第9話 ゴリラ何様? バカざる三兄弟! そして返り討ち~♪

 あ”? なんてキレてみたけど、もとより冷静なんだよね、コレが……。


 やはりと言うかなんと言うか……。

 使えねえよ……判っちゃいたけど使えないよ。


「改めて訊きますけど……その、姿先程の人たちとえっとは、ハゲゴリラ? さんが向かってくるってどうして解るのですか? 雰囲気だけで怯えてしまい――いえ、マサくんが『来る』って断言するのですから怖いことに変わりはないのですが……」


 僕の袖を引きつつヒマちゃんが口を開いた。

 あ~、ひまちゃんには選択肢コレの存在を知らせてないから(知らせるつもりもないけど)僕が独り言で《奴らが来る》的なことを予言したように映るんだ……。


 さっきも【スローモーション】を見せているからそれについても後で言及してくるだろうし今のうちに――



「やっっっと見つけたぞ! このクソやろ――――っ!!」



 あーあ、思ったより早いご到着で……。


 いつぞやのハゲゴリラを筆頭にさっき絡んできた三馬鹿が僕たちの前に立ちはだかった。


「この前の世話になった礼と舎弟共こいつらが世話になった分もまとめて払いに来たぜ?」

「いやぁ、僕としてはあんなを払って頂きたいのですが?」

「こんのっ! ――いや、んなこたぁテメェの魔法師ごえいに言えや。もっとも、今はいねぇみたいだがなぁ?」


 僕の挑発に一瞬だけ乗り、何故か余裕の笑みを浮かべてそんな事を言い放つハゲゴリラ。そして同調するようにイヤらしいアホづ……笑い声をあげるバカザルども。


 ん? 僕の〈ごえい〉って何のこと?



「ま、マサくん。護衛さんを雇っていたのですか……?」

「いや、あのゴリラが勝手に言ってることだから僕には何とも……」


「うぉいっ! 聞こえてんぞクソやろーっ! っと、取り敢えずテメェの護衛がいねぇって判っている今、取引と行こうじゃねえか?」


 僕たちの会話に勝手にキレて割り込んで、勝手に変な解釈で話を進めて、勝手に取引を持ち掛ける――うん。流石後ろに控えたバカザルたちのボスだ……。


 どう解釈して……ああ、周りに人がいる時に魔法を使ったからどさくさに紛れてその魔法師とやらが僕たちの護衛についているって思い込んでいるのか。

 流石はゴリラ。サルよりも知能がある……まだまだ(考えが)足りないけれど。


 正直、取引の内容も解り切ってんだけどね。このゴリラも後ろのサルたちも同じ要求してきたし……。


「テメェの後ろにいる女を置いて失せな。したら見逃してやらぁっ!」

「「「クヘヘヘヘへッ」」」


 まったくもって予想通りで白けてきたんだけど、流石はゴリラ。サル同様に発情していやがる……置いていく訳ないけど。


 え。毎回イチャイチャしたいって考えている僕も同類って? 何を仰いますか。ヒマちゃんは僕の彼女だよ? 彼氏が彼女とイチャイチャしたいって思うのは当然でしょうっ! ――僕は誰に言ってるのだろう……。


 ま、僕もいい加減こいつらの顔を見飽きたところだし交渉決裂ケンカといきますか(あっちが勝手に取引って言っていたし)。


「いやだ、と言ったら?」

「あ”? 決まってらぁっ――やれっ!」

「「「ひゃっはぁああああああああああああああっ!!」」」


「きゃあああああああっ!」


 僕の質問ことばがトリガーとなってハゲゴリラがキレて命令を下すとサル共が飛び掛ってきた。予想通りの展開の上でヒマちゃんを怖がらせた罪はきっちり償ってもらう!


「「「ぐわぁああああああああああああああああっ!?」」」

「なっ!? 護衛の魔法師はいねぇんじゃないのかっ!?」


 瞬時に火達磨になって苦しみだすサル手下共に驚愕の声で叫ぶゴリラボス

 だからなんで魔法師ごえいがいるって思うのか……。

 仕方ない、このゴリラにもわかりやすく教えてあげようか。


「これでも魔法師ごえいがいるとでも?」

「て、テメェ……魔法師、だったのかっ!?」


 掌に火球を顕現させると、ハゲゴリラは面白いくらいに蒼褪めた。


「クソったれが……!」


 勝ち目がないと判断したのか、ハゲゴリラは捨て台詞を吐いて逃走しようと体を反転させ――


「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 火達磨になって藻掻き苦しんだ。


「ま、マサくんっ! このままだと、わたしたちが捕まっちゃいますよっ!?」

「ヒマちゃんは優しいね。大丈夫。すぐに消すから」


 おろおろと火達磨たちを見つめるヒマちゃんに僕は笑顔で答えて、


「うるさいっ!」

「「「「ぐぅっ! ぐぼっ!? がば、ぐぅぼぉっ。ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?」」」」


 四匹の火達磨たちをひとまとめに大きな水球に閉じ込めて約束通り消した。……代わりに溺れかけているようだけど、まぁいいか。


「じゃ、そろそろ帰ろうか。ヒマちゃん」

「えぇっ!? せ、せめて気絶するだけにしてあげた方が……」

「本当にヒマちゃんは優しいね。僕の彼女なんだから僕だけに優しくして欲しいなぁ」


 不安がってるヒマちゃんの耳元で囁くと「バカぁ……」って真っ赤になて懐に引っ付いて身悶える。やっぱり可愛い。


 そんなヒマちゃんを愛でつつ水球の中で溺れ気絶した連中を開放し、風魔法で運び顕現させた十字架に個別で磔にしていく。


「さて仕上げに入ろう」

「あの、マサくん? いやな予感がするのはわたしだけでしょうか……」

「否定はしないからヒマちゃんは見ないように」

「…………」


 冷たい視線を感じるけれど気にしない。

 また襲撃されたらめんどくさいからね。


 ビビィッ! ビリビリビリビリィッ! ズバババババァッ!!


 服だった布切れが散乱する中堂々と存在する十字架に磔された四つのサルばし――人柱(全裸)。

 名付けて、イ○ス・キ○ス○の刑。


「じゃあ、ヒマちゃん。逃げるよっ!」

「えっ!? ま、マサく……えぇええええええっ!」


 いつまでもこんな所にいる訳にはいかないからね。

 幸い人気が無い場所だったのをいいことに、僕はヒマちゃんの手を取って人目が付かないうちに二人で離脱するのだった。



    ※



「本当にマサくんは鬼畜なんですから……」

「正直自分でも驚いてる」


 なんだかんだで僕たちはあれから【リベル亭】のテーブル席に座って休んでいた。


「それにしても、マサくんは魔法が使えたのですね」

「うん。なんで使えるようになったのかは不明だけど、ヒマちゃんを護れるようになれて嬉しいよ」

「マサくん♡」


 ヒマちゃんに魔法が使えることがバレ(あれだけ使いまくってたらね)、その経緯を簡単に話して彼女ヒマちゃんを護れる喜びを口にすると、ヒマちゃんは頬を染め僕を見詰めた。



 誰もいない店内。


 向き合いお互いに見詰め合う二人の男女。


 甘い空間が、告白以降求め続けた夢のシチュエーションが今ここに!


 どちらからともなく抱き合いゆっくりお互いの顔が近づいて――



 ピロリロr――カランコロ~ン♪


 またし……いや、これは――



「あ、す……すまない! いい雰囲気の所を……」

「「――っ!?」」



 毎度の選択肢の着信音? を遮ったドアベルの音に思い至る前に知らない声が聞こえ、僕たちは飛び上がるようにお互いから離れた。

 なんかデジャヴ……。


 更に――


「なんだい騒がしいねぇ」


 二階うえからハンナ姐さんまで下りてきた。


 ど、どうしていい雰囲気になったらこう……。


「おや、シンディじゃないかい。久し振りだねぇ!」

「あ……は、ハンナ姐さん。ご無沙汰してます」


 おお、僕以外に姐さん呼びする人がいるとは――じゃなくって!


 急な来訪者に目撃され恥ずかしがって僕の背に隠れたヒマちゃんは一旦置いといて、内心落胆しながらハンナ姐さんと会話するその人物を見る。


 革の鎧を身に付けたショートヘアの凛々しいいかにも冒険者といった女性。


「さ、先程は本当にすまないっ! 決してワザとではないのだっ!」


 僕の視線に気づいた冒険者(らしい)の女性が再び謝ってきた。


 誠心誠意謝ってくれるのはいいんだけど……、


「なんだいなんだい? 何か面白い事でもあったのかい?」


 僕はともかく、今のヒマちゃんの状態とこの女性の言動から疚しい事をしていなくてもことは明白な訳で……。



 こうして、ハンナ姐さんにここまでの経緯を吐かされる羽目になった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る