて、嬉しくて、体中が熱い


紅に告白されたことが、紅と両想いになれたことが、筆舌に尽くしがたいほどに嬉しいのだ

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