第9話

いつもなら、その小さな疑問に紅が頼んでもいないのに答えてくれるのだが

何故か今回はそれがなかった


なので信哉は静かに目を閉じて、紅に尋ねる


…ねぇ紅、五つ神、火神の紅龍って、紅のことなの…?


紅って何者?


リンがこんなに怯えているのは、紅が神様だから?


オレ、紅のこと何にも知らないから、教えて




「………信哉は、オレから離れていかないか…?」




何処となく、不安そうに揺れるその声に、もしかしたら聞かれたくないことなのかもしれないと思った


だが、これは自分にも関わりのあることであるし、もしそれで紅が苦しんでいると言うのなら力になりたい


紅がいつもオレを独りにしないように居てくれたように、紅がいつもオレを助けてくれたように…


大丈夫、オレは紅から絶対離れたりしないよ




「そう…か、ありがとう……


オレは、確かにそう、リンてやつが言ってたように、五つ神、火神の紅龍だ…


でも、オレは……


オレは、神界から逃げ出したんだ


オレが、皆から嫌われてるから…


オレなんか、居ない方が良いから……


でも、信哉は…


信哉だけは、オレから離れていかないって信じてたよ」




紅が、ポツリポツリと少しだけ、己のことを語ってくれた


その声は、今まで聞いたことのないような、恐怖に慄いた、それでいて、どこか安心しているかのような声音だった


大丈夫、紅は要らない奴じゃない


オレにとって紅は唯一の親友で家族なんだから


それに、紅が居なかったら、今のオレは居ないんだ


ちっちゃい頃に“化け物”にでも殺されてるよ


だから、ずっとオレと一緒に居てくれてありがとう、紅




「…………あぁ…」




心からのお礼を述べると、紅は小さく震える声を返してくれた


それが、少し嬉しかった






~リンside~



僕がシンヤの能力は五つ神、火神の紅龍だと言ってから、シンヤは最初、狼狽していたが

今は目を瞑り、微動だにしない


おかしな例えかもしれないが、そこだけ、時が止まっているかのような錯覚に陥るほど、シンヤは静かだった




信哉「………」


リン「………」




シンヤは最初、とても落ち着きがなかったが、それが嘘かのように今はどこか穏やかに見える


まるで、誰かと会話でもしている様にも…




リン「………


シ、シンヤ…?」




怖かったが、控え目にシンヤを呼んでみる


が、全く反応がない


どうかしたのだろうか?


シンヤはあの、五つ神、火神の紅龍の能力を持っている


何をするつもりだ?


……………怖い


火神の紅龍といえば、遠い昔のことではあるが、

何故か知らないけれど、凄く暴走して、辺り一面焼け野原にしたと伝え聴く…


その紅龍の能力を持っている人が今、目の前にいる


………怖い


怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖いっ!!!






~リンside end~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る