第18話

紅の問いに翠龍が応える


その声も冷たく、凍てつくようなそれだった




翠龍「用ならあるぞ


貴様を連れ戻しに来た


例えもし、貴様を憎からず思っていようとも、我らが母、神龍の神月(シンゲツ)様が居らぬ今、我々五つ神が神祇をせずにしてどうする気だ


とりあえずは我々五つ神の一柱なのだから、それくらいしろ」


紅「ハッ


知るかよ、そんなくだらねぇもん


テメェ等でどうにかすれば良いだろ


どうせオレは“イラナイ”疫病神だもんなぁ?」




紅も翠龍に負けず劣らずの冷たい声音でこともなげに言い放ち、両者間でバチバチと火花が散っている


そして何故か、“イラナイ”をやけに強調して言う紅に、信哉は無性に悲しくなった


それは、もしかしたら自分と重ねたからかもしれない




信哉「紅…」




信哉の声に反応して、紅が振り向いた


そしてやっと信哉は紅の顔を見た


紅は、今まで見た、どんな俳優やジャニーズ、この世界の人たちよりもカッコよかった…


後姿から想像したものよりもずっとイケメンだったのだ


瞳も髪も燃え上がるような真紅、すっきりとした目鼻立ちに、意志の強そうな眉


翠龍よりも整った顔だった


さすが、神を名乗るだけはあるのかもしれない




紅「信哉………


大丈夫か?


もう痛くはないのか?」




紅は信哉が翠龍に腹に手を突っ込まれた時の痛みを共有してしまっていたからか、それを心配してくれている様だ


さっきまでの翠龍とのやり取りの時の声と全然違う、優しさのある声だった


それにどことなく安堵しつつ、返事を返す




信哉「ん………


大丈夫…


一応、傷はないみたいだし、痛みも引いてきたから……」


紅「………


そ?」




紅は複雑そうに微笑んだ


でも本当に、あの痛みが嘘だったかのように信哉の腹部には傷一つなかった


それどころか、服さえもまるで手を腹に突っ込まれたことなんてなかったかのように綺麗なままだ


それでも、紅の表情は晴れない


………紅?


どうしてそんなに苦しそうなの…?


どうしてそんなに悲しそうなの…?


紅…?




紅「信哉…?


どうした?


そんな顔して…


いつものお前らしくないぞ?」


信哉「いつもの、オレ…?」


紅「あぁ、お前にそんな顔は似合わない


そんな顔するな」


信哉「そんな、顔…?」




そっと紅が愛しむように信哉の頬に触れ、撫ぜる


触れ合う肌と肌が、そこに紅の存在が確かなものだと教えてくれた


嬉しいことなのに何故か、それがとてつもなく胸を痛ませる


その分からない胸の痛みを誤魔化すように、信哉も紅の頬へと手を伸ばす




信哉「……紅…」




信哉の手が紅の頬へ届こうかとしたその時、バーンっ!!と大きな音がして信哉はびくりと手を引っ込めてしまった


いきなり部屋の扉が勢いよく開け放たれた


その扉を開けた人物は…

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