第3話 人間の喜びとは何か
事業を成功させる喜び、スポーツで汗をかく爽快感。美味いものを食う喜び、趣味に打ち込む喜び、その他、酒・セックス・ギャンブル、カラオケ等々、人それぞれいくらでも楽しみというものはあるでしょうが、今回のモスク訪問で私が目にしたのは「祈りによる充実感(満足感)」でした。
1時間~30分間、礼拝所にいる時間は50人それぞれ違いますが、礼拝が終わって帰る時の彼らの表情は、神との一体感によって満ち足りているようです。
どういう満足感かといえば、自分の心をニュートラルにすること(だと私は思いました)。彼らイスラム教徒は、こうやって毎日(5回)、自分の心を、ニュートラルにリセットしているのだろう。
「世俗の垢を洗い流す」といいますが、起きている間に何度(5回)も自分の心をニュートラルにすることで「自らの意を浄く」しているわけです。
単純に考えて、(睡眠時間を除き)毎日3時間毎に自分の犯した罪を悔悟・かいご(前非を悔いさとること)し、宮本武蔵が「五輪書」で述べた「あらたなる」気持ちで、「衆善奉行」(もろもろの善を奉行)せんとする。「もろもろの善行」によって、それまで犯した「諸々の悪業」を帳消しにしようとする(のでしょう)。
仏教における
「諸悪莫作 (諸々の悪をなすことなかれ)
衆善奉行 (もろもろの善を奉行せよ)
自浄其意 (自ら其の意を浄うする)
是諸仏教 (これ諸仏の教えなり)」
よりも、
更に一歩踏み込んだ宗教行為を、日に5回の五体投地によって実行している。
能書きだけの仏教と異なり、個々人がインタラクティブ(双方向)に(悪を矯め善の行いを)実技・実行・実践しようとする宗教、それがイスラム教といえるのではないでしょうか。
仏教とは、一台の大型コンピューターにつながった無数の端末、というイメージですが、イスラム教の場合、個々人が独立したCPUを持つ独自に機能するワークステーションであり、それぞれがネットワークでつながっている、というイメージです。
コンピューターのOSでいえば、WindowsやLinuxにおける「階層構造」が仏教やキリスト教であるとすれば、日本の国産OS(として期待されながらも、アメリカの圧力で潰された)TRONにおける「実身・仮身構造」がイスラム教といえるかもしれません。
<懺悔>
○ 仏教では、懺悔滅罪(さんげめつざい)といい、懺悔の力によって罪業を消滅させるのだそうです(私のいた禅宗では、懺悔という言葉も行為もありませんでした)。
○ キリスト教では、罪悪を自覚し、これを神の前(牧師)に悔い改め告白することを懺悔と言うそうです。
○ イスラム教徒の場合、毎日5回、自分で自分の内なる神に懺悔し、更には、もし犯した罪があれば、次の時間にそれを善行で打ち消そうと決断する。
つまり、リアルタイムに罪を自覚しそれを即、善行によって処理するというインタラクティブ(双方向性)なアルゴリズム。
僧侶だの教誨師だのなしで、すべて自分の中だけで処理してしまうという意味で、分散・個別処理のワークステーション的です。
カネも酒も音楽もスマホも要らない。30分ほどの祈り(五体投地)の時間に集中することで心がスッキリし、皆晴れ晴れとした顔でモスクを後にしていく。
イスラム教について、ほかに何も知りませんが、モスクでの祈りというのは、私から見て、安上がりで良い(心の)健康法だと思いました。
祈りの言葉や儀式の意味は私はわかりませんでしたが、40年前の大学日本拳法時代を思い出しました。
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私たち大学日本拳法人が、夏の日、地下の練習場で汗も出なくなるまで練習し、フラフラになって地上に出て、今度はカンカン照りの太陽の下で、掃除に使用する水道の蛇口から出る水で手足や顔を洗い、やれやれと、ようやく一息ついた時の爽快感・充実感。 礼拝が終わった後のイスラム教徒とは、おそらくそれと同じ爽快感・満足感・充実感を感じているのではないでしょうか。
逆に言えば、私たち大学日本拳法人の練習とは、心と身体で汗をかくことで、身も心もリフレッシュされることを期待して行っている、ということ。 もちろん、昨日よりも強くなった、厳しい練習しても苦しくなくなったなんていう、具体的な充実感というものもあるでしょうが、基本は、死ぬほど汗をかいて声を出し、精神的にもクタクタになった後に訪れる、肉体的・精神的にスッキリとした「空」の爽快感ではなかったか。
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