不器用な彼女
第4話
律は学校へは登校時間ギリギリにいくことにしている。
学生で道が混むこともないし、何より早く学校に行ってもすることは無いからだ。
家を出て住宅街を抜け、大通りにでる。学生なんてもう殆どいない時間に、この日は見慣れた姿が見えた。
郁人だ。しかし様子がおかしい。
いつも穏やかで優しい雰囲気を纏っているのに、一人で歩く姿はどこか寂しく近寄りがたく感じる。
様子を見ていた律に気づく郁人。
こちらを向いた彼はいつもの郁人であった。
「おはよう、浅川さん」
「おはよう……今日体調悪い?」
「いや?大丈夫だけど」
当たり前のように郁人が横に並んで一緒に歩き始める。
最近は学生がいないと話してくれると学んだせいか、どこからともなく現れて軽い雑談ならできるような仲になっていた。
さっきのは気のせいだろうか。
ふと郁人をみると、マフラーもしてないし、手は空気に曝されている。今日は特に冷え込むというのに。
「ねえ、手寒くない?」
「学校行くだけだし大丈夫だよ」
手は少し赤くなっていて、見ているだけで寒い。律が薄着の時は、いつも寒くないか聞いてくるのに、不思議な人だ。
律は思わず鞄のポケットをあさり、未開封のカイロを郁人に差し出す。
「はい」
「いいの?」
郁人は受け取ると、包装を開けて握り込み、微笑む。
「あったかいな」
「まだ冷たいでしょ」
「そういうことじゃないよ。君は優しいよね。こんな付き纏ってる僕にまで」
「自覚あって良かったわ」
律とは玄関で分かれ、郁人が靴箱からうち履きを取り出していると、女子生徒が数人近づいてくるのが見える。
それは郁人ではなく、別の靴箱の通路にいる律の方へ向かっていく。
「浅川さん、ごめん聞いても良い?」
「ああ、おはよう。なに?」
郁人が聞き耳を立てる。
「早見君とはさ、そういう感じなの」
「……そういうって」
「お付き合いとか」
数秒して、律が答える。
「私みたいなのに、そんなことあるわけないでしょ。恋愛興味ないし、この成績と生活態度だよ」
「そうだよね」
盛り上がる女子生徒たち。
じゃあ私はいくね、と教室へ向かう律。その後ろ姿はまるで逃げるようである。
『私みたいなの』
その言葉が重く郁人にのしかかる。
自分の中で何か黒いものがあふれ出るようだ。
靴を履いて廊下に出れば、先ほどの女子生徒たち。
「おはよう」
自分でも驚くほど冷ややかな声。そして声をかけた生徒たちにもそう聞こえたようだ。
表情を凍らせて、小さく挨拶が返される。
駄目だな、彼女のことになるといつもの調子が出ない。
郁人は女子生徒たちを一瞥して、教室へ向かった。
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