ハイウェイ

 夜のハイウェイに轟く雷鳴。

 電磁加速された弾丸が装甲バギーのフロントからリアエンジンまでを貫く。

 水素燃料が爆ぜ、車体を天高く吹き飛ばす。


「いいぞ、レフコス」


 少女の頬を撫でる熱と衝撃波。

 爆発に巻き込まれた1両が横転し、追手の数は4両に減る。


「そいつはどうも」


 次弾を装填するレフコスの頭上を銃弾が掠めた。

 宙賊は雑多な火器を乱射し、アンティーク同然の車に銃火を浴びせる。


「ああっ! ボディに傷が!」

「諦めろっ」


 ヘイスの悲鳴を流し、ヤガミはグレネードランチャーのトリガーを絞る。

 軽快な音と共に弾体が飛び出し、闇夜に紅蓮の華が咲く。

 焔に眼を潰された装甲バギーが側壁へ激突する。


「これで残り3──」


 鈍い衝突音が轟く中、元殺し屋の勘が死を感じ取る。


「ヘイス、右だ!」

「了解っす!」


 即座にハンドルを右へ切るヘイス。


 刹那──光芒が闇を切り裂いた。


 ハイウェイの路面が溶融し、車のボディを焦がす。


「見えてるな、レフコス?」


 ヤガミは先端の焦げた黒髪を払い、装甲バギーのルーフを睨む。

 そこには粒子加速砲、そして驚愕する射手の姿。


「ああ、ばっちりだ」


 再加速の時間など与えない。

 ガウスライフルが唸り、夜のハイウェイを雷が奔る。


 ルーフごと両断される粒子加速砲──閃光が瞬く。


 光華を思わせる爆発が夜空を照らす。

 その下で、なおも距離を縮めんと迫る2両。


「ちっ…しつこいな」


 先頭車両へHEAT弾を撃ち込み、運転席を爆砕。

 硝煙燻らすグレネードランチャーをシートに投げ捨てる。


「レフコス、後は任せ──」

「ボス、弾切れだ」


 最後の1両が迫る中、レフコスの一言にヤガミは目を剥く。

 トランクに弾痕が穿たれ、2人は揃って頭を引っ込める。


「……予備は?」


 首を横に振るレフコスに、小さきボスは経営難を呪う。

 銃撃がボディを叩き、衝撃でドアが歪む。


「そろそろ廃車になりそうっす!」


 猶予はない。


「仕方ねぇ、なっ!」


 歪んだドアを蹴り飛ばし、ヤガミは腰から下げた得物を抜く。


「リアドアがぁ!?」


 開放的になった車の側面から頭と右腕だけを晒す。

 頬を銃弾が掠めようと怯まない。

 ソードオフ・ショットガンの銃口が装甲バギーの分厚いタイヤを睨む。


「くたばれっ」


 トリガーを絞り、銃火が瞬く。


 防弾タイヤの破壊は現実的ではない──本来であれば。


 サイボーグ殺しと呼ばれる非合法弾は、一撃で防弾タイヤを吹き飛ばす。

 装甲バギーが大きく傾き、路面との間で火花を散らす。


「お疲れさん」

「おう」


 突き出されたサイボーグの拳を、少女の拳が叩く。

 それからハイウェイの側壁へ突進していく宙賊たちを見送った。


「生きてるか、お嬢ちゃん」

「は、はい……」


 ヤガミは助手席を覗き込み、護送対象の安否を確かめる。

 ジャケットを大事そうに抱く娘は、五体満足だ。


「廃車確定っす……」


 ハンドルを握るヘイスの消沈した声が、夜のハイウェイに溶けていく。

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