第11話 こんな時でもやってくる~♪

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラッ。


 暗闇の中で乱暴に廻る車輪の音。


 タカタッタカタッタカタッタカタッ。


 石畳を軽快に駆ける蹄の音。


 そして――


「きゃぁぁああああああああああああああああああああああっ!」


 木霊する少女の悲鳴…………。


 

 誰もが眠りに就くを爆走する馬車に文字通り揺られて僕たちはに向かっていた。



 リューゲル森のダンジョン――かつてはと云われるほどに攻略難易度が低い初級者向けのダンジョンだった……。


 そんなダンジョンにわざわざ真夜中から向かっているのにもそれなりに理由があるのだ。



     ○ ● ○ ● ○



ダンジョン?」


 シンディさんとパーティを組むことになった僕たちは彼女が受注してきたクエストについて訊いていた。


「ああ。あたしも冒険者になりたての頃はよく潜っていた場所なのだが、二か月ほど前から行方不明者が続出するようになって、ついには捜索に向かったAランクの冒険者まで帰ってこなかった」

「つまりその原因を究明するのが依頼内容って事?」

「そうだ。あとはさっきも言ったが、ダンジョン・コアを取ってくることと生存者がいれば可能な限り救出することだ」


 なかなか深刻な内容だけど一つ疑問が出てきた。


「Aランクの冒険者が挑んでダメだったのに、なんでDランクのシンディさんが受注できたんですか?」

「そ、ランクそこには触れないでくれ……」


 口を尖らせる彼女が言うには、まずルーヴェルライド王国にSランクの冒険者がいないこと。既にルーヴェイラ在住または拠点にしていたAランク冒険者の大半が行方不明になっており、誰も受注したがらずに放置されていたとか。


「その依頼を受けてきたって事は、シンディさんにとって、ですよね?」

「そうなのだ! 報酬が高いのは勿論、何よりも特例でなんだっ!!」


 なるほど。冒険者剥奪を避ける一発逆転のチャンスが目の前にあるって訳だ。そりゃ、リスクを負ってでも受けるよな。

 僕たち冒険初心者には荷が重過ぎるけど……。


 あ、冒険初心者といえば……。


「僕たちは冒険者の登録はしてますが、なんの準備もしていません」

「む。まさか、武具や最低限の食糧などの物資もか?」

「はい。そもそも僕たちは此処に来たというより、召喚されたのがつい最近ですから」


 シンディさんに僕たちがこの世界に来た経緯を説明すると、彼女は僕たちが登録したばかりのFランクだと聞いた時以上に驚いている。


「どうしました?」

「い、いや。あたしも毎年異世界人が召喚されることは知っているが、その大半は戦もない《ニホン》って国の住人。何よりも、マサノリとヒマリの世界にはと聞いていた」


 だからハゲゴリラwithバカざる三兄弟を返り討ちした所を見ていただけに信じられない、と――人伝に聞いた話と実際に見た光景との差があり過ぎじゃ仕方ないよね……。


「ま、まあ、マサノリはともかくとしてヒマリも?」

「いえ、私は全然です。それに、マサくんが魔法を使えることを知ったのもつい先程でしたから」


 ずっと聞き役に徹していたヒマちゃんにシンディさんが話を振ると、ヒマちゃんはどこか寂しそうでいて羨ましそうに僕を見詰める。


「ヒマちゃん?」

「いえ、何でもありません。それよりもまだいろいろと考えることがありますよね?」


 気になってつい訊いてみたけれど、ヒマちゃんは首を振ってシンディさんへと質問をした。


「マサノリとヒマリの装備に関してはあたしの予備を貸すことができるし、物資の件もあたしは多めに準備しているから問題は……その眼はなんだ? マサノリ」

、ですか」

、だ。まぁ、パーティのメンバー集めをしていたのもあるからな」

「始めからそう言ってれば疑われなかったのでは?」

「う、うるさいな! 疑っているのはマサノリだけだろっ!? ヒマリ、彼は普段からこんな感じなのかっ!?」

「そうですね。基本優しいですけど、私以外には結構毒舌ですね」


 僕が返した言葉に耐えられなくなったシンディさんはヒマちゃんに問い詰め、苦笑いで肩をすくめながら返ってきたその答えに「ああ、そう」ってガックリと項垂れた。

 当たり前だ。僕の優先順位は常にヒマちゃんだからなっ!


「あの、そのリューゲルの森? までは此処からどのくらい掛かるのですか?」


 そんな事よりって感じで項垂れているシンディさんに質問をするヒマちゃん。

 これも大切な事だ。一番重要といっても過言ではない。


 そもそも今回のクエストにはがある。

 初級レベルが推定Sランク級に跳ね上がったことで攻略にどれくらい掛かるのかが不明なだけに移動時間(往復込み)はなるべく短い方がベスト(ちなみに本来そのダンジョンは半日から一日もあれば簡単に攻略できたらしい)。


「此処からなら馬車を使えば半日あれば着く。休憩を挟まなければもう少し早いかもしれないが」

「移動で約一日。ギルドに報告をするには閉まる前に到着しなければ総てが水の泡だから――「怖い事を言わないでくれ!」」


 冒険者生命が懸かっているから怖いのは解るけれど、時間配分を考えなければ……いや、だいたい難易度が上がったダンジョンを攻略出来るかさえ不透明。何なら不可能だと言い換えてもいい。


 それならいっそ――


「「今すぐ〈出るしかないっ!〉〈出発しましょう!〉」」


 同じ結論に至ったヒマちゃんとハモった。



 それからの行動は速やかに進んだ。

 食堂の手伝いをしばらく休む許可をハンナ姐さんから取って、シンディさんの家まで物資と僕たちの装備を取りに行き、既に日も傾いていて馬車を手配できなかった為、彼女の愛馬にリアカー(木造で中央に大きめのタイヤが両サイドに一つずつ付いている)を繋げ代用した。

 リアカーに荷物を運び、僕たちも乗り込んだら、馬に跨っていたシンディさんが足で馬の脇腹を打って即席馬車は走り出した。



     ○ ● ○ ● ○



 あれから走り続けて深夜いまに至る――


「きゃぁああああああああああああああああああっ!」


 深夜であるにも関わらず響き渡るヒマちゃんの悲鳴に苦情が来ないのは、防音の魔法を結界のように馬車の周りに展開しているからだ。


 元は走る馬車の蹄と車輪の音を遮る為に展開していたのだけど、馬が走る動きに連動してリアカーが上下に大きく揺れる。更にアスファルト(完璧ではないとはいえ)と違って石畳は平らではない。上下だけでなく左右にも振動が来て、それが猛スピードで進んでいるのだから……絶叫マシーンが苦手のヒマちゃんが悲鳴を上げてしまうのは仕方がない。

 僕は僕で振り落とされないようにヒマちゃんと荷物を抱えたうえで防音魔法の維持で手一杯、だからとシンディさんに「スピードを落としてくれ」なんて言える訳もなく耐えるしかない。


 ある意味自分の今後の課題が見えてきたことに感謝すると同時に、ヒマちゃんが話を進めたとはいえクエストの同行に早くも後悔した。


 故意じゃなくても、僕たちのイチャイチャタイムを侵した代償は高いですよ。シンディさん?



 ピロリロリ~ン♪


 こんな時でもやってくる~♪ ――って、やってくんなぁああああああああっ!!



   Q・即席馬車絶叫マシーンで二人っきり♡


 だから何だよっ! てかシンディさんもいるんだけど?



    ~  選 択 肢  ~


 解かっちゃいたけどやっぱり無視っ!? 今までもそうだったけどっ!!



1・うるさい彼女をキスで黙らせ続ける(あわよくばムフフな展開も♡)


2・彼女の身包み剥いで目隠しと猿轡で黙らせる(眼福で興奮しない?)


3・この状況を楽しんで怖がる彼女とセッ○ス(征服感があって興奮しない?)


 身包み剥ぐの好きだなっ!? 1がマシな気がするけど――出来るかぁああああああああぁっ!!



 ピコリ~ン♪


 何だよっ!



    ~  補 足  ~


 補足って何だよっ!



 イチャイチャしたいって言ってる割にはヘタレねぇ~♡


 うるせぇええええええええええええええええええええええええええっ!!




 こうして僕はダンジョンに着くまでの間を削られていくのだった。

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