第一章 Misskey.io

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「君、大丈夫かい?」


 男性の声がする。たぶん近くで話しかけているのかもしれないけれど、僕には遠く聞こえる。耳鳴りと頭痛が頭の中で反響して、視界が判然としない。ようやく目の前がはっきりとしてきたところで、僕が目にしたものは、ひと言でいえば「異形」だった。


 ライトグリーンの肌に、尖った耳と、鼻と、頭。その鼻と頭の先には黄色い球体がくっついた、想像上の異星人のような、でもどこか人を小馬鹿にしたようなデザインの顔。その異形の男(そもそも人間なのか?)が、倒れている僕に話しかける。


「立てるかい? 痛いところは無いかい?」


 ようやく近くに聞こえてきた異形の男の声に、僕はうめきながら身を起こして立ち上がる。もたれかかっていた建物を見上げると、壁一面の大型ビジョンに、メイド服を着たネコミミで青い髪のキャラクターが映し出されている。


「ここ、どこだ……?」


 僕が呟くと、異形の男は首を傾げながら言う。


「君、もしかしてMisskey.ioははじめてかい?」


「Misskey.io?」


 僕が振り向いて訊くと、異形の男はなにかを納得したように言った。


「ようこそ、Misskey.ioへ。このSNSは『街』の姿で君の目の前に現れる。君はMisskey.ioを街で暮らすように楽しむことができる。君の投稿は『ノート』と呼ばれて、皆はそれに『カスタム絵文字』の『リアクション』を飛ばすことができる」


 そう言うと、異形の男は胸の前で両手を揉み合わせる。すると掌の中がムクムクと膨らんで、「ようこそ」と書かれた青い直方体が現れた。


「これが、『カスタム絵文字』。そしてこれがリアクション」


 異形の男は手の中の「ようこそ」を僕に向かって放った。僕が慌てて受け取ると、それは腕の中ですっと溶けて、体に染み込むように消えた。なんだか心が温まるような、不思議な心地だった。


「ここが、Misskey?」


 僕が言うと、異形の男は微笑みながら腕組みしてみせる。


「MisskeyとMisskey.ioは正確には違うんだけど、それは追って説明しよう。私は『小林素顔』。Misskey.ioでぼんやり暮らしている『ミス廃』だよ」


 小林素顔と名乗る異形の男が差し出す緑色の手を、僕は恐る恐る取って握手した。


「井畑アキラです、ども……」


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