第5話 こんな冒険は――にゃんにゃん♡ じゃねぇええええぇっ!!

「そろそろ落ち着いたかい? お二人さん」

「「はい。すみませんでした……」」


 なんだかんだで冷め切ったお茶を淹れ直してくれたハンナさんに僕たちは縮こまって返事をした。

 未だに体中が熱いのはハンナさんが茶々を入れ……いや、僕の大自爆がそもそもの原因で、その被害者であるヒマちゃんは涙目で赤面のまま俯いている。


「まあ、アタシもからかい過ぎたし悪かったね」

「いえ、その先程の痴話喧嘩の話というのは?」


 確か僕が「彼女を売るなんて――」ってキレていたのを見て痴話喧嘩中のカップルを思い出したとか。


「ああ、あれはアタシが買い出し中に商業ギルド前で二人の男女が揉めていてねぇ」


 商業ギルドって事は、彼女の)訳ね……。


 違う理由かも知れないからその彼が鬼畜なのかどうかは――


「それがねぇ、お金が足りないからって彼女の服を売ろうとしてたんだよ。それも公衆の面前で強引に脱がそうとしてね。信じられるかい?」


 バリバリの鬼畜だった……クソが!


「し、信じられません。それから、どうなったんですか?」


 ヒマちゃんも怒りを覚えたようで、顔は赤いままでも真剣に話を聞いている。


「野次馬の野郎どもはやいのやいの騒いで女は恥ずかしがって見ないふり。アタシゃ見ていられなくなって問答無用で二人をウチまで引っ張って事情を訊いたのさ」


 男の方は「よりは英断だったと感謝するべきだ!」と宣い、女の方は「彼女を売るなんてあり得ない! お金を稼ぐならアルバイトとかいろいろ方法があるでしょ!!」と強く反論していた、と。


 ……男の言い分は間違いなく選択肢アレが元凶だよな。

 それでも彼女(の服)を売る……ましてや公衆の面前で剥こ……脱がそうとするなんて神経がイカレてるとしか思えない。


「とりあえずウチで住み込みで働きなって、二人を泊めることにしたんだ」


 ハンナさん。いや、ハンナ姐さん! 僕たちもここで……――いやいやそれは話の後で……もし泊めてもらえたらそう呼ぼう。


 脱線した……。


「それで二人はどうしたんですか?」

「嬢ちゃんの方は一生懸命働いてくれてねぇ。客連中からは『看板娘』なんて慕われてたよ」

ですか」

「そうそう。嫁いじまったけど、アタシに似て別嬪べっぴんの娘がいたのさ」

「「…………」」


 微妙な反応の僕たちに構わず豪快に笑いながらハンナさんは続ける。


「それで男の方はどっかでサボって夜に帰ってきては嬢ちゃんと揉めていたね」

「最低の人ですね」


 僕も同じ気持ちだ。


「それで、そのあとは?」

「一か月後に嬢ちゃんは常連のイケメンと駆け落ちしちまって『このお金は受け取れません。こんな形でごめんなさい。今までありがとうございました』って手紙と日払いしていた給金全額置いてさ」


 懐かしむようで寂しげな目で話すハンナさんに僕たちはどう声を掛ければいいのか――


「まあ、嬢ちゃんが出て行ったあとの男が未練たらたらで悔しがっていたのは傑作だったよ」


 おぉ、ハンナ姐さ~ん……。


 それにしても彼女に未練たらたらっていうのは意外……――


「こう『あん時あいつを奴隷商に売り払っておくべきだった! チキショウッ!』てねぇ、あっはっはっは!」


 やっぱりクズだった……同情する価値もなし。


 僕たちがその男に呆れているとハンナさんは急に真面目な顔になって、


「その三日後だったよ。あの男がのは……」

「「えっ……?」」


 驚愕のカミングアウトに固まってしまった。


 え? 炎で焼かれ……って、えぇ? のちには僕も? えぇえええええええええええぇっ!?


 その男に降り掛かった禍は下手すれば訳で――


「え、えっと……そ、そのっていうのは……?」


 生唾を飲み込んで恐る恐る訊ねた。


「アタシも直接見たわけじゃないけど、なんでも前触れもなく男が急にって話さ」


 なにソレっ!? つまりって事っ!? メッチャこっわ!!


 そんな恐怖エピソードを聞いているうちに日が暮れて行く当てのない僕たちは、ハンナさんの提案を受けてあのカップルと同じように住み込みで働くことになった。


 もちろん僕は働きますよ? ここから旅立つまではの忠実な犬……は冗談として、誠心誠意働く所存です(原因不明の炎に焼かれたくないからね!)。

 ヒマちゃんだって見知らぬイケメンに誑かされて駆け落ちなんてしないっ! ……はず。…………しないよねっ!?



    ※


「つ、疲れたぁ……」


 あれからハンナ姐さんが振る舞ってくれた夕飯を食べ、ヒマちゃんと交代でお風呂に入り――割り当てられた部屋のベッドに倒れ込んだ。


 高校の体育館裏で告白をしてヒマちゃんと恋人同士になれた、と喜んでいたのに得体の知れない黒猫に異世界へ飛ばされ、王様とサシで話しているうちに気に入られたり、行く当てがなくひと悶着? があってハンナ姐さんに拾われる(明日からは食堂ここの従業員として働く予定)。

 振り返れば本っっっっっ当に濃い一日だった……。


 そして、当然人様の家で厄介になっていく以上ヒマちゃんとのイチャイチャも当分先までお預けなわけで――


(ぅぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!)


 うつ伏せで枕に顔を埋め声なき声で吼えた! ――――虚しい……。


 こんなささくれ立った僕の心を誰か癒してほ――



 ジャジャジャジャーン♪ ジャジャジャ……――ピコリ~ン♪


 何で『運命』っ!? てか、なんで強引に切り替えたっ!



  ~  警 告ルール  ~


 ぅおぉいっ! 『警告』と書いて『ルール』って物騒だなっ!!



1・この世界に散らばる聖虹石を集めてあなたの世界に二人で帰還出来たらクリアです。


2・途中リタイアして二人でこの世界で暮らすのもアリです。(トキョー将国しょうこくがおすすめ☆)


3・彼女の心があなたから離れて間男(モンスターや触手etc.も同様)と合意の下ずっこんばっこん♡にゃんにゃん♡♡♡ してしまったらゲームオーバーであなたは世界から消滅します。(消滅方法はハンナ姐さんから聞いた通りです♥)


「ぶっふぉぉっ!?」


 な、なななな、なんだってぇえええええええええええええええええええぇっ!?


 か、彼女が、他のお、男……ってか、も、モンスターや触手とせ、セッ●スしたら消滅ぅっ!?

 そういえば駆け落ちした女性はつまり……そういう事かぁ。

 ま、まぁ消された男に同情するつもりはないけれど、ヒマちゃんが――って考えたら……。



 ピコリ~ン♪


 人がショックを受けているときに何っ!?



   ~  追 伸  ~


 あくまでであって、それなくしてずっこんばっこん♡にゃんにゃんにゃん♡♡♡ していたとしても、あなたは世界から消滅しませんので御安心下さい。


 御安心出来るかぁあああああああああああああああっ!?


 おちょくってるよねっ!? 絶対におちょくってるよねぇええええええっ!!



 ピコリ~ン♪


 なんだよっ!?



   ~  追 伸 2  ~


 いやぁ、それほどでもぉ。


 もう消えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!



 ピコリ~ン♪


   ~  追 伸 3  ~


 ハイハイ……。


 二度と出てくるなぁああああああああああああああああああっ!!



 ピコリ~ン♪


   ~  追 伸 4  ~


 それは、ム・リ・だ・よ。マサくん♡


 う、ウゼェえええええええええええええええええええええええっ!!


 何で僕は選択肢コレ(通信モード?)と意思疎通して疲れないといけないんだ……。


 とにかくだっ! 警告ルール通りであるのなら、僕はヒマちゃん(主に貞操)をこの世界のから護り抜かなければならないっ!!

 告白した時、否! その前からヒマちゃんは誰にも渡さないと誓った(ヒマちゃん本人は知らない)!!


 だとしても、まだ始まってすらいないけれど――



 こんな冒険はイヤだぁあああああああああああああああああああああぁっ!!


 僕はただ、ヒマちゃん幼馴染みと――



 恋人同士になってイチャイチャしたいだけなんだぁあああああああああああぁっ!!




 なんで邪魔ばかり入ってくるんだよぉ~~~~…………。







------------------------------------------------------------------------------------------------    



 この度、当作品『ボウイヤ・コイイチャ(『るいきゅう!』の時にタイトルミスしました)』が週間ランキング入りしました。

 順位はともかく……皆様の応援のお蔭です。本当にありがとうございます!



 変わらぬ応援を続けて下さる M様をはじめ――


 ☆をくださった M・R様。


 同じく☆をくださった N・N様。


 同じく☆をくださり、当作品をフォローして下さった B・T様。


 当作品をフォローして下さった R様。


 同じく当作品をフォローして下さった A様。


 同じく当作品をフォローして下さった T様。


       本っっっ当にありがとうございますっ!!



 これからも変わらないご声援をお願い申し上げます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る