実現不可能な条件
第2話
肌寒くて、授業中も絶えず眠気が襲う。
高二の冬になると、期末のため自習時間が増える。今日もそれを良いことに、律は膝掛けを枕に目を瞑ったが、思ったより熟睡してしまったようだ。気づいて周りを見渡せば、誰もいない。
体育か。やっちゃったな。
伸びをして、顔を真上に上げれば、思わず目に入った光景に硬直する律。
郁人がこちらを眺めるように見下ろしている。後ろに立っていたようだ。
「なんの用」
「体育だよ。遅刻者を迎えにきただけ」
「あんたのクラスじゃないのに?」
「うん、君がいると思って名乗り出たんだ」
その言葉に思い返される告白。
律が思い出した瞬間、それが分かったかのように目を細めて、微笑む。
「思い出した?昨日のこと」
「だからなんなの」
律の目にかかった前髪を、郁人が指でそっと払う。
「ようやく、君の瞳が僕を映し始めたんだね」
見つめられることに耐えきれなくなり、思わず立ち上がる律。
「本気じゃないよね」
「君を好きってこと?心外だな」
郁人から表情が消える。
「僕は一年の頃から、ずっと君に囚われているよ。まあ君のその人への無関心さじゃ、気が付かなかったかもしれないけど」
「……悪いけど恋愛する気はないの」
教室をさる律。
郁人が髪に触れた瞬間、日常が壊れる音がした。必死に守ってきた私の平和。
『これから君は僕に惚れられているという事実に嫌でも向き合うことになる』
郁人の言葉が思い返される。
律は逃げるように教室から遠ざかった。
教室には律と入れ違いで、郁人の友人である
「あれー、振られちゃった?」
鼻で笑う郁人。
「普通に話してただけさ。どうしてここに?」
「第二体育館に場所変更だって。にしても、郁人が好きだって言うのにすごいよなあいつ」
「……」
「意外と、俺みたいな軽い感じの方がいけたりして」
言ってしまってから、木崎は即座に後悔した。
「は?」
木崎は自分の血の気が一気に引くのが分かる。気づいた時には遅かった。
一筋の光すらない冷酷な瞳が、木崎を見つめている。
「ご、ごめん」
「お前のその粗末な思考回路には、時々本当に呆れるよ」
ゆっくりと木崎の肩に手を置くが、それは優しいものではなく、指が服に食い込むほどの圧があった。
「じょ、冗談だよ!ただ郁人を元気付けようと思って、他にも女子はいるし。本気じゃない」
木崎の背中を冷や汗が伝う。
「喚くなよ、わかってるさ。だって彼女の瞳が僕以外を映したら、僕は何するかわからないから。それはお前も理解してるだろ」
頷く木崎。
その様子をじっと見て、しばらくすると郁人の表情にはいつもの優しさが戻っていた。
手を離す郁人。
「じゃあ、戻ろうか」
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