第8話 いやぁ、魔法って便利だよね。

 異世界に飛ばされてからハンナ姐さんに拾われ、ルーヴェイラ随一の食堂【リベル亭】で住み込みで働き出して七日目。

 

 今日は待ちに待った定休日で念願のヒマちゃんとまったりねっとりイチャイチャできる日……ではなく、ルーヴェイラの観光を兼ねた買い物に出かける予定だ。

 目的として、生活必需品と余裕があれば冒険に必要なものを調達することになってる。衣類に関してはそれぞれハンナ姐さんの旦那さんと娘さんのお下がりを貰ったのでその分を他に回せるのは大変ありがたい。


 そして本日の軍資金は今までの給金総額(二人分)の3万ヴェイラ(日本円で30万円)。


 最初は日給1千ヴェイラの約束だったけれど、この世界では珍しい味付けで尚且つ美味しいことが噂で流れて連日の満員御礼。気を良くしたハンナ姐さんが3千ヴェイラと給料を上げたのだった。


 姐さん太っ腹!


 まあ、その分【リベル亭】での仕事はハードで、とにかく仕込みで大量にストックを作っておかないと間に合わない上に二人だけで調理と洗い物を回していかないといけないのだからまさに戦場。


 更に初日のハゲゴリラのような客からヒマちゃんを護らないといけない僕は営業中はを常に発動していた。


 精神的疲労は半端ないけれどヒマちゃんを害虫から護れるのなら安いものだ。


 ヒマちゃんにちょっかいを掛けようとする輩をもあの手この手で妨害してきた。


 いやぁ、ほんと魔法って便利だよね。



「お待たせしましたマサくん」


 仕事中の奮闘を思い出していたところで準備を終えたヒマちゃんが部屋から出てきた。


 うん、異世界の服でも可愛く着こなすヒマちゃんはやっぱり天使。


「それじゃ出かけようか」

「はい」


 僕たちは手を繋いでルーヴェイラの街に繰り出した。


    ※


 賑わう街中で最初に入ったのは服飾店。


 お下がりを貰えたといってもヒマちゃんはやっぱり女の子。異世界のお洒落に興味津々のご様子で瞳を輝かせている。

 僕としては異世界どころか元の世界のお洒落ですらあまり興味はないんだけど……とあるコーナーの商品を死んだ魚のような目で見つめていた。


「うわぁ、現物をと本当に色気もへったくれもないなぁ……」


 そこには男性用と女性用のが一緒に陳列されていた。


 男性用は単色のトランクスタイプで要は普通。

 それに対して女性用は上は向こうで言うタンキニ(タンクトップタイプのビキニだっけ?)で、下はショーツではなく厚手のブリーフタイプでこんなので男が興奮するのか甚だ怪しい。


 そんな色気もない下着コーナーを後にしてヒマちゃんの下へ行ってみれば、


「お客様にはこちらのお召し物が大変お似合いです」

「いえ、こちらがお客様の魅力をより引き立てると思います」

「あ、あのわたしは、その……」


 何やら二人の女性店員からそれぞれの衣装を勧められて困惑している。


 う~ん、店員として商品のセールスするのは当たり前なんだけど、ああいう類は立ち止まったが最後、折れるまでくらいついてくるピラニアみたいなものだ。


 このままではイチャイチャする時間が減って困る(とれるかは未定)。


 考えるより先に僕の足は動き、


「ちょいと失礼」

「「「あ」」」


 間に割って入りヒマちゃんの手を取ってさっさと店から出た。



「す、すみませんマサくん」

「あれは断り切れないから強引にいくしかないからねぇ……」


 それから取り敢えず雑貨屋でちょっとした日用品を買っているうちにお昼になりこの世界で初めての外食をするため適当な店を探していると、


「よう兄ちゃん。いい女連れてるなぁ」

「俺ら今カワイ子ちゃん探しててさぁ。その子譲ってくれねぇ?」

「金なら幾らでも払うし――え、ただで譲ってくれるって? いやあ、悪いなあ」


 僕らの前に突如湧いてきたガラの悪い三人組が勝手に話しかけ、勝手に話を進め、勝手に完結してヒマちゃんに手を伸ばしてきた。


「汚い手でヒマちゃんに触らないでくれます?」


 伸ばされた手を叩き落とした。


「あ”? 何か文句あるの?」

「今ちゃんと交渉しただろう?」

「怪我する前にその子置いてとっとと失せろよ!」


 何なんだこいつら? 低俗過ぎて溜息が出そう……。


 「なんだぁ、その面はぁ!?」

「「いい度胸だなぁっ! あ”ぁん?」」


 顔に出ていたらしく連中がキレだし、ヒマちゃんが怯えて僕の背に隠れる。

 そして僕たちの周りいた人たちはそそくさと離れていく――って冷たっ!


 え~、なんか薄情過ぎない?

 まぁ、別にいいんだけどね。


「そんなに女に飢えてるんなら娼館に行けば? それか奴隷商で買ってくるなりすればいいんじゃない?」


「はっ! この辺の娼館は貴族様専用で手が出せねえんだよ。それよか他人の彼女を奪う方が手っ取り早くて優越感に浸れるんでな」


「う~わ~、クズですね……」


「「「ぶっ殺すっ!!」」」


 いつぞやのハゲゴリラ宜しく、三人同時に襲い掛かってきたけれど――


「え? こ、これはどうなってるのですか……?」


 連中のスピードが急にゆっくりになったことでヒマちゃんが困惑の声を上げた。

 

 とにかく説明は後だ。


「ヒマちゃん。悪いんだけどそいつの体をこっちに向けて」

「えっと、わかりました。……す、すごく軽いですっ!?」


 ヒマちゃんでも動かしやすいように軽量化していたのですぐに男の向きを変えることができ、その間に僕は隣のヤツをさっきの男と向き合うように調整すれば準備は完了。


「あ、あのこれはどういう……」

「見てれば判るよ」


 訊ねてきたヒマちゃんに軽く答えて、その二人のを解除すれば――


「「へぶぅつ!?」」


 見事なクロスカウンターが決まりダブルノックアウト! うわぁ、イタそ~。


 さて最後の一人は股間を蹴り上げると同時に解除――結果、白目を剝きながら吹き飛び気絶した……失禁のおまけつきで。


 いやぁ、ほんと魔法って便利だよね(二回目)。


「ま、マサくんって、たまに非道ですよね……」

「そう? 僕にとってはヒマちゃんが一番だからは苦じゃないよ」


 ドン引きのヒマちゃんに笑顔で答えると更に引かれた。解せぬ……。


 

 そんなトラブルもありつつ昼食を済ませ(薄味過ぎて物足りなかった)僕たちは一度冒険者ギルドへ足を運んだ。


「いらっしゃいませ」


 受付嬢が愛想のいい笑顔で迎えてくれた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 お決まりの定型句を聞いて少々感動しながらこちらも冒険者登録をする旨を伝え、簡単な手続きと登録料を支払い僕たちは冒険者となった(まだ【リベル亭】の仕事がメインだけど)。


「なぜ冒険者登録を今したのですか?」


 冒険者ギルドを出てすぐにヒマちゃんに訊かれて僕は自分の考えを話す。


「今はハンナ姐さんの所でお世話になっているけど、僕たちの目標はあくまで聖虹石を集めて元の世界に帰ることだよね?」

「はい」

「他国に入国する際は今っ持っている許可証があれば簡単にできるらしいけど、各地のダンジョンや危険地帯への立ち入りには冒険者の資格が必須って王様が教えてくれたんだよ――って、今のうちに登録したのはすぐに旅立てるようにするためだよ」

「確かにすぐに出発できる方がいいですよね」


 ヒマちゃんも納得してくれたようで何より――



 ピロリロリ~ン♪


 だからなんでお前は唐突に出てくるんだよ……。



   Q・いい雰囲気? なお二人さんに迫る不穏な影! さあ、どうするぅ。


 不穏な影? とにかく最近お世話になっているで――


「げっ! ハゲゴリラにさっきの三馬鹿ッ!?」

「えっ。そ、それって……」


 僕がで確認したのは前方から向かってくるいつぞやのハゲゴリラと、さっき絡んできたばかりの三馬鹿野郎たちで……こいつらの目当てはおそらく、


「僕への復讐とヒマちゃんを攫うこと……じゃない?」

「そ、そんな……どうしましょうマサくん」


 僕の推測(多分当たっている)にヒマちゃんが蒼い顔で怯える。


 選択肢こいつが役に立つ確率なんて1%未満だぞ……。



    ~  選 択 肢  ~


1・大人しく彼女を連中に差し出して逃げる。


2・大人しくサンドバッグになって彼女を渡さないよう交渉する。


3・大人しく彼女の着ぐるみを剥いで連中に差し出して一緒にまわす。





 ………………………………………………………あ”?

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